「プロ野球界が成り立つために、一番大事な仕事をしている人って誰なのか、君はわかるか?」

 私は答えに窮した。5年前。伝説の「400勝投手」金田正一さんにインタビューする機会に恵まれた。20代の頃は伝説の文化系野球本「おしゃれ野球批評」(DAI-X出版)に収録されたプロ書評家・吉田豪さんによる「カネやん本書評」を繰り返し読んで、豪放磊落な発言と野球観に魅了されたものである。

 この日も野球界の現状について、はちゃめちゃな談話を引き出し、派手な見出しが立てられたらいいなと、申し込んだ取材だった。

 金田さんは続けた。

 「スカウトだよ」

 球界最強エースに君臨し、監督としても日本一に上り詰め、プロ野球のオン・ザ・サニーサイドを歩き続けた男。その口から放たれた言葉は意外すぎるものだった。

 「スカウトはな、縁の下の存在だけど、夏の暑い時も冬の寒い時も1年間、必死に選手を見定めて、逸材を発掘して、野球界の歴史を作ってきた人たちなんだ。でもな、ドラフト上位の選手が働かないと、取ってきたスカウトの顔が潰れちゃうんだ。選手はそれをよく考えてほしいのよ。だからルーキーたちには『恩人に恥をかかすな!』と強く訴えたいんだ」

 世間のイメージとはわずかに異なり、目立たぬところでしっかりと「いい仕事」をしている目利きへと敬意を表していたのが、とても印象に残っている。

 そんなスカウトたちが1年に1度、「主役」に躍り出る日が、もうすぐやってくる。10月17日、運命のドラフト会議だ。スポーツ新聞にとって、ドラフト翌日の「指名全選手名鑑」は目玉企画なのだが、数年前からスポーツ報知では名鑑の項目に「担当スカウトの名前」を入れている。“縁の下”で日々、奮闘する方々へのせめてもの敬意であり、読者の方々にとっても有益な情報であると思う。

 何度も足を運び、視察を繰り返し、惚れ抜いた若き逸材を当日指名できるかどうかは、直前の会議における担当スカウトの「熱意」が、大きな要素になるとも聞く。

 候補選手同様、スカウトの方々も胸の高まりとともに、10月17日の午後5時を迎えることだろう。天国の金田さんとともに、「野球界の歴史を作ってきた人たち」の表情にも注目しながら、運命の瞬間を楽しみたい。(野球デスク・加藤 弘士)