日本を代表するジョッキーである武豊騎手が「僕としてもショックな結果でした」と語った。

 現地時間10月6日、フランスのパリロンシャン競馬場で行われた凱旋門賞(GI、芝2400メートル)。史上初めてとなる同レース3連覇を目指して直線で一度は抜け出したエネイブル(牝5歳、J・ゴスデン厩舎)だが、ゴール寸前で地元馬ヴァルトガイスト(牡5歳、A・ファーブル厩舎)の強襲を受け2着に惜敗。偉業達成とはならなかった。

 しかし、武豊騎手が嘆いたのはこれに対して、ではない。

 今年の凱旋門賞には日本馬が3頭も挑戦した。しかし、いずれも好結果を残す事は出来なかった。

 最先着はキセキ(牡5歳、栗東・角居勝彦厩舎)の7着。ブラストワンピース (牡4歳、美浦・大竹正博厩舎)とフィエールマン(牡4歳、美浦・手塚貴久厩舎)はそれぞれブービーと最下位にあたる11、12着に沈むという残念な結果に終わった。冒頭の武豊騎手の言葉は、この日本馬の結果を受けてのものだった。

日本にはアーモンドアイがいるが。

 日本にはアーモンドアイ(牝4歳、美浦・国枝栄厩舎)というエースがいる。昨年の牝馬三冠競走をいずれも衝撃的な走りで制すると、続くジャパンカップ(GI、東京競馬場、芝2400メートル)ではさらに驚きの競馬を披露。2番手から先頭に立って押し切るという競馬で、2分20秒6という驚異的なレコードタイムで勝ってみせた。

 今春には勇躍ドバイへ遠征。ドバイターフ(GI)を制し、改めて世界へその強さを発信した。安田記念こそ不利もあって3着に敗れたが、彼女が現役ナンバー1と見る関係者は圧倒的に多い。先述したエネイブルを管理するJ・ゴスデン調教師を以前取材させていただいた際、このイギリスの伯楽は「良馬場ならエネイブルより強そうだね」と言った。

 日本人の当方に対するリップサービスも大いにあったかもしれないが、贔屓目に見なくてもあながち間違っていないかもしれない。アーモンドアイはそう感じさせるくらいの強さがある。

3頭とも十分な実力馬だった。

 また、3歳勢にはサートゥルナーリア(牡3歳、栗東・角居勝彦厩舎)がいる。ここまでの戦績は6戦して5勝。日本ダービーこそ4着に敗れたものの、それ以外は負け知らず。ホープフルSと皐月賞の2つのGIを制し、秋初戦となった神戸新聞杯(GII)では二強と目されたヴェロックス(牡3歳、栗東・中内田充正厩舎)に3馬身の差をつけて圧勝してみせた。

 他にもオークス(GI)まで負け知らずで4連勝中のラヴズオンリーユー(牝3歳、栗東・矢作芳人厩舎)などもいるが、秋の天皇賞(GI)で直接対決となりそうなアーモンドアイとサートゥルナーリアの2頭を現状、日本の競馬界のトップ2と見る関係者は多い。

 そういう意味で今回、凱旋門賞に挑んだ3頭は必ずしも日本の最高峰の馬達ではないかもしれない。

 とはいえキセキは菊花賞(2017年)勝ちのほか、昨年のジャパンカップではアーモンドアイのレコードを誘発する逃げで2着に粘った快足を披露しており、日本のGI戦なら軽視は出来ない馬である。

 他の2頭にも同様の事が言える。ブラストワンピースは昨年の有馬記念(GI)の勝ち馬。敗れはしたものの日本ダービーでは2番人気、菊花賞では1番人気に支持された実力馬である。

 フィエールマンもまた菊花賞(2018年)と春の天皇賞(2019年)を制している。両頭はともにGIホースであり、先のキセキ同様、日本のGIレースに出てくればそれなりの支持を得る馬なのである。

「考えていたのとは違う位置取り」

 その3頭が皆、苦戦を強いられた。最先着の7着だったキセキでさえ勝ち馬からは20馬身以上も離された。ブラストワンピースとフィエールマンに至っては早々にギブアップする形に追い込まれた。

 ヨーロッパ最高峰のレースだけに容易に勝てるレースでない事は分かっているが、それにしても揃いも揃ってここまで大敗するとは、武豊騎手でなくてもショックを受けた日本人関係者は多かった事だろう。

 キセキをかの地へ送り込んだ角居調教師はレース後、次のように語った。

「考えていたのとは違う位置取りになって自分の競馬が出来ませんでした」

先行力が武器のキセキが後方に。

 けれん味のない先行力を武器とするキセキだが、この日はスタートが今ひとつ。中団より後ろからの競馬になってしまった。そもそも同馬は前哨戦のフォワ賞で4頭立ての3着に負けていた。

 フォワ賞はパリロンシャン競馬場の芝2400メートル。本番の凱旋門賞と全く同じ舞台を経験させる意味は大きい。

 しかし裏を返せばここでの敗戦は、同じ条件で相手は更に強化される本番での巻き返しをかなり困難なものにさせる。いわば諸刃の剣であり、実際にフォワ賞で敗れながらも凱旋門賞は勝った馬というのはここ何年も出ていないのだ。

英国滞在を失敗とするのは早計。

 また、ブラストワンピースとフィエールマンの2頭は今回、イギリスのニューマーケットにある厩舎に入厩。そこからレースの前日にフランスへ輸送して参戦するという手段をとった。1999年にモーリス・ド・ギース賞(GI)に出走したシーキングザパール(栗東・森秀行厩舎)がこの臨戦過程で優勝していたが、凱旋門賞を目指す日本馬としては今回の2頭が初めての試みだった。

 ブラストワンピースの大竹調教師は言う。

「とくにトラブルもなく仕上げに関してはうまくいったと思います。当日、少し気合いが乗り過ぎる感じなのは日本にいる時と同じ。状態自体は良かったと思います」

 結果が結果だけに、このコメントも空しく響くが、今回の1回をみてイギリス滞在からの直前輸送では駄目だと判断するのは早計だろう。

 調教場の視界が開けていたり、坂路のバリエーションが多くあったりと、ニューマーケットの方がシャンティイよりも優れている点は数多くある。今回の結果はデータの一つとして今後の遠征に反映させていく材料となれば失敗だとは言えまい。

道悪は敗因でも言い訳にならない。

 そして、陣営が口を揃えて敗因の1つに挙げたのが馬場である。前日、当日の午前中に激しい雨に叩かれた馬場は、重い状態となった。パリロンシャン競馬場特有の道悪であり、C・ルメール騎手に言わせれば「日本にはない道悪馬場」だそうだ。

 実際、凱旋門賞は良馬場だと2分24秒台で決着しているのに、馬場が悪化した時は38秒台なんて事もある。日本の競馬場だと、馬場状態だけでこれだけの差がつく事は滅多にない。それだけ凱旋門賞の行われる馬場は日本とは違うという事である。

 スピード競馬を身上とする日本勢としては可能な限り良い馬場状態でやって欲しいのだろうが、この時期のフランスは晴れ間が続いても朝露が落ちて馬場は濡れている。まして不順な天候も多い時期であり、場所柄日本のような高速馬場で出来る可能性はなかなかないのが現状だ。

 そしてそれはフランスまで遠征をするくらいの陣営なら、ハナから頭に入っている事だろう。つまり道悪は敗因にはなっても言い訳にはならないのだ。

 そもそも競馬であるから敗因は1つに絞られる事はなく、多くの要因が推察出来るだろう。今後、日本馬の巻き返しを図る上で、そのあたりは精査していかなければいけないところである。今回の敗戦が無駄にならず、今後につながっていく事を願いたい。
 

(「競馬PRESS」平松さとし = 文)