スポークライミングのボルダリングジャパンカップ(BJC)の女子決勝。2017年大会を史上最年少で制した伊藤ふたばが、東京五輪代表に内定している野口啓代や野中生萌らを抑え、3年ぶり2度目の優勝を飾った。

 伊藤は準決勝をただ1人「4課題全完登」で1位通過すると、6人で争われた決勝でも終始冷静なトライを見せる。第2課題こそ完登できなかったが、続く、第3課題で勝負強さを発揮した。

 選手たちの前に立ちはだかった第3課題の難関。スラブ(緩傾斜)のスタートが難所となり、悪戦苦闘した。野口や野中らもダイナミックにムーブを試みるが、結局、攻略はできなかった。

 全員が失敗して迎えた3つ目の課題。他の選手の競技の様子は見られないが、伊藤は会場の雰囲気で察した。

「みんなができてない課題を完登するのは大きいと思いますし、ゾーンを取れるだけでもかなり違ってくる。自分が有利な位置に立つには、3課題目を登ることだなと感じていました」

「自分自身と、課題と向き合えた」

 いよいよ第3課題がスタート。伊藤はまずルートをじっくり見極めた。

「見た目だとじわじわいくのか、コーディネーションで行くのか分からなかったのですが、壁に入って、実際にトライしてみて、ホールドに対していいポジションにもっていくことを意識していました」

 野口でさえ「登り方が最後までわからなかった」という課題。思い切って繰り出したムーブがピタリと止まり、伊藤はそのまま完登。ゾーン獲得の差で首位に踊り出た。

 最終課題は巨大なハリボテの先端をめがけ、大ランジでスタート。2トライ失敗してたが、3トライ目で「気持ちでゴリ押しした感じだった」というパワーが消耗する中間部をなんとか突破。同じく、3つの課題を完登していた野口を、ゾーン獲得数の差で上回り、3年ぶりに女王の座に返り咲いた。

「決勝が始まる前は、(競技順が)最後ということですごく緊張するのかなと思ったんですが、始まってみたら普通に、そこまでプレッシャーを感じることもありませんでした。自分自身、そして課題と向き合えたことが良かったんだと思います」

「勝ち負け」よりも「登りたい」

 緊迫した雰囲気でも、笑顔を見せるシーンが目立った。

「タイトルを気にしすぎると、そこばかりに集中してしまって緊張したり、その課題を楽しめない。最高のパフォーマンスを出せたらいいなと考えていたので、1課題、1課題、向き合っているという感じでした」

 完登すれば優勝の最終課題でも、「勝ち負けというより、この課題を登りたいというふうに考えていました」と自然体で臨んだ。

「(前回の優勝は)かなりまぐれだったけれど、今日はしっかりと実力もついて、強くなって優勝できたと思う」と伊藤はうなずく。第2課題こそ完登できなかったが、「その後に気持ちを切り替えて臨めたことが良かったと思います。そういったメンタル面での成長を感じることができました」と手応えも感じていた。

野口啓代は憧れでもあり、目標。

 W杯で多くの経験を積み、時間の使い方やムーブの読みも磨かれた。

「世界のトップ選手と一緒に登ることで刺激を受けましたし、自分がここまで強くなれば戦えるとか、自分には今なにが足りていないのかを明確にすることができた。そういった部分を集中して補っていくことで、タイトルが取れるようになってきているんじゃないかと思います」

 とくに、BJCでタイトルを争った野口は、伊藤の中でも大きな存在だ。

「啓代ちゃんは、ずっと世界のトップにい続けている選手。まずはそこを超えないと世界で勝てない」

 自身が競技を始める前から、日本のスポーツクライミングの第一人者として活躍していた女王の存在は、憧れであり目標。野口に追いつきたい一心で、その背中を追い続けてきた。

「たくさん吸収したい」

 今回の大会は東京五輪を最後に引退する先駆者と戦う最後のジャパンカップだっただけに、野口を抑えて優勝したことは、大きな自信となっただろう。

「今シーズンの1つひとつの大会が、啓代ちゃんと戦える最後になってしまう。そう考えるとすごく悲しいし、ずっと一緒に出たかったなという思いもあります。ただ、BJCで勝てるのは、今回が最後のチャンスだったので、勝つことができたのはすごくうれしいです。少しずつでも、(野口に)近づいてこられているんじゃないかなって。

 啓代ちゃんと練習できる機会も限られていますし、1回1回の練習を大切にしたい。吸収できる部分はたくさん吸収したいと思っています」

 姉のように慕う野口とともに東京五輪に出場することは大きな目標でもある。

 現在、東京五輪代表選考をめぐって国際連盟と日本協会が係争中で、先が不透明な状態。ただ、選手としては静観することしかできない。来るべき日のために、伊藤は「しっかりと調整していきたい」と前を向いていた。

(「オリンピックPRESS」石井宏美 = 文)