<体操:世界選手権>◇10日◇ドイツ・シュツットガルト

【シュツットガルト=阿部健吾】「こんなにしんどいのは初めてだった」。五輪も含めた世界舞台は9年連続。他競技を見渡してもずぬけた継続性でならす寺本明日香(23=ミキハウス)が、また1つ新たな境地を開いていた。女子個人総合は54・666点で13位。4種目で痛む142センチの体から力を絞り出し、得点を重ねた。「腕は痛いし、足首は腫れているし、試合ができるのかなと思ったくらいだった…」。演技後も緊張感が抜けないような表情の硬さが印象的だった。

5日の女子予選で東京五輪の出場枠を獲得した。主将として支えきった反動は、練習での一瞬の判断ミスを生む。8日に床運動でバク転した際に頭から落ちる形になり、とっさに両腕でかばったが、左右の二の腕回りに力が入らなくなった。翌9日には右足首も負傷。大会前から抱えていた左足の痛みも引いていなかった。棄権も考えたが、「応援してくれる人がいる。逃げるわけにはいかない」と奮い立たせての、世界選手権4度目の個人総合だった。

最初の平均台では着地の2回半ひねりの降りも完璧で、13・366点は予選を上回った。床運動はターンでよろけそうになる場面もあったが、こらえた。そして続く跳馬では直近の練習ではまったく跳べなかったという「チュソビチナ2」を決めきって14・600点。腕に負担が大きい最終の段違い平行棒もまとめきった。「死ぬ気で頑張れた」との言葉に誇張は感じられなかった。

「初めての経験」。その意味では、自ら望んだものもあった。昨年12月、大阪で開催されたフィギュアスケートの全日本選手権を観戦した。チケットを買い、電車で1人訪れた。「ずっとフィギュアは気になっていて。演じるということでは共通する部分もあると思うので」。満員の会場で1人で演技をするスケーターの姿。音と調和させながら、観客、審判の関心を誘う術を間近にした。同じように音楽に合わせる床運動だけでなく、4種目に何か生かせるものはないかと貪欲だった。そして、長年の「願い」もかなえた。「坂本さんと一緒に写真も撮れたんです」。かねて似ていると自認していた坂本花織とも会え、充実の年末を過ごした。

23歳にして比類なき経験を誇るが、常に新たなものを吸収する。練習では小学生と一緒に過ごし、そこでも進化の種を求める。今回は望んだわけでない、満身創痍(そうい)の時間だったが、それも乗り切り、また1つ肥やしとなるだろう。「今日はこの状況を乗り切った自分の体によくやったと言ってあげたいですが、ここで切りをつけます。東京五輪へやらなきゃいけないことはたくさんある」。挙げたのは弱点とする床運動の強化。きっとまたヒントを探し、新たな芽を伸ばしていくだろう。