ご当地力士の1人として、地元のファンから大きな期待が寄せられている大関・貴景勝関。残念ながら、今場所は思うような結果に結びついていないが、だからこそ、本稿を彼へのエールの意味で送り出したい――。

「小さいのに強い佐藤くん」

 佐藤くん。

 平凡な苗字ながら、「あの小さいのに強い佐藤くん」といえば、彼しかいなかった。

 報徳学園中学校3年時には、全国中学校相撲選手権大会で優勝。名門・埼玉栄高校に特待生として入学すると、全日本ジュニア体重別相撲選手権大会の100kg以上級(無差別級)2連覇、世界ジュニア相撲選手権大会の無差別級で優勝。在学中にもかかわらず入門を決意し、華々しい経歴をもって、憧れだった貴乃花部屋の門をたたいた。

 しばらく四股名は本名の佐藤のままだったが、新入幕と同時に改名。後に多くの人が知るところになる力士、「貴景勝」が誕生した。

 所要28場所という、日本出身力士史上1位のスピード出世で大関に昇進。ケガに泣き、一度は陥落するものの、たった1場所でその地位に返り咲いた。

 現在23歳――その若き大関の魅力に迫る。

貴景勝の魅力その1:徹底した突き押し

 身長175cm。決して大きいとはいえない体格ながら、突き押しの型を崩さないのが貴景勝の取り口である。

 ある程度身長の伸びが止まってきた高校生の頃、これまで培ってきた突き押し相撲で勝負していこうと改めて決意した。

「昔から“業師”といわれるのが嫌で、小さくてもパワーで圧倒できる力士になりたかった。小兵でうまい人はいるけど、小さくても大きい人をパワーでねじ伏せる力士はあまりいないから、自分はそうなりたいなと思ったんです」と、自身のアマチュア時代を振り返る。

 頭から低くぶちかます力強い立ち合い。下半身からパワーを伝えるどっしりとした突き押し。大きな相手にも躊躇なく勝っていく姿が勇ましい。

 押せないときは、相手を引いてしまう場面よりも、一度下がるようにしてもう一度当たり直すといった冷静な場面が多いのも彼の特徴といえる。

「押せないときに無理して押すのではなく、“ここは押せないな”と思える判断能力が大切。安易に引くと、相手を呼び込んでしまうので逆効果です」

 しかし、小さい力士が突き押し相撲一本でここまで勝負するのは至難の業だ。事実、これまで周囲からは、「それでは強くなれない」といった心無い声も浴びせられ続けてきたという。

いつも逆境から這い上がってきた……。

「入門したときには関取にはなれないと言われたし、関取になったら幕内は無理、幕内になったら三役は無理。ずっとそんな風に言われてきました。でも、それが悔しくて原動力になりました」

 プロに入ったからにはやり直しはきかない。そう肝に銘じ、どんな逆境にも立ち向かってきた。

 では、どうしたら突き押し相撲で上に行けるのか? その試行錯誤を語るに当たり、ぜひ紹介したいのが次のポイントだ。

貴景勝の魅力その2:高い思考力と探求心

 とにかく強くなりたい。

 その一心が、彼の強い探求心を生み出した。

「体が小さいからこそ、どうしたら勝てるんだろう、どうしたら強くなれるんだろうって、本当にずっとずっと考えています」という貴景勝。それこそ、「何もすることがないときって、何しているの?」と聞いても、「何してるんだろう……なんかもうずっと相撲のことばっかり考えているから、よくわかんないッスね」と、真顔で答えてしまうほど、彼の頭は24時間365日フル回転しているのである。

 では、先ほどの話に戻って、どうしたら突き押し相撲で強くなれるのか。彼の考えはこうだ。

「突き押し相撲の力士にありがちなのは、前に出る力は強いけど横に振られると弱いといった、安定感のなさです。じゃあどうしたら安定感を出せるかというと、腰を含めた下半身を強化すること。どうしても、腕で押すので腕や肩の力が大事だと思われがちですが、そうではなくて下半身から力を伝える必要があるんです」

 下半身強化に必要なのは、なんといっても四股。どんなにケガをしても、四股さえ踏めていれば相撲を取れる体になるとも貴景勝は話す。

 彼は、腰(お尻の上)の筋肉を鍛えるために、通常よりも足幅を広くとって、骨盤を立てた状態でも四股を踏んでいる。この角度で腰を入れられれば、取組中でも安定感が出せるそうだ。

短所からヒントを得てさらに強く。

 さらに、自身の身体的な短所さえも、彼はその高い思考力でカバーする。

 人よりも腕が短く、ストライド(伸び)が小さい分、どう長くするかを考えた。

 出した結論は、「腕をまっすぐに伸ばすだけじゃなくて、そこからさらに肩関節を前に出してロックして、背中の力も使って押すんです。このほうが明らかに押せるし、相手が押してくる力にも耐えられます」。

 短所だと思っていた部分が、実はいいヒントにつながることがある。「もし、ある程度腕が長くて突っ張れていたら、この気づきはなかったと思います」と、自身も満足げに頷く。

 このように、何事も論理的に思考し、トライ&エラーを繰り返しながら自らの能力を向上させていく力は、心技体すべての鍛錬に貢献しているといえるだろう。

 貴景勝は、まだまだ完成形ではない。

 最新の栄養学やアジリティトレーニングなど、いいと思ったものはどんどん取り入れ、日々成長・進化していく。どうしたらもっと強くなれるか、どうしたらもっと勝てるか――。探求の旅は続いていく。

貴景勝の魅力その3:お相撲さんらしさ

 最後に、彼を語るに欠かせないのは、ずばりなんといっても“お相撲さんらしさ”だろう。

 元貴乃花・千賀ノ浦両親方には、力士が力士としてどうあるべきか、とことん指導されてきた。

「今でも気をつけているのが、草履をまっすぐきれいにそろえて脱ぐこと。この所作ひとつでも、きれいにできる力士が強くなれると教わってきたからです。プロの力士として、土俵上以外での立ち振る舞いの大切さは、僕も感じています」

 そもそも大相撲の魅力は、国技であり伝統文化であるところだと貴景勝は話す。

 競技スポーツとしての相撲は、アマチュアまで。プロになったからには、なぜ自分たちが着物を着てちょんまげを結っているのか、その意味と良さをよく考えて取り組んでいかなくてはならない。そういったことを、一般の人や、日本を訪れている外国の方にも伝えていく必要があると、彼は考える。

「相撲には、勝ち負け以上の良さがあるんです。ほかのスポーツでは、感情を表す場面は多いけれど、相撲は礼に始まり礼に終わる。勝っても負けても感情を出さず、相手に敬意を払う。その文化を伝えられれば、相撲には勝敗以上に美しいものがあるんだなと、より多くの人に理解してもらえると思っています」

「僕たちだって仏頂面していたくなんかないです」

 昨今は、SNSの普及によって、より自然体な力士たちの姿を見ることもできるようになった。しかし、本場所は戦いの場。「本当だったら、僕たちだってインタビュールームのカメラの前で仏頂面していたくなんかないですよ」、と彼は笑う。

「でも、それは僕たち力士に、昔からの文化を継承していく義務があるからしていることです。お相撲さんは、横綱・大関に勝った後のインタビュールームでべらべら余計なことをしゃべらない。それが美学なんです」

 時代が変わっても、いくら自分が現代っ子でも、引き継がれてきた伝統と文化に敬意を払い、プロとしての姿を意識する。それが、大関・貴景勝なのだ。

まとめ:若き武士にエールを!

 ここまで読めば、大関・貴景勝の魅力は十分におわかりいただけたのではないだろうか。そして、そんな貴景勝を「もっと応援したい!」と、そんな風に思っていただけたら幸いである。

 かつてのインタビュールームで、肩で大きく息をしながら言葉少なに応対し、帰り際には「しゃっしゃっしゃー(=ありがとうございました)」とだけ口走って、ニコリともせず足早にその場を去っていった貴景勝。当時、なんだか可愛らしくてその映像を何度も見ては爆笑していたが、「力士たるもの、へらへら喋ってはいけない」と、彼なりに考えてあんなインタビューになったのだろう。

 今や貫禄ある大関だが、それでも中身はまだまだ普通の23歳。

 若き大関が努力し成長する姿を、これからも温かく、期待をもって、見守っていこうではないか。

(「大相撲PRESS」飯塚さき = 文)