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 ポケモンを全クリして、あまおうをめっちゃ食べたくて、濃いぃラーメンも食べたくて、家の周りを車でうろちょろして、クリスマスには親知らずを抜く。あ、そして来年はまず東京オリンピックのことしか考えられない。

 そんなゴルファーっている? いた。

 渋野日向子だ。

 宮崎カントリークラブで行われた国内女子ツアー最終戦、LPGAリコーカップの最終日。8月に全英女子オープンを制して一躍時の人となった渋野の1年の締めくくりのラウンドでもあった。

 結果は3バーディー、1ボギーの70で回り、トップと4打差の2位タイ。賞金ランク1位の鈴木愛には約750万円及ばず、逆転女王は叶わなかった。それでもツアー1年目のルーキーが最終日のバックナインまでその可能性を残し、優勝争いの、そして賞金女王争いの興味をつないだ。望外の結果だろう。

優勝が潰えた18番でも笑っていた。

 激動の1年を終えて少しぐらいは感傷的になってもよさそうなラウンドの後、かいつまんで言うと冒頭にあるような、そんなようなことを渋野は記者会見で言った。

 そんな人いますか?

 首位のペ・ソンウ(韓国)との差が開き、優勝の可能性がほぼ潰えていた最終18番パー4。渋野は彼女らしくよく笑った。このホールはまるで渋野の今シーズンになぞらえることもできるようなプレーだった。

最高の前半戦、転がり込んだメジャー。

 第1打。ドライバーでのティーショットは「今日イチだった」という会心の当たりでフェアウェーを捉えた。

 5月には国内メジャーのワールドレディス・サロンパスカップでツアー初優勝を飾った。初優勝後には一時的な落ち込みを経験したが、7月には資生堂アネッサ・レディスですぐさま2勝目。ルーキーとは思えない最高のシーズン前半戦を過ごした。

 第2打。残り172ヤードを5番アイアンで狙い、ピン手前2.5mのバーディーチャンスにつけた。打った瞬間、渋野は普段と違う感じで笑っていた。

「はい、ダフりました(笑)。ダフって乗せるところとか、本当に私を象徴しているなと思う球だった」

 前半戦の活躍で全英女子オープンの出場権が転がり込み、初めての海外ツアーがメジャーの舞台となった。そこで思いがけず、42年ぶりの日本人メジャー優勝を成し遂げてしまった。しびれる場面で駄菓子を頬張る豪気な姿も話題になり、まるで魔法にかけられたように周りの世界が一夜にして変わった。

総決算に相応しいバーティーパット。

 第3打。バーディーパット。グリーンの周りには幾重にも人垣ができ、渋野の一挙一動を凝視していた。打ち出したボールがわずかに右に切れながらすっとカップに消えた瞬間、体を起こして今度はホッとしたように笑った。

「今日のどのパットよりも気持ちが入った。入った瞬間は安堵というか、笑いしか出なかったですね。本当にいい終わり方をしたな」

 全英後、大フィーバーが巻き起こった。出歩けばサインや写真を求められるようになり、気を遣って車の運転を自重するようにもなった。ゴルファーとしての葛藤もあった。本来はミスが出ればすぐ仏頂面になり、悔しさを隠そうともせず、笑顔だけでなく喜怒哀楽のすべてが強く出るタイプ。それが全英でのにこにこした笑顔で名づけられた『スマイルシンデレラ』のイメージによって、世間のイメージと自分本来のキャラクターにギャップができていた。結果を求めて肩にも力が入った。

「全英ではそんなにめちゃくちゃ笑っているつもりもなく、楽しんでやっていた。でも『スマイルシンデレラ』と名前を付けてもらったことで、ずっと笑っておかないといけないのかなと思いながらやっていた時期もあった」

 そうしたくびきから解き放たれたのが9月のデサントレディース東海クラシック。

「結局は自分の人生だからやりたいようにやればいいなと思った」

 その前週の試合では29ラウンド連続オーバーパーなしの国内記録も途絶えていた。スコアにとらわれず開き直って自然体を取り戻したら、すぐに優勝という結果につながった。

 大勢の注目と期待を浴び、どうにかそれに応えようと奮闘しながら、結果も残して最終戦まで駆け抜けた今シーズン。だからこそ大観衆の前で奪った18番のバーディーは総決算に相応しかった。

ショートゲームと、心と体のバランス。

 この日のプレーには渋野の課題も如実に表れていた。アゴにぶつけた9番のバンカーショットだけでなく、ボギーとした15番のグリーン奥からの寄せなど、要所でアプローチに泣いた。

 青木翔コーチは「課題はショートゲーム。それは明確。攻めていくと反動もあるので、いかにパーを拾っていけるか。そこも春先に比べたらだいぶ向上している。焦らずにうまくなってくれればいい」と語った。課題の改善というよりも手付かずの領域の習得はまだこれからになる。

 第3ラウンドの後半にはドライバーが、そしてこの日の前半もピンを狙うアイアンショットが左にぶれてチャンスを作れなかった。最終日の朝の練習場、渋野を視察に訪れた男子プロの深堀圭一郎は「すごくハンドダウンの構えだから、上体に力が入るとかかと体重になる。そうすると左にいくミスが出やすくなるだろうね」とそのスイングを読み解いていた。

 優勝争い、タイトルのかかった状況で心と体のバランスをいかに保つか。来季はそこも一層大事になってくるはずだ。

すべてを吹っ飛ばすパワーと笑顔。

 充実のシーズン、最終戦、最終日、最終ホール、そして記者会見。オフの予定も聞かれた渋野は次から次にこう答えた。

「とりあえず12月中にポケモンを全クリしたいなと思う」

「あと、なんだろなあ……。今日あまおうデビューしたんです。12月でめっちゃ食べたい。んふふはは」

「年末年始はクリスマスに親知らずを抜きます。24日に。クリスマスイブに。悲しいですねー! んなはははは!」

「車乗ったらストレス解消になるけど、なかなか最近乗れていないので家の周りをウロチョロしようかな」

「いま、すっごいおなか空いてるんですけど。いま、めっちゃラーメン食べたいです。濃いぃラーメンが食べたいです。あはははは」

 真面目な話もいっぱいしたはずなのに、スーパースターの憂鬱や苦悩なんてすべて吹っ飛ばすようなパワー、そして笑顔。

「いろんな意味で謎です」

 ひとしきり盛り上がったところで2019年を振り返って一言で、と質問が飛んだ。

「ひとことで? 2019年を一言? 一文字じゃなくて?」

「えー……、『謎』。謎です。いろんな意味で謎です」

 どんなスピーチライターでもこんな受け答えは書けっこない。ボクシングでは見えないところからのパンチが一番効くというけど、それです。KOパンチ。

 何が謎なんだろう。

 ルーキーイヤーにこれだけの成功を収めたこと? 自分のことをみんながこれだけ応援してくれたこと? それとも……、えーっと……、なんだ?

 謎だというなら、それは誰より何よりまず渋野日向子である。

 東京五輪が控えている来季は2月の米女子ツアーで大会からスタートを切るという。謎を解き明かし、渋野日向子を全クリするためにも、2020年もまた彼女のプレーを見るしかない。

(「ゴルフPRESS」雨宮圭吾 = 文)