団体スポーツにおいてチーム成績が下降線を辿っていれば、監督は現状を分析し、できているところとできていないところを明確に把握し、リズムを取り戻すために、あの手この手と適切な手段で刺激をもたらそうとする。

 それがサッカーであればシステムを変更したり、戦い方そのものに変化を加えてみたりして、現時点での最適解を探し出す。そうした能力は、指導者にとって欠かせないものだ。

 長谷部誠と鎌田大地が所属するフランクフルトは前半戦終盤、一気に失速してしまった。2019年10月まではまだ悪くなかった。11月2日にホームでバイエルンに5-1の大勝を収めた試合で、ほとんどの力を使い切ってしまったのだろうか。

 その後、鎌田の2得点で勝利したELアーセナル戦を例外として、勝ち切れない試合が続いた。

 バイエルン戦後、リーグ戦7試合で1分6敗。昨年末の第17節パーダーボルン戦で、ヒュッター監督は急遽それまで慣れ親しんでいた3バックシステムから4バックへの変更を決断した。しかし、さすがに準備も何もないなかでのチャレンジは残念ながらうまくいかず。最下位チーム相手に1-2の敗戦を喫したこともある。

4バック変更でチーム状況が改善。

 あれから2カ月――。ヒュッター監督は失速の理由を詳細に原因究明し、冬の準備期間に戦い方の再整理に力を入れた。

「チームは冬合宿でしっかりとトレーニングをして、準備をしてきた」と強調するように、ブンデスリーガ後半戦最初の4試合で3勝1分、勝ち点10をあげ、再スタートダッシュに成功した。

 すると、1970年以来となるリスタートでの快進撃の要因として、3バックから4バックへのシステム変更であることを認めた。

「その通りだと思う。様々な分析を行い、何をすべきか考えた。特に改善すべきだったのは失点の多さだ。前半戦の平均失点は2点近く、あまりにもバランスが悪かった。そこでシステムを変更して、1対1に強いアブラアムとヒンターエッガーの2人をCBのベースとすることにしたんだ」

チームは好調、しかしその一方で。

 4バックの両SBにはトゥーレとエンディッカというCBが本職の選手を起用し、中盤にも走って、戦って、守れる選手を配備する。まずは堅守速攻を徹底し、簡単に失点をしない、粘り強く戦えるチーム作りを目指した。一方、ポジションを明け渡した前半戦の主力選手も多い。

 ヒュッター監督は「プレーしていない選手は不満もあるだろう。だが、最終的に大事なのはチームで、勝ち点3だ」とも語っていた。その通りだ。

 3バックのセンターで欠かせない存在だった長谷部も居場所をなくしてしまった。地元紙は「ハセベはシステム変更の犠牲となった」と報じ、その実力を惜しみながらも、順調に勝ち点を積み重ねている現実を受け入れざるをえないと見ている。

 長谷部は、そうしたチームの変化をどのように受け止めているのだろう。

「前半戦最後の試合を4バックでやって、そこでは感覚をつかめませんでしたが、合宿でしっかり4バックの練習をしました。監督はずっと4バックを採用していたので、本当は4バックで戦いたいんだろうなとは思っていました」

 チームの好調が喜ばしくないはずがない。そして、監督には監督の考え方があることもわかっている。ただ、プレーできない状況を納得するわけにはいかない。

 長谷部の心のなかでは、負けん気の強さが燃えあがっていた。

前半戦は少しアンタッチャブルだった。

 前述のコメントは、ベンチスタートながらアブラアムの負傷で途中出場した第21節のアウクスブルク戦後のもの。アンカーで起用されたこの試合では好プレーの連続で5-0の勝利に大きく貢献したにもかかわらず、その表情に安堵や喜びは感じられず、ポジション争いへ立ち向かう強い決意があふれていた。

 前半戦、長谷部は過密日程ながら毎試合フル出場する自分は「チーム内でちょっとアンタッチャブルな存在になっている気がする」と明かしてくれたことがある。

 しかし、システム変更によりポジション争いがシャッフルされた。自身の立場が変化していることもわかっている。またベテラン選手として、ピッチ外で求められる役割もある。でも自分は選手であり、ピッチ内で自身の経験をチームのために還元したいのだ。

 だから、そうした競争を前にした自分のなかに、まだまだ確かなハングリーさがあることを大事だと感じている。

「いつまでも飢えた状態でいたい」

「自分自身36歳ですが、いつまでも飢えた状態でいたいと思う。だけど、それがチームにとって良いことかと言われると……。競争はあるべきだし、そういう正しい競争のなかで自分が試合に出られたらいいなと。そういったハングリーさがなくなったら、サッカーをやめなきゃいけないとは思っています。

 若いときよりも落ち着きは間違いなくありますが、そのなかでもバランスを保って、ハングリーさ、向上心、競争に打ち勝つ強い気持ち、熱を持たなきゃいけないと感じています。自分のなかで冷静になる部分と熱の部分を、いいバランスで持ちたいなと」

 そのアウクスブルク戦では、印象深いシーンが2つあった。

 1つ目は、コスティッチがチーム4点目をあげる直前のシーン。中盤から素早く攻撃を仕掛けようとするチームのなかで、長谷部だけが後ろを振り返り、CBヒンターエッガーとコンタクトを取り、相手FWのマーク確認をしていた。攻撃ばかり、あるいは守備ばかりになりがちなチームに積極的に声をかけ、バランスを取り続けていく姿だ。

 2つ目は、コスティッチがあげたチーム5点目のあとだ。多くの選手は一緒に喜ぼうとコスティッチへ駆け寄ったが、長谷部は真っすぐパシエンシアへ歩み寄っていた。

 この得点は、フリーのパシエンシアが切り返しからシュートしようとしたところに走り込んできたコスティッチが、奪うような形でシュートしたもの。自身のゴールを奪われたと感情的になってしまったパシエンシアをなだめ、落ち着かせようとしていたのだ。

気持ちはわかる。でも僕たちはチーム。

 パシエンシアも長谷部同様、前半戦はFWの柱だったが後半戦は途中出場が続いている。気持ちはわかる。けれども、僕たちはチームなのだ。そのことを忘れてはいけないのだと。冷静さを取り戻したパシエンシアは、試合後コスティッチとチームに謝罪。わだかまりは生まれていない。

 アウクスブルク戦で改めて存在価値を示した長谷部は、ELザルツブルクとのファーストレグでアンカーの位置でフル出場し、90分間通じて見事なパフォーマンスでチームを勝利に導いた。

 次の展開を読みながら、攻守に最適なポジショニングを取り続ける。攻撃陣が慌て出すと自分のところでリズムを落ち着かせ、前線に動きがなくなってきたら、ロビングボールやサイドチェンジで変化をつける。

 そしてパスコースを予測して何度もインターセプトでボールをカットし、抜け出そうとする相手との1対1を巧みな追い込みで阻止していく。決定機も阻止した。

鎌田「ハセさんは目立っていた」

 77分、フランクフルトの守備が乱れた。

 CBがつり出されたが、最後のところで相手シュートをブロックしたのが長谷部だ。観客からは大歓声が起き、ソウが抱き着いて叫んでいた。

 また、奪ったボールを確実に次の攻撃につなげていくプレーも見事だった。2点目、3点目の起点も長谷部だった。自陣でパスを引き出して、素早く前線にパスを展開したことから生まれた2点目、そして、左サイドで相手の縦パスをカットしたところから仕掛けた攻撃が3点目につながったのだ。

 そんな長谷部の活躍に、鎌田も助けられていた。

「ハセさんは普段あまり目立つキャラではないですが、今日はすごく目立っていたと思う。(ボールを)取ってからのファーストボールをうまく前線に当てたり、今日は8番(ソウ)が結構動き回っていたので、そのスペースを埋めたり。わかりづらい部分が多いかと思いますけど、今日のハセさんは、すごく目立っていたかなと思います」

ドイツ人記者も頷くほどの説得力。

 長谷部は、気づけば再びなくてはならない存在となっていた。地元紙フランクフルタールンドシャウも「チームの頭脳。中盤のリベロとしてゲームを構築している。ボールを要求し、攻撃を作りあげていく。チームにとって欠かせない」と称賛した。

 第23節のウニオン・ベルリン戦でもフル出場を果たした長谷部。素晴らしかったELザルツブルク戦から一転、チームは低調になってしまった。試合後のミックスゾーンではドイツ人記者が長谷部を囲み、そのドイツ語に耳を傾けていた。

「コンスタントさに欠けている。1つの試合で素晴らしいプレーを見せたと思うと、次に今日のようなプレーをしてしまう。そこが僕らの問題。ローテーションを多くしているが十分なクオリティはある。今日はシンプルにメンタリティが足らなかった。1対1の競り合いや最後のところでやり切る力、そこが大事。僕らは自分たちのメンタリティを変えていかないといけない」

 真剣な表情で頷くドイツ人記者。どんなメンタリティをみせるべきか。それを体現する長谷部の言葉だけに説得力が違う。

 失ったと思われたポジションを取り返し、さらにレベルアップを果たし、またリーダーとしてチームを引っ張る立場に戻ってきた。経験に裏打ちされたインテリジェンスと今も心で燃え続ける情熱。長谷部の成長は、まだ止まらない。

(「欧州サッカーPRESS」中野吉之伴 = 文)