BURTON US OPENは現存するスノーボードの大会では世界最古の歴史と伝統を誇る。スノーボードの生みの親として知られる故ジェイク・バートンは、1977年に自身が創業したブランド「BURTON」はもちろんのこと、当時は得体の知れなかった横乗りの“遊び”をプロモーションするために、同ブランドの拠点である米バーモント州の小さなゲレンデ、スーサイドシックスで大会を開催したのがはじまりだった。

 伝統の一戦は現在、超高級リゾートとして名高いコロラド州ベイルマウンテンリゾートで行われている。2月24~29日にかけて開催された今年の大会では、スロープスタイルでは角野友基が、ハーフパイプでは戸塚優斗がそれぞれ表彰台の中央を射止めた。両種目で日本人がダブル優勝を飾ったのは、5年ぶり2度目の快挙で、そのときのスロープスタイル覇者も今回と同じく角野だった。

トップランカーを抑えて優勝した角野。

「あまり言葉にならないですね。最高、ただそれだけ。スノーボードができてる今がホンマに幸せです」

 大会直後、角野は噛みしめるようにこう話してくれた。この5年間、ケガなどの影響により表彰台に上がる機会が激減し、スロープスタイルに至っては皆無だっただけに、喜びもひとしおだったに違いない。

 これまでのスロープスタイルでは存在しなかった2連のトランジションで誰よりも高く遠くへ宙を舞った角野は、ジブセクションでも世界最高レベルのトリックを連発した。そして、ラストとなる十八番のストレートジャンプではスイッチ・バックサイド・トリプルコーク1620(反対向きのスタンスから背中側へ4回転半回りながら縦方向にも同時に3回転)という大技を決めたのだ。
 
 平昌五輪金メダリストのレッド・ジェラード(アメリカ)ら名だたるトップランカーを抑えての堂々たる優勝だった。

技術の高い日本人ライダーへの挑発。

 39回目を迎えたBURTON US OPENで用意されたスロープスタイルのコースはとても挑発的に映った。語弊を恐れずに言えば、高い技術を誇る日本人ライダーたちに対して挑戦状を叩きつけているようにさえ感じるほどに。

 これまでのBURTON US OPENで用意されたジャンプセクションはストレートジャンプが中心だったのだが、今大会でそれはひとつだけ。残るふたつは先述したようにトランジションが採用された。ハーフパイプを半分にしたクォーターパイプ状のジャンプ台がフロント/バックサイド双方に設定されており、これらを攻略する滑走技術は通常のパークライディングだけで培うことは難しい。より総合滑走力や創造力が問われるコースでの争いとなったのだ。

 前回の優勝時に角野が決めたバック・トゥ・バック(連続)のトリプルコーク1620は、あれから5年が経過し、トリックの高難度化が止まらない現在においても、いまだ成し遂げるもののいない超絶ルーティンとして記録にも記憶にも残っている。

 しかし、当時は前半に3連のジブセクション、後半に3連のストレートジャンプが用意された単調なコース。今回は明らかに難易度の上がった舞台で、世界のトップランカーたちとの頂上決戦を制したのだ。角野の喜びが言葉にならなかったことも頷ける。

メインのハーフパイプは“改造コース”。

 その翌日にはメインイベントとなるハーフパイプ決勝が行われたのだが、モディファイド(改造)ハーフパイプと称されるコースで争われた。上部と下部でハーフパイプが分割されており、前半は一般スノーボーダーでも楽しめる高さ4mのミニパイプ、後半は通常通り高さ6.7mを誇る国際規格のスーパーパイプが待ち受けている。

 壁の高さが低いミニパイプはイージーに感じるかもしれないが、高難度な技ばかりが求められてきた現代スノーボードにおいては、むしろ逆なのかもしれない。縁にあたるリップを利用したスケートボードさながらのトリックや、そのリップに手をついて身体を重力に逆らうように持ち上げるハンドプラントなど、技の難易度以上に表現力が重視されるからだ。

 こうした山全体の地形を活かして“遊ぶ”ように滑るスノーボード本来の滑走技術は、生真面目にハーフパイプの練習を繰り返しているだけでは培えないものだ。国際スキー連盟(FIS)主催のW杯はこれまで通りだが、プロ大会のDEW TOURでもすでに改造パイプが採用されている。

 しなやかな身のこなしや勤勉な国民性が相まってか、日本は反復練習の賜物と言えるハーフパイプの成績も素晴らしいのだが、高難度トリックをミスなくつなげる上手さが際立つ反面、クリエイティビティのある滑りを発揮できるライダーが少ない。それだけに、改造パイプでの戦いはスロープスタイル同様、日本人ライダーたちの真価が試されているように強く感じた。

“遊び”を取り入れた戸塚。

「めちゃくちゃ難しい」

 大会中、日本のエースである戸塚は改造パイプについてこう漏らしていた。

 しかし彼は、ハーフパイプで反復練習に取り組みながら学んでいた教科書通りの滑りだけでなく、“遊び”の要素を取り入れたライディングスタイルにも憧れを抱き、自分の滑りの中に取り入れていた。

 ここ数年に渡り練習していたというマックツイストにジャパングラブを加えた、難度よりもスタイルを重視したトリックをミニパイプで繰り出すと、流れに逆らうようにしてバックサイド・アーリーウープ(通常とは反対方向の山側へ回転する技)540にステイルフィッシュを入れる個性的な技を見せたのだ。

 そこからインディグラブをしながらスーパーパイプにドロップインすると、フロントサイド・ダブルコーク1440(通常スタンスから腹側へ縦2回転/横4回転)→キャブ・ダブルコーク1260(反対向きのスタンスから腹側へ縦2回転/横3回転半)→スイッチ・バックサイド・ダブルコーク1080(反対向きのスタンスから背中側へ縦2回転/横3回転)という圧倒的なルーティンを披露。前半は創造性を駆使し、後半にはハイエアかつ高難度トリックを組み込んで勝負に出た。

絶対王者を圧倒し、悲願の初優勝。

 しかも、すべてのトリックの回転方向が異なるという、クリエイティブかつテクニカルな滑り。平昌五輪を終えた翌シーズンから12戦11勝と絶対王者に君臨していたスコッティ・ジェームス(オーストラリア)を圧倒し、同大会で悲願の初優勝を飾ったのだった。

「今後のパイプはこういう形になっていくと思います。この結果を糧にして、パイプの練習ばかりでなく山の地形やゲレンデのサイドヒットでの遊び方のレベルを上げて、さらにスタイルを出していけるようなライダーを目指していきたいです」

歴史あるUS OPENが舵を切った。

 この戸塚の言葉にすべてが集約されているのかもしれない。スノーボードは競技である以上に“遊び”としての側面が強い。冒頭で述べたように故ジェイク・バートンも、その遊びを広めるために本大会をローンチした。「カッコいい」や「渋い」といった形容詞が解説時に連呼されるスノーボードという競技は、さらに創造力が求められていくのだろう。

 本大会やX GAMESなどのプロ大会と、オリンピックを頂点としたFIS主催大会とでは運営はもちろん、方向性やポリシーが異なるわけだが、歴史あるプロツアーはこうした未来へ向けて舵を切った。

 これまでのフリースタイル史を振り返れば、スノーボーダーたちの滑走スキルがアイテムを巨大化させ、それによりライダーたちは滞空時間を獲得してトリックの高難度化を加速させてきた。そして、高難度化ばかりが叫ばれて個性が失われてきたトリックたちに、本来の創造性を持たせるべくアイテムやジャッジシステムが変化し始めた現在。

 2022年の北京五輪まで2年を切った。フリースタイルスノーボーディングは競技として、どのようなフォーマットに進化していくのだろうか。技術力に創造力が掛け合わさることで、この“遊び”がより深化していくことが楽しみでならない。

(「オリンピックPRESS」野上大介 = 文)