このままではどこかの団体が潰れてもおかしくない。そんな危機感が確かにある。

 新型コロナウィルスによる自粛要請、自粛ムードが長引き、それだけプロレス界でも興行の延期、中止が相次いでいる。充分に対策を打ち出した上で開催する団体もあるのだが、自治体が運営にかかわる施設も多いだけに「やりたくても会場がやらせてくれない」ということも。

 団体経営だけでなく、選手のモチベーションやコンディションにも影響がある。観客の拍手と歓声がレスラーのエネルギー源なのだ。

 業界でいち早く興行自粛を発表したのは、女子団体スターダム。政府の自粛要請を受け、DDTもそれに続いた。

「何もしないのはファンに申し訳ない」

 とはいえ、転んでもただでは起きないのがDDTである。

「何もしないというのはプロレスファン、DDTの試合を楽しみにしてくれた人たちに申し訳ない」と語ったのは社長の高木三四郎。

 DDTおよび同系列の東京女子プロレスは、都内の道場で無観客試合を実施。その模様を映像配信サービスDDT UNIVERSEで生中継している。

 現場で見ているのはスタッフとマスコミ数人だけという状況だが、路上プロレスなどいかなるシチュエーションにも対応してみせるのがDDTの選手たちだ。

 カメラを意識しながら“無観客試合の面白さ”を見事に成立させた。カメラを意識するというのは、つまりその向こうにいるファンの存在を信じるということだ。男色ディーノは巧みに画面から姿を消し、遠くから聞こえる悲鳴で“惨劇”を演出してみせた。

プロレスの“見せ方”を広げることに。

 東京女子プロレスは1試合5分の特別ルールで21人参加のトーナメントを1大会で敢行。

 DDTグループのガンバレ☆プロレスは勝村周一朗vs.翔太のシングルマッチをゲリラ配信している。レフェリー1人、中継スタッフ1人と、その場にいたのは4人のみ。要は心意気だけ、予算ゼロ円の闘いだった。

 非常時の苦肉の策である無観客試合は、プロレスの“見せ方”を広げるものになったと言っていい。

無観客試合、選手のテンションは?

 3月8日には、スターダムが“聖地”後楽園ホールで無観客大会を開催、YouTubeで無料生中継している。

 タイトルマッチが複数ラインナップされており、やらなければ先に進めない大会だった。

 取材陣も検温してから入場と、考えうる限りの対策を講じて開催された“後楽園無観客試合”は、やはり異様な光景ではあった。1000人以上のキャパだから、道場マッチとも違う。

「応援してくれる人がいないと、試合をしていてもただただ痛いんですよ。早く会いたいです、ファンの人たちに」

 そう語ったのは木村花。「画面越しでも私が伝えたいことは変わらない。相手をぶっ倒しにいくのは無観客でも同じ」と語ったジュリアも「お客さんの声が大事なものだというのは分かった」と付け加えている。

「選手は“負けるな!”という声を聴くと立ち上がることができるので」

 観客の存在はショーとしての雰囲気だけでなく、選手のテンション、アドレナリンの出方にも影響を及ぼしているのだ。

“ピンチはチャンス”がこの世界の鉄則。

 そんな中、現シングル王者で“スターダムのアイコン”と呼ばれる岩谷麻優は「いつもはお客さんの声に乗せてもらってるんですけど、今日はマイペースでできました」と言う。“無観客なりのテンション”を即座に作ってしまうのも才能か。

 客席の階段を上から下まで転げ落ち、対戦相手の鹿島沙希をリング下に投げ捨て、勝利した後は解説席の獣神サンダー・ライガーと1対1のコール&レスポンス。

 彼女は誰よりも「ノーピーポー」の闘いを満喫し、その上で「結果的にいつもより多くの人が見てくれたのかなと。何も考えず見てもらえたら、誰かのファンになると思う」と大会の意義を見出した。

“ピンチはチャンス”がこの世界の鉄則だ。後楽園無観客試合という異例の大会は、スターダムの一大プロモーションになったのではないか。

「路上無観客電流爆破」の衝撃

 DDTは3月11日に、さいたまスーパーアリーナでリングを使わない「路上プロレス」を開催している。

 メインは大仁田厚も登場しての電流爆破デスマッチ。つまり「さいたまスーパーアリーナ路上無観客電流爆破デスマッチ」である。

 もともと6月7日に開催される同会場でのビッグイベントに向けたプロモーションとして予定されていたものだが、すかさず『不要不急の路上電流爆破プロレス』というタイトルをつけるあたりがDDTらしい。

 セミファイナルでは、DDTにレギュラー参戦しているMMAファイターの青木真也が「目隠し乳隠しデスマッチ」でHARASHIMAに勝利し、EXTREME級王座を奪取している。これは目隠しをして闘い、相手のブラジャーをはぎ取ったら勝ちという特殊ルール。経験した選手によると、その緊張感は「まさにデスマッチ」らしい。

「無観客」は「ファン不在」ではない。

 青木は2015年12月29日のRIZIN旗揚げ大会で桜庭和志と対戦して以来のさいたまスーパーアリーナだったそうだ。PRIDE時代も何度も試合をした“思い出の場所”で目隠し乳隠しデスマッチ。ベルトを巻いた青木は言った。

「この落差のある人生がいいでしょ。僕しかできないことをやってる自負がある」

 道場マッチ、路上プロレス、爆破マッチにブラジャーはぎ取り、そして無観客。それらすべてがプロレスだ。

 単に観客がいない中で競技を行なうのではなく、さまざまな形で“無観客用のプロレス”ができてしまうのがこのジャンルのたくましさ。

 そして「無観客」とは「ファン不在」とイコールではない。選手たちは他の誰でもなく、カメラの向こうのファンに向けて闘うのである。ネット通販のサービス強化やトーク番組の配信などまで含め、団体と選手、ファンの関係性の中にこそ“プロレス”があると言ってもいい。

 そこにウィルスが入り込む隙はない。

(「濃度・オブ・ザ・リング」橋本宗洋 = 文)