3月2日から3月8日までエストニアのタリンで開催されていた世界ジュニア選手権では、ロシアが改めてその底力を見せつけた。

 ペアでは表彰台、1、2、3位を独占し、男子では1位と3位、そして女子では1、2位を占め、結局4種目12個のメダルのうち8個をロシアが獲得という最終結果となった。

 中でもやはり注目されたのは、現在女子で圧巻の強さを見せているエテリ・トゥトベリーゼのコーチング・チームの門下生である。

 今シーズンはシニアの女子も、GPファイナル、欧州選手権の二大会でアリョーナ・コストルナヤ、アンナ・シェルバコワ、アレクサンドラ・トゥルソワとエテリチームの選手が独占したが、タリンでは女子の1、2位を占めた。

 優勝したのは、13歳のカミラ・ワリエワ。

 ロシアのカザン出身で、身長はまだ149センチだが、氷の上では大きく見えるのは頭が小さく、手足が驚くほど長いためだ。この中にどうやって人間の内臓が収まっているのかと不思議に思うほど胴が短く、まるでバービー人形のような体形である。

 この体形で、4回転トウループを跳ぶ。

絵画からインスピレーションを得て。

 SPの『鏡の中の鏡』は、エテリチームの若手コーチでもあるダニイル・グレイヘンガウスによる振付。

 モスクワのプーシキン美術館が所蔵するパブロ・ピカソのバラ色の時代の作品、「玉乗りの曲芸師」からインスピレーションを得て作成したという。最初と最後のポーズがワリエワの恵まれたプロポーションを強調する美しい作品だ。

 3ループ、2アクセル、3ルッツ+3トウループを難なく降りて、74.92でトップに立った。

ジュニア女子歴代スコアを更新した。

 フリーでは冒頭の4トウループでステップアウトしたものの、次の4+2トウループをきめ、残りをノーミスで滑り切った。フリー152.38、総合227.30は、いずれもジュニア女子の世界歴代スコアを更新。十分にシニアでトップを競える得点だ。

「トウループでちょっとミスがあったけれど、基本的に今日の演技には満足しています」と通訳を通して会見で語ったワリエワ。

 4トウループは昨年の4月のはじめに練習を開始し、本人の誕生日である4月26日に初めて成功させたという。

総合2位もエテリチームの選手。

 同じリンクの先輩たちについて聞かれると、こう答えた。

「モスクワのリンクでは、いつもアニャ(シェルバコワ)、サーシャ(トゥルソワ)、そしてアリョーナ(コストルナヤ)の滑りを見て、参考にしています。サーシャの4回転、アニャやアリョーナのスケーティングを見て、自分の滑りを比べてみたりもするんです」

 氷上では妖艶な雰囲気すら感じさせるワリエワだが、会見では時折キャッキャと声をあげて笑う無邪気な13歳の素顔を見せる。

 だが15歳になった彼女が2年後の北京オリンピックシーズンに挑むとき、さぞかし怖い選手に育っていることだろう。

 また総合2位になったダリア・ウサチェワも、同じくエテリチームの選手である。

 表情も大人びて、とても13歳とは思えない。3アクセルも4回転も持っていないものの、フリーでは1つひとつのエレメントの質が高く、多くの加点を獲得して207.74でSP3位から総合2位へ上がった。

「このシーズン終了後、3アクセルと4回転を習得したいと思っています」と会見で通訳を通して抱負を語った。

対照的な練習環境のアリサ・リュウ。

 どのような魔法を使っているのかと思いたくなるほど、次から次へと才能ある女子が出てくるエテリ・トゥトベリーゼのチーム。その秘密の一つはもちろん、大勢のレベルの高いスケーターたちが競い合うようにして日々トレーニングをしていることである。

 その点、今回3位に食い込んだアメリカのアリサ・リュウは全く対照的な世界にいる。

「今トレーニングをしているリンクには、シニアの選手はいません。悪い意味で言っているのではないけれど、私がベストスケーターではないかしら」

 練習環境について聞くと、おっとりとそう答えたリュウ。

 彼女は2年連続して全米選手権で優勝を果たしているので、リンク内でベストなスケーターだというのは少しも驚きではない。だが、「どちらかというと、ちょっとパブリックリンクのような雰囲気なの」と言ったのには少し驚いた。

 アメリカでパブリックリンクといえば、リクリエーション用の、一般人が遊びで滑るリンクのことだ。

4ルッツと3アクセルが跳べる世界唯一の女子。

 またリュウのコーチのローラ・リぺツキーは、ミシェル・クワンなどを育てたフランク・キャロルの生徒だったというが、コーチとしては比較的無名な存在である。

 振付師には世界でトップの1人であるローリー・ニコルがついているが、リュウの表現力はロシアの女子たちに比べるとまだ幼く、良く言えば伸びしろがたくさんある。

「順位はとても満足していますし、この大会に出られてとても嬉しいです」と笑顔で語ったリュウ。4回転ルッツと3アクセルの両方を持っている世界唯一の女子でありながら、3位に終わったことも彼女にとっては「失敗」ではないらしい。

 一分の隙も見せないロシアの女子たちと、アメリカの希望の星と言われながらも比較的おっとりと見えるアリサ・リュウ。

 この少女たちがどのようにこれから育って競い合っていくのか、楽しみである。

(「フィギュアスケート、氷上の華」田村明子 = 文)