演技が終わると、小さく首を縦に振った。その表情は笑顔だ。

 フィギュアスケートの四大陸選手権で、男女を通じて大会史上初めて連覇を達成した紀平梨花は、結果を出すとともに、手ごたえをつかみ、大会を終えた。

 出色は、ショートプログラム1位で迎えたフリーの、後半の演技だった。紀平は、冒頭、4回転サルコウを回避し、トリプルサルコウを跳ぶ。

「今日、起きたときの疲労がすごかったです。公式練習でアクセルとかほかのジャンプが歪んでいるのが多くて、それを修正しないといけなかったので、4回転サルコウを練習している場合じゃないなというか。練習が終わったときに4回転を跳ばないと決めました。練習でやらない時点で絶対にやってはいけないと思ったので」

予定していたジャンプを次々に変える。

 無事、トリプルサルコウを成功させる。だが次に予定していたトリプルアクセルーダブルトウループは、アクセルが1回転半になるミス。
 
 それでも2つ目のトリプルアクセルにダブルトウループをつけて成功させた紀平は、後半、予定していたジャンプを次々に変える。

 トリプルフリップートリプルトウループは、3つ目にダブルトウループをつけ、3連続ジャンプに切り替える。次に予定していたトリプルルッツーダブルトウループーダブルループは、トリプルフリップートリプルトウループに。

 これらの変更により基礎点をアップさせた上で、両方のコンビネーションジャンプを成功させ、得点の向上に結びつけた。得点は150点を超え、ショートとの合計得点は232.34点。今シーズンの自己ベストをマークした。

 4回転サルコウを跳ぶことなく、トリプルアクセルで失敗がありながらこの得点をあげられた要因の1つには、リカバリーの成功が間違いなくあった。

ステップの最中、瞬時に思考を巡らした。

 ではジャンプ構成の変更は、いつ決めたのか。

 紀平は答える。

「2つ目のトリプルアクセルのあとのステップのときに考えました」

 フリーでは、3回転のジャンプは2種類だけ繰り返して行なうことができる。

 そのうちの1つ、トリプルアクセルが失敗した。つまり、他の種類の3回転ジャンプを繰り返して実行する余地が生まれた。

 どういう構成ならそれが可能か。ステップの最中、瞬時に思考を巡らし、組み替えたのだ。

「リカバリーで大幅に変更して、それがうまくいったのは収穫だったと思います」

 と、笑顔を見せた。演技を終えたあと、濱田美栄コーチにも「落ち着いていたね」とほめられたという。

 とっさの判断力はまぎれもなく、紀平の成長を示している。

「優勝を狙っていました」

 今大会でもうひとつ確認できたことがある。紀平の勝負へのこだわりの強さだ。

「優勝を狙っていました」

 そう紀平は言う。4回転サルコウの回避の理由にも、勝負を考えての要素があった。

「入れることで崩れてはいけないですから。どの試合も勝つことを大事にしています」

 リカバリーもまた、勝つために、最大限に得点を伸ばしたいという強い意志があってのことだ。

 以前の取材でも、結果を出すことへのこだわりを語っていた。その理由も言葉にしていた。

ロシアの選手たちに勝つために。

「フィギュアスケートをずっとやってきて、ほんとうにたくさんの方に支えられてきました。恩返しするには、成績しかないと思って私はやっています」

 それが紀平の芯の強さになっている。そして四大陸選手権は、そんな芯をあらためて思わせる大会だった。

 収穫を手にした紀平は、このあと、チャレンジカップを経て、世界選手権へ挑むことになる。

 今シーズン、シニアデビューを果たしたロシアの選手たちに跳ね返されてきた。競り合い、勝つためにはさらにレベルアップを図らなければならない。

 当然、紀平も自覚する。

「トリプルアクセルの安定感とか、4回転の練習、スピン、ステップの強化とか、たくさんやることがあります。(帰国しても)すぐに練習をします。いつも通り、休みはあまりないと思います」

 勝ちたいからこそ、彼我の差も知る。それを埋めたい、上回りたいと思う。

「フリーは160点を目指したいです」

 それを実現できたとき、拮抗した勝負が現実となるだろう。

 今大会で得た手ごたえとともに、今シーズンの集大成となる大会を見据える。

(「オリンピックへの道」松原孝臣 = 文)