4月5日にフロリダ・タンパで予定されていたプロレス世界最大の祭典であるWWE「レッスルマニア36」(タンパベイ・バッカニアーズの本拠地レイモンド・ジェイムズ・スタジアム=6万5890人収容)はその姿を大きく変えることになった。

 理由はもちろん新型コロナウィルス(COVID-19)の世界的広がりだ。WHOのパンデミック宣言で大会の中止あるいは延期は必至だろうと予想されていた。

 NBAは試合の中止をいち早く決め、MLBも開幕を最低8週間ということで遅らせた。人気の学生スポーツNCAAの競技もストップした。

 プロレス団体では、AEWがスケジュールを組み直せるところは7月などにずらした。

 WWEは予定されていた「マンデーナイトロー」、「スマックダウン」、NXTの興行をすぐキャンセルして、試合をトレーニング施設であるWWEパフォーマンスセンターに移してテレビマッチに切り替えていた。

経済効果は約175億円とも……。

 巨額なマネーを生むレッスルマニアはホストシティであるタンパ市にとっても経済的に魅力的だった。昨年、ニュージャージーで行われたレッスルマニア35の経済効果は1億6500万ドル(約175億円)とも言われている。コロナウィルス危機の中、双方は開催に向けて方法を模索していた。開催を秋に移すという選択肢も検討されたという。

 だが、新型コロナウィルスの収束は7月とも8月とも不安視される中、見えない敵と戦うために新しい日にちをカレンダーを組み込むことには慎重にならざるを得なかった。

 トランプ大統領は「国家非常事態宣言」を発令して、欧州からのフライト、入国を禁止あるいは制限し、多くのスポーツイベントの「8週間停止」を命じていた。カナダとの国境も閉ざした。

 アメリカ疾病予防管理センターは50人以上の集会の中止を勧告し、さらにトランプ大統領は「10人以上は集まらないように」とスピーチした。

豪華セットを組んだテレビマッチを!

 このような状況ではレッスルマニアを開催できるわけがない。レッスルマニアは関連イベントを含めて世界90の国から約9万人がタンパを訪れると言われていた。無観客にしたところでスーパースター(選手)だけでその10倍の数になってしまう。

 ついにタンパ市は「レッスルマニアとその関連イベントはタンパベイで開催されない」と発表した。

 そしてWWEは「ローカルスポンサーと市当局と協議した結果、開催予定だったレッスルマニアとその関連イベントはタンパベイでは行われない」と公式に発表した。

 だが、これはレッスルマニアの開催「決行」を同時にアナウンスするものでもあった。

 タンパのスタジアムでの開催はなくなった……が、その代わりにフロリダ・オーランドのWWEパフォーマンスセンターからペイパービュー(PPV)とWWEネットワークでの生中継をすることにしたのである。

 その試合はセンター内にセットを組んで、セット内は必要最低限の人数だけで世界に届けられるという。

1980年代のテレビマッチは酷かった……。

 先日、結果的には開催されなかったが、3月18日に予定されていたサッカーUEFAチャンピオンズリーグのバルセロナvs.ナポリは無観客試合の条件として、10万人入るカンプノウ・スタジアムの中に入れるのは選手を含めて250人までと保健省から言い渡されていた。

 それほどみんなピリピリしている現状だ。WWEが大きなスタジアムで無観客で試合を行えばイメージ的には逆に壮観だったろうが、パフォーマンスセンターからの配信は無観客という表現には当たらず、新たなテレビマッチの風景を世界中のファンは目撃することになるだろう。

 かつて、いわゆるアメリカでの「テレビマッチ」と呼ばれるものは、スタジオにリングを持ち込んで十数人のファンを入れて2、3試合行うものだった。

 筆者は1980年代にヒロ・マツダさんに案内してもらってタンパのテレビ局のスタジオでそのテレビマッチの現場を見たことがある。それはとても世界に流せるような内容のものではなかったが……。

 だが、今度は特別中の特別だ。WWEがどんなセットを用意するのかは非常に興味深い。仕掛け満載の趣向を凝らした大がかりなセットが組まれることは間違いない。WWEがもっとも得意とするエンターテインメントの技術が改めてここに示されることになる。

なんとレッスルマニアが2日間興行に拡大!?

 大会名にナンバーリングされた「36」という数字にちなんで36試合が行われるはずだが、発表済みの大一番はブロック・レスナーのWWE王座にドリュー・マッキンタイアが挑むものだ。

 ただ、WWEは驚きの発表を加えた。

 レッスルマニア36は、なんと4月4日と5日の2日間にわたって行われるというのだ。試合はいずれもアメリカ東部時間の19時から始まる。

 出場予定だった選手たちを2日間に振り分けて、感染のリスクからスーパースターを守る――という視点もあるのだろう。同時に、選手を2つに振り分けることで、人の集まりに対する規制をクリアできるという利点もあるだろう。初日と2日目でセットも自由に変えることができ、試合のトーンも変化するかもしれない。

 獣神サンダー・ライガーが殿堂入りした「WWEホール・オブ・フェイム」の授賞式もここに移ることになる。ライガーは「行きたい」と言っていたが、渡航制限に引っかかれば残念だが現地に赴くことはできないかもしれない。

「無観客を超えた無観客」という演出の中で、自慢のショーをWWEが世界に届けることになるはずだ。

 WWEは、イラクなどの戦地に行って米軍の兵士たちを何度も慰問しているが、今回は世界中のイベントが停止している中で、全世界に向けたコロナウィルスとの戦いへの勇気のメッセージを伝えることになるはずだ。

(「プロレス写真記者の眼」原悦生 = 文)