スペイン・マドリードで開催されたデビスカップ・ファイナルズ(デ杯)は、1世紀超の歴史を持つ国別対抗戦がまったく新しい大会になったことを示した。

 デ杯は創設時からホーム&アウェー方式が特徴だったが、1会場に18カ国を集めて開催する方式を初めて採用、地元スペインが新フォーマットでの最初の優勝国となった。

 これはデ杯ではない、デ杯は魂を売った--改革案が浮上した瞬間から、激しい反対意見が飛び交った。10度の優勝を誇る伝統国フランスはボイコットもちらつかせ、実際、反対派の急先鋒で昨年の準優勝にも貢献したリュカ・プイユは今回、メンバーに入らなかった。

 楽天の三木谷浩史CEOと関係の深いサッカー選手、ジェラール・ピケ率いる投資グループ「コスモス」が運営にかかわることから、「デ杯は金で買われた」と批判する反対勢力もあった。

3セットマッチ、年1回の集中開催。

 ただ、デ杯が曲がり角に来ていたのも事実。優勝するには年4度の対戦が必要な旧方式は選手の負担が大きく、ロジャー・フェデラーなどトッププレーヤーが出場を回避する傾向があった。四大大会と同じ5セットマッチも、心身への負担が大きすぎると見られていた。

 今回の改革では、選手の負担を減らし、トップ選手の参戦を促すために、3セットマッチに変更、年1回の集中開催とした。また、シングルス4試合+ダブルス1試合から、単2試合+複1試合に変更。以前は5試合を3日間で開催したが、これで1対戦を1日で終えることが可能になった。

 英国代表のアンディ・マリーは初戦を終えて「今のところ、何も非難すべき点はない。始まる前からこのイベントをたたいてやろうと思っていた人がいたのだと思う。まずはやってみて、最後まで見届けて、現状を見たうえで意見を示すのがフェアだ」と話した。

地元スペインがからまないと……。

 その英国を含め、地元スペインがからまない対戦では、観客の入りが悪かった。特に英国vs.ドイツという伝統国同士の準々決勝が空席の目立つスタジアムで実施されたのは残念でならなかった。

 日本を含め、海を渡って駆けつけた熱心な応援団の姿もあったが、どの“アウェー”チームも少数精鋭で、ホーム&アウェー方式で見られた圧倒的なボリュームの声援、熱量の高い応援は望むべくもなかった。

 1次リーグの日本vs.フランス戦では、音量でも熱さでも日本の応援団が優勢だった。

 フランスは本来なら大応援団が駆けつけるはずだが、ヤニック・ノアら歴代のデ杯監督が新フォーマットを批判したことにファンも同調、その意思表示として応援を自粛したようだ。

空席の目立つ観客席に皮肉コメント。

 数少ないフランス人観客は「見ただろ、あの空席を」と苦い顔をした。彼はマドリード在住で、3年前に全米オープンも観戦したというから、筋金入りのファンだろう。「この雰囲気、どう思う?」と逆に聞かれた。自国開催のデ杯の熱狂も知っているだけに、すきま風が吹く応援席の雰囲気が気に入らないのだ。

 ダブルスに出場したフランスのエルベールは、空席の目立つ観客席について「国のためにプレーすることには変わりない」と模範解答を返したが、皮肉の利いたコメントも忘れなかった。

「ラ・マルセイエーズ(フランス国歌)を歌う自分の声が聞こえるなんて、特別な体験だった」

 彼は昨年、フランス・リールで開催されたデ杯ワールドグループ決勝でプレーしている。2万人が歌うラ・マルセイエーズを聞いた耳に、この日は自分とチームメイトの歌声ばかりが大きく響いたようだ。

午前4時過ぎに試合終了したことも。

 あらためて言うが、ホーム&アウェー方式はデ杯の醍醐味だ。

 観客席の8割9割はホームのファンで埋まり、極端に片寄った応援になる。ところが、スタジアムを覆い尽くすホームチームへの応援をものともしない選手がいる。片寄った応援に反骨心を燃やすのだ。

 逆に大声援が重圧となり、力を出せない選手も珍しくない。そうして、いくつものドラマが生まれた。

 デイセッションが午前11時から、観客を入れ替えて午後6時からナイトセッション開始という日程にも批判が集まった。

 夜の部の試合開始が遅れ、深夜に及ぶ対戦が続出した。1次リーグのカナダvs.米国戦は3試合目のダブルスの終了が午前4時を過ぎた。1週間の日程に試合を詰め込んだ弊害である。

 大会は、批判を受けて、開始時間を昼夜とも30分ずつ早める異例の対応をとったが、根本的な解決にはほど遠かった。

ナダル、ジョコ、マリー参戦の意義。

 ネガティブな話題を並べたが、試合内容は素晴らしかった。エルベールのように、国のため、チームメイトのためにプレーする選手たちは高いパフォーマンスを見せた。使い古された言葉だが、名誉と誇りをかけた戦いである。その質は応援の量には左右されない。

 最終試合のダブルスに決着がもつれる対戦も多く、ツアーでは軽視されがちなダブルスが存在感を増した。ラファエル・ナダル、ノバク・ジョコビッチといった、普段ダブルスをプレーしない選手がチームのために奮闘する姿も印象的だった。

 マリーを含め、BIG4のうち3人がプレーしたことも特筆すべきだろう。若手を含めたスターがそろい、プロ野球で使われる“夢の球宴”という言葉が頭に浮かんだ。

 この内容がテレビ中継や報道で広く伝われば、次回は国外からのファンも増えるだろう。運営、試合日程など改善の余地は多いものの、選手の奮闘が多くの不備を補った。大会はおおむね成功したと見ていい。

ホーム&アウェーで育まれた歴史。

 ただ、新フォーマット万歳、というわけにはいかない。新方式についてロシアのシャミル・タルピシェフ監督はこう話した。

「記憶が正しければ、デビスカップは95回目(正しくは108回)です。新しいフォーマットは素晴らしい。スターが一堂に会するのです。でも、私は古いフォーマットを支持したい。

 古いフォーマットがテニスにおける愛国心を育み、小さな国または中程度の国では、国を愛する気持ちがテニスの普及に貢献したからです。世界中のあらゆる国でチームスピリットを育み、愛国心を育んできたからです」

 新フォーマットがどんなに成功しても、ホーム&アウェーで育まれたデ杯の歴史を忘れるなという戒めだろう。フォーマットについては本来、普及という視点からも語られるべきだった。ホーム&アウェー方式と普及とのかかわりに言及した、このコメントは貴重だ。

 やってみればいいじゃないか。

 このマリーの言葉は、新フォーマットのスタートにふさわしい掛け声だった。大会は幕を下ろしたが、実際やってみて、どうだったのか、デ杯のあり方についての議論はこれからが本番になる。

(「テニスPRESS」秋山英宏 = 文)