今年のダルビッシュ有は本当に、本当に、すごかったのだが、もどかしいことに、これがなかなか伝わらないのだ。

 打線の援護がなかったこともあるが、ダルビッシュがシーズン途中で突然「スーパーサイヤ人」みたいにパワーアップしたことは驚きだった。

 まずは昨年と今年の投手成績を比較しよう。

 2018年 8登板1勝3敗 40.0回 防御率4.95
 2019年 31登板6勝8敗 178.2回 防御率3.98

 昨年は右ひじの故障で8試合しか登板できず5月20日の登板を最後に負傷者リストに入ってしまった。

 一方で今季は3月30日の初登板からローテーションを維持して2013年以来6年ぶりに規定投球回数(162回以上)にも到達した(2017年は186.2回を投げたがア・ナ両リーグにまたがったので規定投球回数以上とはみなされず)。防御率3.98はナショナル・リーグ22位。勝利数は6勝だった。

 この数字だけを見れば「復活できたね」という程度だ。

 野球選手の成績は、1年ごとの成績の積み重ねで記録される。ダルビッシュのMLBでの平均防御率は3.57だし、年平均の勝利数は9勝だから昨年の成績は「良かったね」というのは確かに難しい。

勝敗、防御率だけで見てみると。

 でも、今年の後半に限れば、違うのだ。ダルビッシュ有は、MLB史上でもまれにみる凄い成績を残している。

<後半戦(オールスター後)だけのナ・リーグの防御率5傑 70イニング以上投げた先発投手>

1 フラハーティ(カーディナルス)
15登板7勝2敗99.1回 防御率0.91
2 デグロム(メッツ)
14登板7勝1敗94回 防御率1.44
3 グレイ(レッズ)
14登板6勝3敗85回 防御率2.12
4 ダルビッシュ有(カブス)
13登板4勝4敗81.2回 防御率2.76
5 ウィーラー(メッツ)
12登板5勝2敗76.1回 防御率2.83

「そうか、ダルビッシュは後半戦に限ったら、リーグ屈指の投手だったんだ、でも勝ち星は上がらなかったね」

 いや、これでも後半戦のダルビッシュのすごさはわからない。

奪三振と与四球の数字がすごい!

 後半戦のダルビッシュのすごさは、奪三振と与四球の数字を見なければわからない。9イニング当たりの奪三振数であるK9を見てみよう。

<後半戦のナ・リーグK9、5傑>

1 ダルビッシュ有(カブス)
13.00(81.2回118奪三振)
2 ビューラー(ドジャース)
11.72(78.1回102奪三振)
3 フラハーティ(カーディナルス)
11.23(99.1回124奪三振)
4 デグロム(メッツ)
11.20(94回117奪三振)
5 カーショウ(ドジャース)
11.11(79.1回98奪三振)


 K9が9.00を超えればイニング数を上回る奪三振ということになる。パワーピッチャーの一つの指標だ。今季後半のダルビッシュは1イニングで1.5個近い三振を奪っていた。なみいるメジャーの先発投手の中でも飛びぬけていたのだ。

 援護点は少なかったが、ダルビッシュは打者を圧倒していたことがこれでわかる。

 それ以上に、今季後半のダルビッシュの真骨頂はK/BBにある。奪三振数を与四球数で割った数値だ。こちらはアメリカン・リーグも含めたMLB全体での後半戦の10傑を出そう。

1 ダルビッシュ有(カブス)
16.86(118奪三振7与四球)
2 バーランダー(アストロズ)
9.80(147奪三振15与四球)
3 コール(アストロズ)
8.67(156奪三振18与四球)
4 ヤーブロー(レイズ)
7.78(70奪三振9与四球)
5 ビーバー(インディアンス)
6.94(118奪三振17与四球)
6 デグロム(メッツ)
6.16(117奪三振19与四球)
7 ジョリト(ホワイトソックス)
5.68(108奪三振19与四球)
8 フラハーティ(カーディナルス)
5.39(124奪三振23与四球)
9 グレインキ(ダイヤモンドバックス/アストロズ)
5.27(79奪三振15与四球)
10 シンダーガード(メッツ)
5.05(101奪三振20与四球)

バーランダーを引き離す異次元さ。

 今季ア・リーグ最多勝で、通算225勝、殿堂入り確実と言われるジャスティン・バーランダーや、アの防御率1位のゲリット・コールなど、脂の乗り切った盛りの大スターたちをはるかに引き離して、ダルビッシュが次元の違う数字になっているのだ。

 後半戦のダルビッシュは13登板、81.2回を投げて118個の三振を奪う間にわずか7つしか四球を出していない。これは本当にすごい。

 ゲームログ(1試合ごとの投球成績)を見ると、7月23日のジャイアンツ戦で1つ四球を与えてから8月27日のメッツ戦まで1カ月、足掛け7試合、四球を与えていない。先発投手でこれは考えられない。

もしフルシーズンでこの成績なら。

 セイバーメトリクスでは、自責点や防御率、勝敗などの従来の数値は「運が左右しやすい数字」としてそれほど評価していない。

 それよりも奪三振、与四球を重視している。奪三振は「振り逃げ以外では走者を出さない投手にとっては最高のリザルト」であり、与四球は「絶対に走者をアウトにできない最悪のリザルト」だ。奪三振が多くて与四球が少ない投手、つまりK/BBの数値が高い投手は「最も信頼できる投手」とされているのだ。

 ちなみにシーズンのK/BB記録は、MLB公式サイトによると2014年フィル・ヒューズ(ツインズ)の11.63(186奪三振16与四球)、2位は1994年ブレット・セーバーヘーゲン(メッツ)の11.00(143奪三振13与四球)だ。ダルビッシュがフルシーズンでこの成績を上げていたら、まさにアンタッチャブルになっていたのだ。

 ダルビッシュ有が今季、突然“ピッチングのスーパーサイヤ人”になったのは、2種類のカットボール、スライダー、2シーム、カーブ、スプリット、ナックルカーブなど、9個とも10個とも言われる多彩な球種を完ぺきに操れたからだと言われる。その上に、速球の球速も95マイル前後。技でも力でも圧倒的に打者を見下ろしているのだ。

33歳になる来季、さらなる活躍を。

 シーズン終了後のコメントを見れば、本人も手ごたえを感じているようだ。

 ダルビッシュはシカゴ・カブスと昨年2月に6年契約を結んでいる。その契約によれば、今オフにダルビッシュはオプトアウト(契約破棄)をする権利があるとのことだが、行使しないようだ。

 それはそうだろうと思う。

 今年後半の神がかった投球を、来季はフルシーズンで実現してほしい。本人も来年こそ、キャリアハイ、そんな気持ちでいるのだろう。

 大谷翔平、田中将大、前田健太、菊池雄星と、MLBで活躍するNPB出身の先発投手は数多いが、2012年に移籍したダルビッシュは最古参だ。そして2020年8月には33歳になる。

 来季は記録上でも歴史に残る活躍をして、球史に名前を刻んでほしい。
 

(「酒の肴に野球の記録」広尾晃 = 文)