試合後の記者会見で、こうしておけばよかった、という点はあるかと聞かれた大坂なおみ(日本/日清食品)は、「ボールをコートに入れること」と感情を込めずに返した。2セットで終わった短い試合にもかかわ…

試合後の記者会見で、こうしておけばよかった、という点はあるかと聞かれた大坂なおみ(日本/日清食品)は、「ボールをコートに入れること」と感情を込めずに返した。

2セットで終わった短い試合にもかかわらず、アンフォーストエラーは30本に達した。相手に強いられたフォーストエラーも24本、ココ・ガウフ(アメリカ)のウィナーは6本にすぎず、ガウフの全獲得ポイント60の大半が大坂のエラーだった。

数字の上でも、印象としても、大坂のひとり相撲と見られても仕方のない試合だった。

大坂はプレッシャーがあったことを明かす。まず、前年優勝者として連覇を期待される重圧があった。また、世界ランキング67位のガウフに対し、「数字の上で、勝つと思われていたことでプレッシャーを感じた」という。勝って当然と見られる試合で、選手には大きな重圧がかかる。こうしたプレッシャーで、大坂は「目の前にかすみがかかっているように感じた」という。

また大坂は「前回の対戦のこともあって、大変な盛り上がりの中での試合になった」ことを、硬くなった理由に挙げた。昨年の全米で二人は初めて対戦、試合後の勝者大坂の態度が賞賛された。涙をあふれさせるガウフを見て、大坂は一緒にオンコートインタビューを受けよう、と誘った。15歳の敗者への気づかいはこの大会のハイライトの一つとなった。よくある因縁の対戦とはまったく性質が違うが、こうして“物語”が肥大化したことも、心の平穏を大事にする大坂の集中力を妨げたのかもしれない。

こうして、大きなプレッシャーを受けながら臨んだ試合だった。では、実際の試合ではどうだったのか。大坂は前回の対戦時と比べ、より緊張したと明かしている。「一度勝っていることで彼女がもっといいプレーをしてくる」と予想できたからだ。ただ、緊張したことは大きな問題ではないとも話している。それよりも、相手のプレーから「圧」を感じたことが大きかったのではないか。

「彼女のサーブが全米のときより速かった。彼女がアグレッシブにやってくることは分かっていたが、それがどの程度なのか、私には分かっていなかった」と大坂は話している。15歳の成長は十分に予想できたが、これほとどは思わなかったのだろう。

全米で対戦した際、ガウフのファーストサーブは最高時速192kmをマークした。半年後のこの試合の最高は188km、すなわち、当時からスピード自体はあったのだ。スタッツから分かる大きな違いはファーストサーブ時のポイント獲得率だ。全米では42%だったが、この試合では76%と大きく伸びた。これは大坂の74%をしのぐ。サーブのフリーポイント(エース、ウィナーと相手のリターンミス)は40%に達し、これも大坂の23%を大きく上回った。

大坂が「速かった」と感じたのは、速度そのものではなく、そのサーブに大きな脅威を受けたからだろう。ストローク戦でも同じように脅威を感じたようだ。「彼女はよりネットに近いところから打ってきた」。大坂の言葉は、前に入って攻めてきた、と言い換えることができる。「自分から攻めていきたかった」という大坂だが、相手の圧の前に、アンフォーストエラーを重ねていく。

大坂は「私のバックハンドはフォアより安定しているはずなのに、どのボールも大きく飛んでいってしまった」と自嘲気味に話した。「彼女がこんなプレーをしてくることを予期しているべきだった」。大坂は悔いを口にしたが、ある程度予期したとしても、ガウフのプレーは想定以上の水準だったのではないか。

当たり前だが、テニスは相手がいる競技だ。出来は、相手のプレーのクオリティにも支配される。筆者は駆け出しの頃、日本の女子選手の草分けでフェド杯代表監督もつとめた宮城黎子さん(故人)に、やんわり諭されたことがある。ある日本選手が消極的な内容で敗れたことを嘆くと、宮城さんは穏やかに「まあ、相手もいることですからね」と返してきた。

そうなのだ。相手から圧力を受けている状況で本来のプレーを発揮するのは難しい。重圧や緊張感に悩まされている状態なら、なおさら自分のプレーを出すのは難しい。

「アンフォーストエラー」とは相手に関係なく自分からおかしたエラーと定義されるが、本当にそうだろうか。相手のプレーによって、アンフォーストエラーを“強いられる”ケースも案外多いのだ。大坂は、そんなエラーを連発し、散っていった。

「私はまだ勝者のメンタリティを持っていないのだと思う。そうありたいとは思っていても、それにはほど遠い」

相手がどんなに質の高いプレーをしても、揺るがず、それ以上のパフォーマンスを発揮できるのが本当の強者、勝者である。大坂が目指すのは、まさしくその領域なのだが。

(秋山英宏)

※写真は「全豪オープン」での大坂なおみ

(Photo by Hannah Peters/Getty Images)