テニスのワールドカップをうたう国別対抗戦、デビスカップ・ファイナルズが11月24日までスペイン・マドリードで開催されている。エースの錦織圭を故障で欠いた日本はラウンドロビン(1次リーグ)で2連敗、すでに大会を去った。

 ガエル・モンフィス、ジョーウィルフリード・ツォンガら選手層の厚いフランスと、ノバク・ジョコビッチ率いるセルビアに2戦通算1勝5敗の結果が残った。

 錦織抜きでは――と嘆くファンの声が聞こえてきそうだ。しかし、筆者は悲観論にはくみしない。

前回準Vのフランスを追い込んだ。

 日本はフランスとこれまで4度対戦して全敗だった。迎えた5度目の対戦、先陣を切った内山靖崇はツォンガに完敗したが、第2試合の西岡良仁が世界ランキング10位のモンフィスから白星をもぎ取った。

 チームの勝敗決定後の消化試合での勝利と、相手の途中棄権による白星を別にすれば、日本選手のフランス相手の勝利は、初対戦の1926年に原田武一がルネ・ラコステを倒して以来93年ぶりだった。

 ダブルスに出場した内山靖崇、マクラクラン勉は、前週に行なわれたツアー最終戦、ATPファイナルズのダブルスを制したピエールユーグ・エルベール/ニコラ・マユと最終セット5-5まで互角に戦った。

 もちろん負けは負け。しかし、1927年の初優勝からデ杯で10度の優勝、昨年は準優勝の強豪フランスを、あと2ゲームで初戦黒星の窮地に追い込んだのだ。

「負けてしまったことはしっかり受け止めるが、我々のチームができることは出しきった」と岩渕聡監督が振り返った。大会前のランキングではフランスが1位、日本は17位だったが、世界のトップに絶望的な大差をつけられているわけではないことが確認できた。

日本の成長を象徴する西岡のプレー。

 しかし、次のセルビア戦は完敗で、岩渕監督は「強豪のチーム、選手に通用するものと、まだ届いていない部分が分かった」と話した。

 良くも悪くも、これが日本代表の現在地だ。だが、悲観すべき内容ではない。フランスのエルベールは対戦した内山を「年々よくなっている」とほめたが、年々強くなってきた日本チームを改めて実感できた2戦ではあった。

 好印象は、チーム唯一の白星を挙げた西岡の功績が大きい。

 大会はATPツアーのマドリードオープンと同じ会場で開催された。施設の愛称「カハ・マヒカ」は英語では“マジック・ボックス”。その舞台で、西岡がマジシャンぶりを発揮した。

 第1セットは5-5ともつれたが、最後に西岡がブレークで抜け出した。第2セットはモンフィスの焦りを誘い、圧倒した。うまくいかない展開にモンフィスは苛立ちを隠さなかった。デ杯はチームの勝利を懸けた戦いであり、ベンチには監督がサポートに入るため、たとえセットを落としても、選手がメンタル的に大崩れすることは少ない。しかし、この試合では西岡がモンフィスを崩し、戦意を失わせた。

相手監督、モンフィスも称賛。

 打っても打っても返ってくる。盛んにコースを変えて配球するかと思うと、一転、同じコースにボールを集める。同じコースにしつこくしつこく、しかも、スピン量や弾道を自在に操りながら。のらりくらりやるだけでなく、攻撃的なショットには破壊力があった。この西岡のテニスがモンフィスを蟻地獄に誘い込んだ。

 セバスチャン・グロジャン監督は「標高が高いマドリードのコンディションに適応する時間が十分に取れなかった」と選手をかばったが、「西岡のプレーを大いに称えるべきだ」と続けた。

 渾身の配球、そして西岡らしい守備の手堅さ。敗れたモンフィスは「西岡はすごく動きが速い、とても手強い相手だ。ミスが少ないから難しい試合を強いられる」と賛辞を並べた。

錦織、ゴファンらを破った経験値。

 西岡本人の分析では、経験をもとにしたチャレンジが実を結んだ試合だった。

「今年、トップ10やそれに近い選手とやってきて、だれが相手でも、少ないチャンスはあり、それを取りきれるかどうかで変わると感じている。

 しっかり組み立てて粘り強くというのは自分の持ち味だが、チャンスと思ったポイントで自分から攻め、思い切ってプレーして、取れなければ仕方ないという割り切りの中でプレーするようになった。今日はチャンスでそのプレーを積み重ねていけたのが勝利につながった」

 今季は錦織圭(当時5位)、ダビド・ゴファン(同18位)、ロベルト・バウティスタアグート(同22位)、テイラー・フリッツ(同29位)、アレックス・デミノー(同38位)といった上位選手を破っている。

 そうした勝利の手応えと、全仏2回戦でフアンマルティン・デルポトロ(同9位)に5セットで敗れるなど、あと一歩で金星を逃した苦味から抽出した戦略と心構えが、この日のプレーを可能にしたのだ。

ジョコには「歯が立たなかった」。

 しかし、セルビア戦ではジョコビッチに粉砕された。「全然、歯が立たなかった」と西岡は唇をかんだ。「相手を陥れ、無理をさせる展開」が真骨頂だが、まさにそれをジョコビッチにやられたという。

「守っていてはチャンスがないので、いかにアグレッシブにいけるかだと思っていたが、返球の質が高くて主導権を握れず、無理をしてしまった」と西岡。前日に続くトップ10選手への挑戦だったが、最高のプレーは続かなかった。

 しかし、完敗の中で「(相手の)どこが強くて、(自分に)どこが足りないか、ジョコビッチ選手のようなトップの中のトップと戦うにはどうしていくべきかというのを感じることができた」という。この経験値の積み上げが大きな収穫だ。

最年長の杉田が見据える次の舞台。

 西岡を筆頭に、選手たちは密度の高い2日間を過ごしたはずだ。最年長の杉田祐一はこう話している。

「どの国に対しても、(本来の)パフォーマンスを出すことができれば必ず勝てるチームではある。こういった経験を積み上げて、次の舞台で発揮できるようにしなくてはいけない」

 次の舞台とは、2020年のデ杯戦と同時に、個人戦のツアーを指している。連日、世界のトップと団体戦の真剣勝負を演じた得がたい経験をツアーに還元する――そこにもデビスカップの存在意義がある。

(「テニスPRESS」秋山英宏 = 文)