史上初の無観客開催の本場所。

 長い15日間が無事に終わったね。

 世界的にいろいろなスポーツが延期や中止になっているなか、日本の大相撲をアピールできることにもなり、結果的にはよかったこともある。力士だけで600人以上で、関係者を含めると1000人ちょっとはいるんだ。誰も感染することもなく、これはすごいことなのかもしれないね。

 でも、正直言ってものすごいストレスの毎日だった。

 番付発表後から約1カ月間、後援者との会食などもみんな断って、ずっと宿舎から出ずにいたんだ。やっと十四日目に出前でお好み焼きとたこ焼きを――大阪のソウルフードを食べたよ(笑)。

 僕の職務は監察委員で、いつもは天井近くの小さな部屋で相撲を見ているんだけど、今場所は2階席から見ていたんだ。無音でシーンとしていて、やはり違和感はあったな。お客様の大切さも身に染みたし、すべての雰囲気も生活も違うなか、力士たちはよく頑張ってくれたと思うよ。

朝乃山は「腕がいやらしい人」になれ。

 そんななかでも、朝乃山が大関昇進を決めて、明るい話題をもたらしてくれたな。

 力は充分にあると思うけれど、あとは“技”だよ。僕も右四つだったし、朝乃山もそう。まだ腕の使い方や手首の使い方がうまくないんだ。

 まわしを取ったままではダメなんだよ。そこから手首や腕(かいな)を返したり、まわしを浅く取ってみるとか、“腕の技”を身につけなきゃ。

 僕は「腕がいやらしい人」という言い方をしていたんだけれど、器用で自由自在に腕を動かせる人は相撲が巧いの。今で言えば白鵬がそうだね。かつては貴乃花もまわしを取ったあとに差したり切ったりと自由自在だった。千代の富士さんだって、前みつ取ったあとにすぐに次々と技が出ていたでしょ。「腕のいやらしさ」を身につけていったらいいと思うよ。

白鵬は右足が相当悪いのかな?

 大関に昇進するからには、今以上に頑張らないと。

 なってからが大変なんだよな。今の倍以上稽古して、最近の大関――カド番繰り返してばかりだった先輩たちみたいにならないようにね。

 両横綱が休場を繰り返して、衰えが見え隠れするなか、大関はひとりだけだったし、ここで朝乃山が新しい風を吹き込んでくれた。

 焦らなくていいから、横綱も狙ってほしいな。期待してるよ!

 最後は白鵬と鶴竜が、ひさしぶりの横綱相星対決で最後を締めてくれた。ただ、白鵬の十二日目の正代戦は、もういっぱいいっぱいだということを示してたね。

 立ち合いから張っていって、その後もバタバタと張ってばかり。だから脇が空いて二本差されちゃったんだ。今までの白鵬だったら、立ち合いからの流れもよく、次の技が出て来ていたはずなのにな。

 横綱土俵入りの足の運びを見ても、右足が相当悪いのかな? 土俵入りの最初、今までは俵にかかとを掛けて蹲踞していたけれど、最近は違っていたね。俵を踏まず、土俵の内側に足をつけてやっていたもの。

「オリンピックまで綱を張るのを目標にしてる」と耳にしたけれど、もしオリンピックが延期になったら、それまでもたないんじゃないか? いろいろ悩むだろうけれど、横綱というのは“引き際”も大切にしないとね。その点、鶴竜にも言えることだけど。

貴景勝は、まだ「大関の体が出来てない」。

 大関の貴景勝は負け越しか。

 今場所が厳しかったのは足を見てわかった。ちゃんと治しとかなきゃ。ケガが多いのは体が硬いからでもあるんだけど、まだ「大関の体が出来てない」こともあるんだ。

 運や流れでパッと昇進してしまうと、やっぱり苦労するもの。これからはケガしない体作りをしていかないと、長持ちしないぞ?

褒めたいのは三賞を受賞した隆の勝。

 優勝争いを盛り上げてくれた碧山だけど、今場所は前に前に出て、体をいかした強さがあったね。でも、彼の悪いところは、我慢できないところ。200キロ近くあるあの体で引くなんて、恥ずかしいと思わなきゃ。

 なんだか今場所も辛口の僕だけど、褒めたいのは12勝して初の三賞を受賞した隆の勝。当たって一気に前に出る、迷いのない取り口の相撲だね。いいものを持っているし、これからは上位陣を相手にガンガン暴れて、新しい風を吹かせてほしいな。

 昔から「荒れる春場所」と言われているけれど、今場所は世界中が荒れて、大相撲も開催か中止か、それ自体が荒れてしまっていた。

 でも、こうして無事に千秋楽を終え、また違った形で大相撲の魅力が伝わったかも。

 とにかく、みんなよく頑張った!

 今後も新型コロナにはじゅうぶん気を付けて、お客さんに喜んでもらえるよう、来場所のために稽古だよ。

(「武蔵丸の辛口御免 Oh!相撲」武蔵川光偉 = 文)