新型コロナウイルスの影響で無観客開催が決定した大相撲春場所。

 年に一度しかない大阪場所へ訪れるのを楽しみにしていた地元ファンにとっては、非常に残念な結果となってしまった。

 しかし、こんなときだからこそ、土俵に臨む力士たちへ、いつもと変わらぬ声援を送ってほしい、いつものように、本場所を楽しみにしていてほしい。そんな思いで本稿をお届けする――。

アマチュア相撲界で一目置かれる力士。

 中村友哉(なかむら・ゆうや)。

 2010年代のアマチュア相撲界で、彼の名を知らない者はおそらくいなかったのではないだろうか。

 周りよりひときわ小さな体格だが、絶対に侮れない存在だった。小兵にありがちな、小技がうまくて何をするかわからない、という選手ではなかった。小さな体のなかに確立された強さがある、そんな印象だった。

 大学を卒業して角界入りした彼は今、「炎鵬晃」の四股名で大相撲の土俵を沸かせている。今では日本中にその名を轟かせるまでになった炎鵬の力士としての魅力をあらためて探りたい。

炎鵬の魅力その1:技術力の高さ

 まず、彼を語るに欠かせないのは、相撲における技術力の高さだろう。

 分かりやすいところでは、多くの人を驚かせた、初場所の阿炎戦での豪快な「足取り」だ。相手の片足を両手で持ち上げて倒すというこの技は、そう簡単に繰り出せるものではない。どんな技も「とにかく思い切りやることを心掛けている」という。

 細かい技術を見ても、立ち合いから左右に動いて相手の真正面に体を置かないようにする、腕を手繰ったり肩透かしにいったりすることで相手の体勢を崩す、ケガしてもそれをカバーするための戦略の巧妙さなど……あらゆる能力が高い。

 本人は「そんなに器用じゃないですよ!」と謙遜するが、これが器用でなくていったい何だというのだろう。

白鵬「自分のもつ限りすべての技術を教えています」

 本人の素質のよさはもちろんだが、角界で抜群の技術力を誇る同部屋の横綱・白鵬が、「炎鵬には、自分のもつ限りすべての技術を教えています」と自信をもって言うのだから、それは頷ける。横綱の内弟子として、日々の稽古で教わるものは大きいに違いない。

 加えて、同じく小兵力士として名高かった舞の海の相撲を見て研究することがある、と炎鵬は話す。

 例えば、左下手を取ったときの炎鵬は、体を素早く横に開き、前に落ちていく相手の体重を利用して、肩を抜きながら下手投げを打つ。一方で舞の海は、得意の左下手を取った後、下手投げだけでなく切り返し、内掛け、外掛けなど、多様な技を繰り出すことで相手を翻弄していた。まさに「技のデパート」だ。

 炎鵬は、「いつか内掛けとかやってみたいですね。決まったら気持ちよさそうじゃないですか」とにやける。

炎鵬の魅力その2:体幹力と柔軟性

 もう1つ注目したいのは、彼の体幹の強さだ。

 本人は「いや、体幹はあんまり強くないと思います」と謙遜するばかりなのだが、本当に弱いのであれば巨漢力士に押しつぶされてしまっているはずだ。

 相撲を取っているときの彼は、なぜか華奢だとか脆いなどとは感じさせない。おそらく体幹がしっかりしていて、大きな相手にも押し負けず立ち向かえる身体の芯の強さがあるからだと考える。

 そこでつながってくるのが、同部屋の先輩力士・石浦だ。

 彼も炎鵬と同じく小兵力士だが、角界でも名高い筋トレマニアで、いつ見てもその肉体に惚れ惚れさせられる。そんな石浦に最新のトレーニングを教わっているというのだから、これも納得できるのではないだろうか。炎鵬自身は、普段の朝稽古でへとへとになりながらも、週に2~3回はジムにも通っているという。

「重さを求めるより、使える筋肉を鍛えるようにしています。マシンだとターゲット部位が限定的なので、スクワットなどのフリーウエイトが中心です。そのほうが、足の先から全身に力を伝えることの強化になるので」

 それだよ、それ! 君の体幹の強さの秘密は! もちろん、稽古で流す汗があっての筋トレではあるが、フリーウエイトが体幹を、ひいては全身の筋肉を鍛えていることは間違いないと言っていいだろう。

柔軟性の高さはケガ予防にもつながる。

 さらに、どの力士にもある程度共通していることだが、炎鵬も例外なく体が柔らかい。

 股割りやストレッチなど、柔軟性の高い体づくりをすることで、ケガ予防にもつながる。

 場所中は特に、入念なストレッチを行ってから取組に臨む炎鵬だが、こうしたストレッチは、横綱や専門のトレーナーから教わったものだという。

「少しでも自分の体を使い切れるように、最近は特に腿を重点的にほぐしています。体が動かせると反応もよくなるので、徐々にストレッチの数と種類は増やしてきました。以前よりも体は使えるようになったかなと思います」

 こうして培った筋力やしなやかさを武器に、彼は土俵に臨んでいるのである。

炎鵬の魅力その3:最新の栄養学を採用

 感銘を受けるのは、稽古やトレーニングだけではない。食が細くなかなか量を食べられない炎鵬は、日々の食生活でも努力している。それは、大きくなるためにただやみくもにたくさん食べる努力の仕方ではない。

「体重が大きく変動すると、取り口が変わってきてしまいます。たとえ99kgでも、体の中身がよければそれでいいんです。数値よりも質を重視しています」と、力強く話す。

 では、たくさん食べられない分はどうしているかというと、サプリメントの力を借りているのだという。

 これも、ただたくさん飲むのではない。稽古前には「HMB(筋肉量増大・減少抑制のためのサプリメント)」、稽古中には「EAA(9種類の必須アミノ酸)」、稽古後にはリカバリー系のプロテインなどと、タイミングを厳密に考えて摂取しているという。

 そのほかにも、グルタミン、「BCAA(疲労回復のためのアミノ酸)」、コラーゲン、ビタミン類など、実に多くのサプリメントを活用していた。

「学生の頃はサプリなんて飲んでいなかったけれど、プロになったら自分の体に一番お金と時間をかけなきゃと思うようになりました。一日一日の稽古でのコンディションが大事になってくるので、毎日ベストな状態で臨めるように生活しています」

 一流とは、土俵の上だけではない。土俵を降りたところでの生活もまた、一流としての過ごし方が求められているのだ。

結論:「可愛い」だけじゃもったいない!

 小さな体と愛らしい見た目から、女性ファンに「可愛い」と形容される炎鵬。「カッコいいって言われたい。25歳で“可愛い”はキツイっす」という、同年代の男性が言ったらその辺のお姉さま方全員に殴り倒されそうな名言まで放っているが、文字通り可愛いから許されている! 世の中不公平極まりない……。

 それはさておき、ここまで述べてきたように、彼には容姿以外の魅力がたくさんある。

 もちろん、見た目から入って、どんどん彼を、さらには相撲そのものを、より多くの人に好きになっていただけたら本望である。だからこそ、「可愛い」だけで終わってしまうともったいない。今、ここまで多くの人を魅了する炎鵬を、いろいろな角度から見て、さらなる魅力を見出すファンが増えてくれることを願うばかりだ。

 こんなにも大人気で、上位陣にも負けない強さを見せる炎鵬だが、自身では「まだまだ相撲が遅い。決めるところで決め切れない、力を出させてもらえないところがあります。もっと速く動いて自分の形にすること。自分のペースで相撲を取れるように、考えていかなきゃいけないなと思っています」と、非常に謙虚な姿勢。

 この謙虚さと飽くなき探求心・向上心が、今後ますます彼を進化させていくだろうと確信している。

 成長し続ける角界の宝・炎鵬。最高にカッコいいぞ!

(「大相撲PRESS」飯塚さき = 文)