毎回、柔道の五輪代表の多くが決定してきた全日本選抜体重別選手権。

 今年も4月初旬にあたる4日と5日に福岡国際センターで行われるが、これまでのオリンピックイヤーとは様相が異なる。

 まずはコロナウィルスの影響により、無観客での実施となることが3月6日に発表された。選手の所属先などの応援団が駆けつけ、熱い声援が響く光景は、今年は、ない。

 何よりも、東京五輪代表選考基準に基づき、ほとんどの階級はすでに代表が発表されたあとの開催であることが、これまでと異なる。

実績、実力が高いレベルで拮抗。

 ただし、残された1枠の代表争いは、それを打ち消すほどの注目を集めている。

 男子66kg級だ。代表候補は丸山城志郎、阿部一二三に絞られている。

「勝ったほうが代表という見方でいいと思います」

 日本男子代表の井上康生監督がこう語っているように、全日本選抜の結果に代表の行方がかかっている。

 それはここまで重ねてきた実績、実力が伯仲していることを示している。

 しかも、高いレベルで拮抗している。

 この階級の五輪代表に近いと思われていたのは、もともとは阿部だった。

 2014年、グランドスラム東京で国内外の並みいる実力者を撃破。男子では史上最年少の17歳118日でグランドスラム大会優勝を遂げ、大きな注目を集めた。

 2016年、全日本選抜体重別選手権を制したが、実績の面からリオデジャネイロ五輪代表にはなれなかった。

 その悔しさをばねにし、2017、2018年と世界選手権を連覇。豪快な一本を獲る内容とともに、海外からも絶賛されるに至った。

立ちはだかったのは丸山だった。

 だが、そのまま進むことはできなかった。2018年11月、勝てば翌年の世界選手権代表に内定することになっていたグランドスラム大阪で準優勝に終わったのである。

 立ちはだかったのは丸山だった。

 大学時代は左膝前十字靱帯断裂の大怪我などの影響により成績は伸び悩んだが、社会人になり、徐々に実績を積み重ねてきた。特に内股の切れ味が鋭く、阿部同様、一本を獲り切る力を備えていった。

丸山が左膝内側側副靱帯損傷。

 先に記したように2018年のグランドスラム大阪を制するとワールドマスターズ、さらには年が明けてからも国内外で優勝を重ねる。

 阿部、丸山の2名が出場した昨夏の世界選手権では、準決勝で対戦し、丸山が勝利。決勝も一本勝ち、優勝を飾ったのである。

 井上監督も「代表争いは丸山がリード」と語ったように、丸山が一歩先んじることになった。

 しかし、丸山もそのまま決めることはできなかった。

 昨年11月のグランドスラム・大阪では阿部がリベンジを果たす。丸山は世界選手権で右膝を負傷、練習再開が大会のひと月ほど前という影響もあった。

 この時点でも、井上監督は丸山がリードしているとしたが、今年2月、グランドスラム・デュッセルドルフを丸山は左膝内側側副靱帯損傷の怪我により欠場。阿部が優勝し、ついに対等の位置へと戻し、今回の大会を迎える。

 丸山にとっては左膝、阿部にとっては今年2月グランドスラムで脱臼した左手の親指。その怪我の回復具合も勝負に影響を及ぼす要素だ。

無観客という、独特の空気のなか……。

 また、2人はお互いに勝ち上がれば決勝であたることになるが、この階級には有力選手がそろう。簡単に勝ち抜けるわけではない。

 五輪代表という目標を胸に、重圧のかかる阿部、丸山に、他の選手は思い切りよく挑むことができる。

 そこをどう切り抜けて勝っていけるかも大きな要素だ。……決勝での対決を見据えつつ、いたずらに先を見ず、一戦一戦に集中できるかどうかも鍵を握る。

 もし、両者ともに途中で負ければ、選考は総合的な判断によってなされる。となると、他者に委ねることになるだけに、2人ともに、勝って選ばれたいという思いは強いだろう。

 他の階級はすべて決まっているだけに、注目は集中するだろう。さまざまなプレッシャーに打ち勝ち、五輪切符を手にするのはどちらか。

 両者の直接対決は丸山の4勝3敗、そして初戦を除き、すべてが延長にもつれこんできた。

 無観客という、独特の空気のなか、世界屈指の、2人の柔道家の勝負を分けるのは何か。

 直接戦えば、紙一重の戦いは必須だ。

(「オリンピックへの道」松原孝臣 = 文)