擁護するつもりはない。ただ、サイン盗みの責任を問われてメジャーリーグ機構から1年間の謹慎処分になったA.J.ヒンチ前アストロズ監督が、キャンプ直前になって受けた(MLBネットワークの)インタビューで出した正直な気持ちと、普段の彼がどんな人なのかということだけは、現場で取材したことのある人間として何とか伝えたい――。

 ヒンチ監督とは、青木宣親外野手(現東京ヤクルト)がアストロズでプレーしていた前半戦、何度か直接話をさせていただいた。彼らが球団史上初のワールドシリーズ優勝を果たした2017年、つまり、「サイン盗み」のシーズンのことである。

 アンフェアな行為は後半になって顕著になったと言われているので、当時の彼らがすでに「サイン盗み」をしていたかどうかは定かではない。だが、そんな不正をしていることまったくを感じさせないほど、いつも周囲に対するリスペクトを欠かさない人であり、頭脳明晰で慎重な人だった。

 かと思えば、オフレコの場面では多少の(元スポーツ選手らしい)汚い言葉も軽妙に使い分けるなど、ユーモアのセンスもある人だった。

 ただ、こちらが真面目過ぎたのか、キャンプ中から幾つか質問しても、よくある社交辞令的なコメントしかくれず、その後はあまり質問するチャンスもないまま、時間が過ぎていた。

青木のミスを、率直に説明。

 そんな頃、左翼を守っていた青木から始まったとある中継プレーの乱れについて尋ねる機会が巡ってきた。ヒンチ監督は『なんだよ、珍しいな』とでもいうように口元に笑みを浮かべながら、我らが日本人選手のプレーを理路整然と説明してくれた。

「ノリはあの時、躊躇せずに一番近くにいる内野手に返球すべきだったんだ。カルロス(・コレア)がいるべき中継地点に遅れたのは確かだが、それは彼が走者を見ながら動いていたからで、試合の中では起こり得ることだ。躊躇したことで彼が送球するタイミングも乱れ、送球がワンバウンドになってしまったのさ」

 とても流動的なプレーが多く、一瞬の判断が求められるディフェンスの肝を捉えた言葉だったが、そのやり取りを今でもよく覚えているのは違う理由だった。

 それはヒンチ監督がその時、選手を責めたくない時に使う「I believe」というような曖昧な言い方をしなかったからだ。

「ノリはもう同じミスをしない」

 ディフェンスだろうが、オフェンスだろうが、彼には明確なコンセプトがあり、そのイメージに沿ったプレーができなかった理由もはっきりしていたのだ。そして、彼は「それについてノリに話はするけど、もう終わったことだから」としながら、最後にとてもプロフェッショナルな態度でこう言ったのである。

「ノリはもう同じミスをしない。私には分かっている」

 その言い方はちょっと、心を捉えた。

 もちろん、そんな風に選手を真直ぐに信じる監督だったからと言って、今回の「スパイ疑惑」で「選手を信じることが仇になった」などと結論付けるつもりはない。

 件のインタビューで彼がひとりで説明責任を果たさなければならなかったのは、彼自身が「今の私には自信があるけれど、2017年は今より自信がなかった」と語ったように、「スパイ行為」が行われていることを知りながら、それを止められなかったからだ。

 彼はあの用意周到な「スパイ行為」に使われていた機器を、2度にわたってバットで殴って壊してメッセージを送りながらも、その首謀者である者たちに対して面と向かって「私はこのやり方が好きじゃない。もう止めようじゃないか」と言うことができなかったのだ。

罪を全面的に認めて、なお誇り高く。

 だから、インタビューで「すべては監督である私の責任だ」と話す姿に潔さは感じても、「私にはもっと多くのことができたはずだし、そうすべきだった」と後悔の念を見せることには、同情する気持ちはあまり湧かなかった。

 インタビューで印象的だったことがあるとすれば、それはヒンチ監督が罪を全面的に認めながらも、許しを乞うような哀れな感じを一切出さなかったことだろう。

 彼は「決して誇りに思えない過ちを犯した自分が、この状況でどのように対処するのかを、自分の家族に見て欲しいと思った」と言い、ある種の誇りを持って行動していることを強く、感じさせた。

「私は強くなって戻ってきたい」

「謹慎処分が始まったのは(更迭が)発表された日だが、キャンプが近づいているのに、自分が何も準備をしていないことで公式に処分が始まったと感じている。私にとっては24時間、週7日が全部ベースボールなんだ。

 謹慎がどのようなものになるのかは想像もできないが、ワールドシリーズが終わった頃には、精神的にも肉体的にも準備ができているはずだ。どのように野球界に戻ってくるのかは分からないが、私は強くなって戻ってきたいと思っているし、強くなって戻ってくる」

 ヒンチ監督のインタビューを受けて、当時、「スパイ行為」に関わった選手たちは、どう反応するのか。

 今のところ、当時の選手たちで謝罪めいたことをしたのは、あまり「スパイ行為」の恩恵を受けたとは思えない左腕ダラス・カイコー(現ホワイトソックス)、チャーリー・モートン(現レイズ)両投手など少ないが、いつまでも逃げているわけにはいかない。

 先にキャンプインするバッテリー組から遅れてキャンプ地に姿を現すアストロズの野手たちから、正直な言葉を聞きたい――。

(「メジャーリーグPRESS」ナガオ勝司 = 文)