世界トップレベルの舞台で、10代の選手の活躍が目立つようになった。今や下部組織からトップチームへ戦力となる人材を輩出していくことが、世界のスタンダードだ。鹿島アントラーズでは、2018シーズンで現役引退した小笠原満男が、アカデミーのスタッフとして育成に目を向けている。
 今季からテクニカルアドバイザーになった小笠原と、テクニカルディレクターを務めるジーコが、今後の育成について「鹿島アントラーズイヤーブック2020」で語った。ここでは、その未公開部分を特別公開する。

小笠原 2019年9月に、ジーコが作った大会「第22回日伯友好カップ」に同行してきました。大会後、少しブラジルに残って5つのクラブを視察して、10歳からトップまでの各カテゴリーを見てきたんですが、そのときに感じたのが、個のトレーニングがすごく多かったことです。

 日本ではポゼッションやボール回しの練習に時間を割くことが多いと感じています。選手を育成していくという視点で見たときに、ジーコさんは個のトレーニングについてどう考えていますか。

ジーコ やはり個を成長させることによって、チームが成長すると考えるのが当たり前のことではないかと思う。それぞれの選手に良さがあって、特長があるわけで。そのなかで足りないところを補っていくのは、当然やらなければいけないこと。特にサッカーの基礎のところだね。ボールコントロール、ドリブル、パス、ヘディング、シュート、センタリングという部分が、まずきちんとできていれば、何の問題もなくプレーできる。

 そこにプラスして、持って生まれたパワーや瞬発力だったり、個人的な特性が含まれていくことで、プロとして勝負できるんだ。ただ、それも基礎があってこそできることだけどね。

止める・蹴るができてからパス回し。

小笠原 育成年代で止めて・蹴ることができないのに、ボール回しの練習を多くしているのは、個人的には違うなと思っていて。まずは基本的な止める・蹴るができるように育成していく。それができるようになって初めて、パス回しやポゼッションのトレーニングが成立する。

 そもそも、止めて蹴れないのにポゼッショントレーニングではボールを多くもらうことができないし、もっと言えば、止めて蹴れない選手は怖がってボールを受けたがらない傾向がある。それでは選手は成長しないし、プロになんてなれるわけがない。

ジーコ その通りだと思うよ。ブラジルの場合は問題が1つあって、下部組織で教えている監督・コーチが、体育学を勉強してきた先生であるということ。体育学の先生は、体育に関しては詳しいけれど、サッカーのノウハウはアバウト。

 たとえば、さっき言った6つの基礎技術があることは知っているけれど、ボールコントロールをするときに力を抜いてやるとか、胸でコントロールするために、どういうコツがあるかとかを知らない。子どもたちからしたら、ただ「コントロールしろ」と言われても、なかなかうまくはいかないものだよね。

小笠原 間違いなくそうですね。

ブラジルの下部組織に足りないもの。

ジーコ その小さなコツというのを、プロを経験した元プロの選手たちは持っているわけで、それを子どもたちにきちんと教え込まなくちゃいけない。

 たとえば、シュートの際に、どういう踏み込み方をするのか。こういう状況では、どういう蹴り方ができるのか。そういった細かい部分は、やっぱり元選手にしか分からない感覚的なもので、そこがブラジルの下部組織には足りないところかなと思っている。

 最近のブラジルで流行っているのは、パスサッカー。あるスペースだけで練習しているということが多くなってしまっているんだ。まずは個をちゃんとレベルアップして、チームのためにその力を発揮できるような練習をしなくちゃいけないのに。

小笠原 ブラジルでもそういう傾向があるんですね。

ジーコ 最近の指導者は、“選手はどのポジションもこなせないといけない”と考える傾向がある。僕はそれについて非常に残念に思っていて。それぞれに体格的な生まれつきの特性があるわけで、本来それを生かしてあげなくてはいけない。

 また、サッカーセンスのところでも、視野が広い人、狭い人がいる、技術が高い人、高くない人がいる。そういった特長を引き出してあげるということが、非常に重要だと思う。

小笠原 日本人はアレができない、コレができないと言って、選手の良い部分にフォーカスしない傾向も感じます。

ポジションによって必要な能力が違う。

ジーコ たとえば、メンバー外だけでの練習になったとき、人数が少ないなかだと、選手をローテーションで回した練習をすることが多い。クロスの練習であれば、センターバックがクロスを上げる場面があったりする。正直、センターバックが試合中にクロスを上げる場面ってあるのか。ないでしょう。

 センターバックが試合で必要な武器は何かというと、クリア、ジャンプ、ヘディング、スピード。サイドバックは、カバーリングをする、前に行く、戻る、クロスを上げる。クロスを上げる際は、どこを見るか、見ながらその技術を出せるのか。キック1つにしても、浮き球のボール、速いボールの蹴り方を磨かなきゃいけない。

 FWはシュートはもちろん、ボールを引き出す動き出し、キープする能力、体の使い方、反転のタイミング。サイドハーフも、行ったり来たりしなくちゃいけないなかでの攻守におけるポジショニング、バランス、引き出し方、タイミングといった部分が必要になってくる。それぞれのポジションに必要な能力があるんだ。

 オガサは現役時代にヘディングで何点取った?

「武器を生かしてあげる練習を」

小笠原 Jリーグで最初の得点がヘディングだった。ただ、5点もないと思う。

ジーコ じゃあ、オガサにクロス練習でヘディングさせても、効果は出ないよね。20年のキャリアで、ヘディングで5点しか取っていないんだから。ミドルシュートやラストパスでの得点はどれくらいあった? 

小笠原 覚えてないなぁ(笑)。

ジーコ 覚えてないぐらい、点を取っているし、ラストパスを通してきたんだよ。それが、オガサの武器であるからね。そうしたら、僕は監督として、指導者としてしなくちゃいけないのは、オガサの武器を生かしてあげる練習を考えること。

 僕はテレ・サンターナという、ブラジルで一番いい指導者と仕事をしたけれど、いつもそう言われていた。実際に彼は、それぞれ自分のポジションに必要な練習しか、やらせなかった。それを続けると、精度が完ぺきになってくるんだ。

小笠原 今、中村幸聖監督(鹿島ユース)や、ヤナさん(柳沢敦、鹿島ユースコーチ)がポジション別練習を多くやっています。FWはシュート練習をするし、センターバックはヘディングやクリア練習、そういう個人の能力を伸ばす練習を増やしてきている。

 でも、アントラーズアカデミー全体として見ると、ポゼッショントレーニングが多すぎて。そうなると、ドリブラーもドリブルをしなくなるし、ゴール前でシュートを打てるのに、パスコースを探すようになる。それは個人的にはもったいないなと思っています。

ジーコ 選手は職人であるべきなんだ。それぞれのポジションで、職人となって仕事をしなくてはいけない。ポジションを変えることで、選手は「俺ってどこだったっけ、何ができたんだっけ」と迷いが生じてしまう。自分が生まれつき持っている武器や、まだ引き出せる能力があるのに、結局、中途半端になってしまって、いい選手ではなくなってしまうことが多くあるんだ。

(後編に続く)

対談本編は

「KASHIMA ANTLERS YEAR BOOK 2020」

に掲載されています!

(「JリーグPRESS」池田博一 = 文)