昭和の日本シリーズには「第2戦必勝主義」という戦い方があった。

 V9時代の巨人やその系譜を受け継ぎ広岡達朗監督や森祇晶監督らで黄金期を築いた西武などが、短期決戦を“7試合の長期戦”と捉え、あえて初戦を捨てて相手チームのデータ収集や自軍選手の見極めに使った。

 そのために第1戦にはエース級の投手ではなくベテランでコントロールのいい投手を起用する。そして初戦で得たデータを基に、第2戦ではチーム編成や用兵に修正を加えて、エースを立てて必勝を期す。これが「第2戦必勝主義」の根幹だった。

 ただ交流戦が始まり、さらにはほぼ全球団にトラックマンシステムが普及したことで、今の野球では初戦で相手チームのデータを収集する必要がほぼなくなっている。

 しかもクライマックスシリーズ(CS)のファイナルステージでは1位チームに1勝のアドバンテージがある。第1戦が実質的には昔の日本シリーズの第2戦と同じ位置付けとなっている訳だ。短期決戦は昭和の時代の“7試合の長期戦”から、「先手必勝」の本当の短期決戦となったと言えるのかもしれない。

昭和の戦略を掲げて逆襲。

 それでもセ・リーグのCSファイナルステージの第1戦を落とした阪神・矢野燿大監督は、試合後には強気にこう語った。

「ある程度、俺にとっては必要な負けっていうか……俺はそう思っているんだけど」

「もう1個負けられるわけだから。それをどうするかっていうね。日本シリーズに出るためのものとしてね」

 あえて昭和の戦略を掲げて残り試合での逆襲にかけるというわけだ。

 この強気の裏には3回以降の戦い方がある。

第2戦以降で修正を加えられるか。

 先発の望月惇志投手が初回に2死から巨人の丸佳浩外野手と岡本和真内野手に連続本塁打を浴び、2回には2死一、二塁から亀井善行外野手と坂本勇人内野手の連打で3点を失った。しかし3回以降は岩貞祐太投手から能見篤史投手、守屋功輝投手とつないで巨人打線を1安打無失点に抑えている。

 なおかつファーストステージで3連投したラファエル・ドリス投手、岩崎優投手の2人に島本浩也投手の中継ぎ陣を休ませ、もちろん守護神・藤川球児投手も登板はなかった。

 そして打線も9回には巨人の守護神、ルビー・デラロサ投手を攻めて2死満塁としてKO。最後は木浪聖也内野手がデラロサを緊急リリーフした左腕・田口麗斗投手の前に三ゴロに倒れてゲームセットとなったが、それでも相手の守護神をマウンドから引きずり下ろした実績は作った。

 そういう意味では矢野監督の語るように、明日へとつながる敗戦であったと言えるのかもしれない。ただ、これを本当に明日へとつなげるためには、この日の戦いから、いかに第2戦以降でチームに修正を加えられるか。

矢野監督の3つの決断。

 それこそまさに「第2戦必勝主義」の最も大事な要素となるはずなのである。

 この初戦で矢野監督は3つの決断をしている。

 1つは先発にプロ4年目で通算1勝、巨人戦には今季1試合(投球回数3回)投げて防御率9.00の望月を送り出したこと。

 2つ目はファーストステージで機能した1番・近本光司外野手をあえて2番に据える攻撃的オーダー編成を行ったこと。

 そして3つ目がファーストステージ初戦で追撃の3ランを放つなどラッキーボーイ的存在だった北條史也内野手を外して大山悠輔内野手を先発ラインナップの7番に入れたことだ。

「あの並びなら使いやすくなるよね」

 それぞれ思惑通りに機能しなかったことが、この試合の流れを決めることになるが、ここであえて挙げるとすると、2番に近本を置いたオーダー編成である。

「あの並びなら使いやすくなるよね」

 試合後に巨人の原辰徳監督がこう振り返ったのは「1番・木浪、2番・近本」という1、2番の入れ替えではなく、2番に近本を置いたことで3番の福留孝介外野手と左打者が並んだことだった。

最も警戒しているのは3番・福留

 場面は8回だ。

 先発・山口俊投手に対して5回の代打から9番に入っていた北條が左前安打(やっぱり!)して、木浪の二ゴロで走者が入れ替わった1死一塁。打席に近本を迎えたところで巨人ベンチは迷わず山口から左の中川皓太投手にスイッチした。

「中川に関しては回にこだわらず状況を見ながら、勝負どころで左の強い打者を迎えたところで使う」(原監督)

 実は巨人がこのシリーズで最も警戒しているのが3番に座る福留だった。

 今季は対巨人戦では74打数27安打の4本塁打で打率3割6分5厘。OPSは実に1.008をマークしている。この数字を見ただけでも、巨人にとってこの天敵をどう抑えこむかがシリーズの第1テーマだったことは明白である。

 そしてもう1人、徹底マークの指示が出されているのが近本だ。ルーキーイヤーでいきなり159安打を放った打撃技術は本物と見ている。

 しかも足もあり塁に出すと相手にとっては嫌なタイプで、逆に阪神にとってはムードメーカーとしての役割も大きい。

中川はキーマン2人を得意としている。

 要は最も警戒している2人の打者が2番と3番に並んだこと、そこが原監督のいう「使いやすさ」に繋がるわけである。

 理由は中川がこの2人を得意としているからだ。今季は福留とは3打席、近本とは6打席対戦して、それぞれに1つずつ四球を与えてはいるが1本の安打も許していない。

 近本が2番に入り、福留と並ぶことで巨人ベンチの継投はやり易くなった。

攻撃的2番としての近本も捨てがたいが……。

 中川の対右打者への今季の被打率は2割7分3厘で、対左打者の2割ちょうどよりかなり危険率は高まる計算になる。1番に近本を使い2番にラッキーボーイで右の北條を挟むことで、おそらく中川の継投ポイントは難しくなるはずだが、2番に近本が入ったことで天敵2人が並び投入のポイントは明確になった。

 攻撃的2番としての近本という役割も捨てがたいのは捨てがたいだろう。ただ、この2人を並べるオーダーが果たして対巨人戦を考えた時に有効なのか。「相手の嫌がることをする」――これもまた昭和の野球の鉄則だが、そう考えると第2戦以降の矢野監督の決断の注目点は、改めて1、2番をどう編成するのか? そこになるはずである。

 最終的に勝つための敗北という発想は確かにいまの野球にもあるはずだ。そのためには初戦の敗北をどう受け止めて、次で変われるかがポイントになる。

 矢野阪神が第2戦でどう変化するかが、シリーズの焦点となってきた。

(「プロ野球亭日乗」鷲田康 = 文)