WBC世界ライト・フライ級チャンピオンの寺地拳四朗(BMB)が防衛テープを7まで伸ばしている。最近の安定した戦いぶりを見ていると、具志堅用高氏が打ち立てた世界王座の連続防衛日本記録13を抜く可能性は大いにあると言えそうだ。

 一方で、それほどの実力者でありながらも、拳四朗というボクサーの魅力が多くの人に届いているとは言い難い。

「自分のボクシング、絶対に一般受けはしないと思いますね。派手なわけでもないですし、淡々としているというか、負けるリスクを極限に減らした戦い方ですし。なかなか伝わらないのかな、と思います」

 本人の言う通り、拳四朗は全身から殺気を醸し出して相手に襲い掛かるわけでもなく、手に汗を握るスリリングな打撃戦を好むわけでもない。制服を着てしまえば高校生で通りそうな風貌と、柳のようにふわふわとした語り口も手伝い、万人が抱く「強い」というイメージからどうしても離れがちだ。

体の強さを生かしたアウトボクシング。

 しかし、せっかくの素晴らしい力を持っているのに、それが伝わらないのは「もったいない!」ということで、拳四朗の強さの秘密を解き明かすのが本稿のテーマである。

 まずは1年半ほど前から本格的にタッグを組む三迫ジムの加藤健太トレーナーに話を聞いてみた。意外なことに、最初に出てきた答えは「体の強さ」だった。

「ボクも最初、拳四朗は体が弱いと思っていたんです。横からちょっと押したらグラッとなるような。そうしたらものすごく体が強い。相手に押し負けないし、動いてパンチを打っても体がブレない。軸がものすごくしっかりしている。驚きました」

 この体の強さを生かして拳四朗はアウトボクシングをする。細かくピョンピョン跳ねるようにフットワークを刻み、素早く出入りを繰り返してジャブやボディブローをコツコツと当てていく。相手のパンチはバックステップで徹底して外す。ブロッキングやボディワークはあまり使わない。

「相手の体の芯を触る」パンチ。

 勝利へのシナリオは明確だ。

「相手を疲れさせるということですね。だから前半から速いテンポで攻める。そうすると相手はついてこられないか、たとえついてきても後半になれば絶対に落ちる。僕は同じペースで最後までいけますから。

 だからクリンチもダメですね。あれは相手に楽させて、自分も楽してるだけです。最初にがんばって、相手を疲れさせないと。先行投資ですよ」

 いくら速いテンポで攻めて試合を優位に進めたとしても、パンチが弱ければ相手は倒れず、結果は大差判定勝ちだ。ところが拳四朗の場合、あまり強いパンチを打っているように見えないのに、多くの試合で相手を仕留め切っている。

 加藤トレーナーはもう1つの強みを「相手の体の芯を触るのがうまい」と説明した。

「相手の体の真ん中、体幹を打つことができる。重心とはまた違うんですけど、よけようと思ったらバランスを崩すし、よけなかったらパンチをもらう、というところです。逃げられないところと言うか。そこをとらえる感覚が抜群です。おそらく天性のものでしょう」

「他人の肩とか体のはじを手で押したら力が逃げるじゃないですか。でも真ん中を押したら後ろに押し込めますよね。そういうことです」。こちらは拳四朗の説明だ。

カメラマンが驚くボディ打ち。

 体の強さと芯をとらえる感覚の融合が、独特なボディ打ちに表れている。拳四朗はボディブローでノックダウンを奪う試合が多い。

 世界のスーパースターを撮影し続けてきたボクシングカメラマン、福田直樹氏はかねて拳四朗のボクシングに注目していた。中でもボディ打ちには驚かされたという。

「普通、ボディを打つときって体が沈んだり、膝を曲げたりするものですが、拳四朗選手の場合は、顔面に打つパンチとほとんど同じフォームでスッとボディを打つんです。相手はまさかボディにパンチがくるとは思ってない。だから効くんだと思いますね」

 軸がしっかりしていてバランスがいいからこそ、無理のない自然体でパンチを打つことができる。それが速いテンポで、逃げ場のない"真ん中"にくるのだからたまらない。だから相手はもんどり打って倒れるのだ。

「たぶんブレてへんから力が逃げないんだと思います。パッと見、強そうに見えるパンチって意外と力がどっかに逃げてるんじゃないですかね」(拳四朗)

「誰とやっても負ける気はしない」

 福田氏は拳四朗の強さを「ソリッド」と表現した。「固体」、「中身が詰まった」という意味で、硬いパンチに「ソリッド」という表現が使われることもある。「すごく詰まっているというイメージなんですよ」とは福田氏だ。

 少年のような笑顔と、一時代名詞となったダブルピースは、拳四朗の親しみやすいキャラクターをアピールした一方で、このボクサーの本質である勝負師としての素顔や、鍛え上げられた肉体の強さ、技術の高さに目を向けにくくしたようにも思える。

「今のボクシングをしていたら誰とやっても負ける気はしないですね」

 硬派で「ソリッド」なチャンピオンは自らのボクシングにゆるぎない自信を持つ。目標とするV13に向け、その勢いは止まりそうにない。

(「ボクシング拳坤一擲」渋谷淳 = 文)