この厳しさが「世界最高峰」と言われる所以なのか。歴史的名牝による3連覇も、日本競馬界の悲願も、ともに果たされることはなかった。

 第98回凱旋門賞(10月6日、仏パリロンシャン芝2400m、3歳以上GI)が12頭立てで行われ、ピエールシャルル・ブドーが騎乗するヴァルトガイスト(牡5歳、父ガリレオ、仏アンドレ・ファーブル厩舎)が優勝。史上初の凱旋門賞3連覇を狙ったエネイブルは2着となり、3頭が出走した日本馬は、キセキの7着が最高着順だった。

 前日から断続的に雨が降り、パリロンシャン競馬場の芝コースは「重」となっていた。第4レースの凱旋門賞に先立ち、芝1600mで行われた第2レースの2歳GIジャンリュックラガルデール賞の勝ちタイムは1分44秒15も要した。

 ちなみに、同日、200m長い東京芝1800m(良)で行われた毎日王冠の勝ちタイムは1分44秒4。パリロンシャン競馬場の芝が、いかに力のいる、タフな状態だったかがよくわかる。

位置取りはけっして悪くなかった。

 クリストフ・ルメールのフィエールマンが押し出されるように内から先行し、差のないところに川田将雅のブラストワンピース、クリストフ・スミヨンのキセキは中団からやや後ろにつけた。

 エネイブルは、序盤、フィエールマンと内外離れて並走するような形になり、やがてフィエールマンの2、3馬身後ろにおさまった。ヴァルトガイストは、外のブラストワンピースと内のキセキに挟まれるような位置に落ちついた。

 勝ち負けする有力馬のそばにいたのだから、日本馬の位置取りは、けっして悪くなかったと言える。

 しかし、直線手前の“フォルスストレート”(偽りの直線)のあたりで、フィエールマンとブラストワンピースの手応えは早くも怪しくなっていた。キセキはいくらか余力があるように見えたが、もともと切れる脚はないし、直線に入ると、じわじわと置かれはじめた。

直線で伸びたのは欧州勢のみ。

 533mの直線で末脚を伸ばしたのはヨーロッパの馬だけだった。

 ラスト400mを切ったところでエネイブルが先頭に躍り出た。

 外からソットサスとジャパンが追ってくる。その後ろから、外に持ち出したヴァルトガイストが伸びてくる。

 ラスト200m地点でもエネイブルが先頭をキープしている。ランフランコ・デットーリの叱咤に応え、史上初の3連覇に向けてストライドを伸ばす。

 エネイブルが2馬身ほど抜けている。100回近い凱旋門賞の歴史で、初めての3連覇という偉業達成は現実のものになると思われたが、外からヴァルトガイストが凄まじい脚で差を詰めてくる。

 ラスト100m地点でもまだエネイブルが前にいたが、勢いが違った。

 ヴァルトガイストは、ゴールまで残り6完歩ほどのところで内のエネイブルを並ぶ間もなく抜き去り、先頭でフィニッシュ。GI4勝目が、念願の凱旋門賞初制覇となった。

勝ち馬から20馬身強離された7着。

 管理するファーブル調教師は、ディープインパクトが3位入線後失格となった2006年のレイルリンク以来、史上最多の凱旋門賞8勝目をマークした。

 エネイブルは1馬身3/4差の2着。3着はソットサス、4着はジャパン。

 武豊が騎乗したフランスのソフトライトは、後方2番手から追い込んで6着。

 キセキは、勝ち馬から20馬身強離された7着。ブラストワンピースはそこから10馬身以上遅れた11着、フィエールマンはさらに15馬身遅れた最下位の12着に終わった。

 キセキは不良馬場の菊花賞を勝った馬で、管理するのは「世界のスミイ」こと角居勝彦調教師。ブラストワンピースは、今年イギリスのニューマーケットに滞在して英GIナッソーステークスを勝ったディアドラと同じ父ハービンジャーのグランプリホース。スタミナ豊富なフィエールマンは前走の札幌記念(3着)で洋芝にも対応し、鞍上はフランス人のクリストフ・ルメール。

 上位争いしても不思議ではない馬ばかりだったので、ショッキングな大敗だった。

実力は世界トップレベルだけに。

 キセキに騎乗したクリストフ・スミヨンは「重い、難しい馬場で、スピードに乗るのに時間がかかった」と、タフな馬場を敗因に挙げているが、それはほかの馬たちにとっても同じ条件だ。

 キセキはこれまでの日本馬同様、仏シャンティイに滞在して調整された。ブラストワンピースとフィエールマンのノーザンファーム生産馬2頭は、今回、ニューマーケットに滞在して坂路調教で仕上げて前日輸送という形を取った。

 どちらがいいのかはわからないが、ディアドラのように「ヨーロッパ仕様」の走りをマスターするには、やはり時間が足りなかったのかもしれない。

 ドバイや香港などで行われるGIの結果が示しているように、日本馬の実力は確実に世界のトップレベルにある。あとは、その舞台にいかにフィットするか、だ。

 1969年に野平祐二のスピードシンボリが初参戦してからの半世紀では、世界最高峰に登り詰めることは叶わなかった。悲願達成までさらに半世紀を要するのか、もっと早く喜びに浸ることができるのか。これからもチャレンジをつづけることが、その答えを出す唯一の方法であることは間違いない。
 

(「沸騰! 日本サラブ列島」島田明宏 = 文)