取材・文/太田弘樹 ※スポーツ庁委託事業「スポーツキャリアサポート戦略における{アスリートと企業等とのマッチング支援}」の取材にご協力いただきました。 宮崎県日南市は、海外からのクルーズ船を誘致し訪日外国人観光客の取り込みに成功、そし…

取材・文/太田弘樹

※スポーツ庁委託事業「スポーツキャリアサポート戦略における{アスリートと企業等とのマッチング支援}」の取材にご協力いただきました。

宮崎県日南市は、海外からのクルーズ船を誘致し訪日外国人観光客の取り込みに成功、そしてシャッター街となっていた油津商店街にIT企業を誘致するなど、先進的な取り組みを続けており、ここ数年日本各地の自治体から注目を集めている。

そんな日南市が、新たな一大プロジェクト『総合型地域スポーツクラブ』の設立を進めている。地域の魅力を発信し、スポーツの力で地域を活性化させていくことを狙いとし、高齢化が進む市民の健康増進にもつなげたいと考えられている。

今回は、様々な改革を進めている日南市の﨑田恭平さんに、総合型地域スポーツクラブのことや日南市がスポーツを推進していく理由などを聞いた。

「プロ野球チームの広島東洋カープや埼玉西武ライオンズ。そして、サッカーチームは横浜FCなどが春季キャンプのためにこの地を訪れます。そのため、市民がスポーツ選手に触れ合う機会も多くあります。加えて野球場が3つ、体育館が10以上と、スポーツ施設が充実しており体を動かせる環境が整っています。日南市はスポーツに“縁”のある場所です。

しかし、課題もあります。宮崎県は、40歳から74歳の特定健診におけるメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の該当者とその予備群の割合が、全国平均よりも高くなっています(※全国26.2パーセント、宮崎県28.8パーセント。平成27年度厚生労働省調べ)。だからこそ、もう少し運動してほしいという想いがあります。

あとは、各学校の生徒たちも人数が少なく、サッカーや野球など大人数のスポーツができないということもあります。そして、中学になるとスポーツができる子は、高校進学と同時に他県の強豪校に行ってしまう。これは、とても残念なことです」

日南市は、2019年4月から28年3月までの10年間を計画期間として、『日南市スポーツ推進計画』を策定。これは、“地域で取り組むスポーツの推進”、“誰もが運動・スポーツができる機会と場の提供”、“市民の競技力向上を積極的に図るために一流選手の競技を見る機会”の場を増やしていくととともに、様々な大会を市民、各種関係団体、行政が一体となって支え、スポーツが更に身近なものになることを目標にしている。その柱となるのが、『総合型地域スポーツクラブ』の設立。

「私が市長に就任する約10年前に、この計画が頓挫してしまったと聞いています。その話を聞いて持続していく難しさを知りましたし、全国の総合型地域スポーツクラブの見ても、運営が中々上手くいっていない所があるということも感じていました。しかし、市として解決したいことが2つあり、計画を進めました。

1つ目は“子供たちがスポーツに触れる場所”を確保したいということです。前述したように、学校の規模で団体競技を行うのが難しい場合もあるので、学校の垣根を越え、多くの子供が集まる場所を作りたいと考えました。そして2つ目は、“メタボに悩む大人世代”にも気軽に体を動かしてほしいということです。学校&健康維持の問題を解消できると思っています」 2021年中に、総合型地域スポーツクラブを設立する計画で進めている日南市。そんな中、総務省の『地域おこし協力隊』を活用し、そこで働く人材を20年4月ごろから募集する予定だという。﨑田さんは、

「応募条件として、スポーツ経験者で能力のある方に来てもらえると非常に嬉しいですね。ただ、協力隊というのは期限があります。その期間において、自身で持続可能なビジネスモデルを作り上げてほしいということも求めています。それは、総合型スポーツクラブをやろうとした時点で強く言っています。

やはり、助成金頼りの団体になったらダメです。スポーツの経験があり、スポーツクラブの経営に携わりながら、きちんと自立してビジネスが出来る様な方に来て欲しいです」

将来は、この総合型スポーツクラブを基盤に、多くの元アスリートが日南市で指導してくれることを期待しており、その仕組み作りにも積極的に取り組んでいく意向があるという。最後に、『日南市スポーツ推進計画』のゴールを聞いた。

「やはり、1番のポイントは『総合型地域スポーツクラブ』の設立です。市民がスポーツを楽しむきっかけの場所になり、きちんと機能していくようにしていきたいです。そうする事によって、ここからトップアスリートが生まれるという可能性も出てきます。そのためにも、まずは裾野を広げていかないと何も始まりません。スポーツ推進計画の最終年年度となる2028年には、“多くの市民がスポーツをし、健康で笑顔が溢れている”というのが理想ですね」

26年には、宮崎県で国体を開催することが決まっており、県全体でスポーツへの関心が高まることが予想される。

そんな中、日南市の『スポーツ×地域』といったキーワードで、街全体を活性化させるという動きは、元アスリートにとっても嬉しい話。20年東京五輪・パラリンピック後に引退するアスリートも自身の競技経験を活かした仕事がしたいと考えている。その一助になる施策が、日南市から始まる。

(プロフィール)
﨑田恭平(さきた・きょうへい)
1979年5月生まれ、宮崎県日南市出身。九州大学工学部卒業後、宮崎県庁に入庁。地域振興や医療行政に携わる。2012年退職後、13年4月の日南市長選に無所属で立候補し、初当選を果たす。『できない理由ではなくできる方法を考える市役所』をモットーに市政を運営。市長就任後は、民間人の登用や民間企業との連携を積極的に推進。その行政手腕は全国から注目を集めている。

※データは2020年3月11日時点