その知らせは、瞬く間に広がった。今なお、余韻は広がりとともに残る。

 高橋大輔は、村元哉中をパートナーに、アイスダンスに転向することを発表した。

 シングルの世界で、長年にわたる活躍を経ての決断が、大きなインパクトをもたらすのは当然だった。

 きっかけは、村元からの働きかけだった。

「高橋選手がアイスダンスに興味があるということを聞いていて、直接聞いてみようと思い、今年の1月に連絡をとりました」

 そこに至る背景があった。

 昨年8月、村元は平昌五輪に出場したクリス・リードとのカップルを解消した。

もっとうまい人と組んだほうが……。

 同じ月、高橋は、濱田美栄コーチから言葉をかけられた。

「大ちゃん、ダンスやったら?」

 そのときは、「まったくやるなんて思いませんでした」。

 1月にオファーがあったときも、「もっとうまい人と組んだほうがすばらしいカップルになる」と思い、ためらいがあった。

 その後、何度か話し合いの機会を持ったあとの7月、村元も出演するフィギュアスケートと舞台の融合した公演『氷艶』の稽古合宿のため訪れていた新潟で、トライアウトを実施。

「一緒に滑らせてもらったとき、もっとこの世界を知ってみたいという気持ちが強くなりました」

 と、決断に至った。

「すごく素敵な表現をする選手」

「引退したらアイスダンスをやってみたい」というほど、高橋がアイスダンスが好きだという下地もあったが、それだけではなかった。

 高橋は村元に対する強い印象があった。

「すごく素敵な表現をする選手だなと思っていました。アイスダンスに転向してからは、表現という部分で開花したように感じます。自分を解放して楽しそうに滑っている姿を見て、体の使い方も上手だなと思ったし、アイスダンスを始めてから一層、素敵だなと感じていました」

 村元は、高橋にオファーした理由の中でこう語った。

「本当に昔から憧れのスケーターなんです。特に大ちゃんの音楽の捉え方や動作には、誰にもない個性があって。滑り方、表現の仕方がすごく好きで、そういった部分も含めて、大ちゃんの世界をダンスで体験してみたいと思ったからこそ、一緒に滑りたいと思いました」

互いのスケートへの敬意。

 互いのスケートへの敬意が、決め手でもあった。

 アイスダンスへの転向は、シングルでのキャリアを終えるという決断でもある。

 だからこそ、その決断は反響を起こし、広がっていった。

「(シングルを)やりきったというのはないですね」

 高橋は言う。

 それでも、高橋はアイスダンス転向を選んだ。理由は、端的に、次の高橋の言葉に集約される。

「できるだけ長くスケートで表現したい」

「もっと可能性があると思うんです」

 昨年7月の現役復帰表明後、今年にかけて、何度か取材する機会があった。

「『氷艶』でも感じたことですが、フィギュアスケートにしかできない表現、魅力があると思うし、もっと可能性があると思うんです。もっと奥深いというか」

 と、言ったことがある。

 その言葉に限らず、一貫して感じられたのは、「スケートの表現を突き詰めたい、追求したい」という思いだった。

 そして根底にあったのは、

「ずっとスケートがしていたい」

 そんな思いだった。

「生涯、滑っていたいですよね」と笑顔で語った言葉にこそ、高橋のスケーターとしての核があった。

課題を語る高橋の表情は常に笑顔。

 アイスダンスの世界へと導いたのは、直接には、村元のオファーだったかもしれない。
 ただ、新たな世界へと足を踏み入れ、未知の自分へ向かう道のりが開けたのは、高橋の、その核があってこそだ。

 課題は多い。

 身長差は高橋が164cm、村元は161cmと3cmしかない。リフトなどを考えれば、体格にそこまで差がないことは大きな課題となる。そもそもスケート靴の形状からして異なる。

「ほとんど全部ですけど」

 高橋も苦笑する。

 でも、そうしたさまざまな課題を語る高橋の表情は常に笑顔だ。楽しそうだ。

2020年からフロリダが拠点に。

 スケートがこれからもできて、しかも自分のスケートを広げていける、可能性に挑み続けることができる喜びがあるようだった。

 2020年から、本格的に高橋と村元は練習を始める。コーチはマリーナ・ズエワ。彼女のいるアメリカ・フロリダを拠点とする。2022年の北京五輪出場を目標とする。

 シングルの選手としてリンクに上がるのは、今年12月に行なわれる全日本選手権が最後となる。

「アイスショーでは1人で滑ることもするので、シングルを一切しないことはないです」

 ただ、競技の世界では、今年をもって終止符を打つ。

 そこに寂寥の感はある……同時に、その先に広がる、今までにない世界がある。

 スケートがとことん好きで、その可能性を心から信じるスケーターの、1つの区切りと、新たなスタートへ向けた時間が始まる。

 高橋大輔は、高橋大輔だ。

 これからも変わらず、進んでいく。

(「オリンピックへの道」松原孝臣 = 文)