開始10分で1枚目のイエローカードが出された、オールド・トラッフォードでのマンチェスター・ユナイテッド対アーセナルが1-1で終了。

 そう言えば、イングランド伝統の強豪対決らしく互いに一歩も譲らない熱戦が演じられたようにも思える。

 しかし、2019年9月30日のプレミアリーグ第7節で実現した顔合わせは、1点ずつしか取れない凡戦だった。

「近年で最弱の両軍対決」という試合前の哀しい触れ込みは、的外れではなかった。

 スコット・マクトミネイがアーセナルのゴールに突き刺した先制ゴールと、ピエール・エメリク・オーバメヤンが冷静にネットを揺らした同点弾は、クオリティを感じさせた貴重な瞬間だった。

 アウェイで1ポイントを奪ったアーセナルは、総得点数による順位ではあるが、曲がりなりにも4位を守った。だが実際には「中位対決」という表現の方が似つかわしかった。

「ないもの」だらけなチームの現状。

 ユナイテッドを「まるで中位チーム」と感じたのは2週連続のことである。

 ロンドン・スタジアムでの敗戦(0-2)は、第2節から無敗と好調なウェストハムが順当勝ちを収めたように思えた。ユナイテッドは試合をコントロールされた。

 アウェイまで駆けつけたサポーター陣も、キックオフ直後には「本当のユナイテッドは1チームだけ!」と歌い、東ロンドンの相手ユナイテッドを格下扱いしていたが、最終的に格上相手の敗戦を受け入れるかのような消沈ぶり……。正直、驚かされた。

 強豪の風格がまったく感じられない現在のユナイテッドは、「ないもの」だらけだ。元主将で解説者を務めるロイ・キーンが挙げただけでも、「質の高さ、勝利への意欲、ピッチ上のリーダー、不屈の精神」が欠けている。これはウェストハムに敗れた直後の発言だったが、ドローに終わったアーセナル戦では「信じる力」も「ないものリスト」に加えられた。

スールシャール監督交代の噂も。

 こうした状況のなかメディアでは、毎週のように来年1月に獲得すべき補強ターゲットの名前が挙げられている。

 足りない要素として得点力に焦点が当たれば、ノリッチで開幕3試合連続で計5ゴールを決めたテーム・プッキ、トップ4争い参戦さえ匂わせるレスターでチャンス供給のキーマンに化けたジェイムズ・マディソン、守備力ならイングランド代表でも正ボランチと目されるウェストハムのデクラン・ライス、といった具合だ。

 当然、監督交代の噂も絶えない。

 今年3月に暫定監督から昇格したオーレ・グンナー・スールシャールは、正監督となって通算21試合目となるアーセナル戦を終えて、5勝6分10敗と負け越している。後任には、就任6年目のトッテナムで補強に不満を抱えたままのマウリシオ・ポチェッティーノ、セルティックで立て直し、昨季後半から指揮するレスターでビッグクラブへの再挑戦を目論むブレンダン・ロジャーズなど、現役のプレミア監督を引き抜く可能性も指摘されている。

 しかし個人的には、6年間で6人目(暫定監督含む)の新監督誕生が得策とは思えない。監督としての実績ではなく、ユナイテッドの何たるかを知る人物である元ストライカーが打ち出した、攻守にアグレッシブでダイナミックなチームという明確な方向性は、現時点で数少ない「あるもの」だからだ。

マクトミネイという一筋の光明。

 そんなスールシャールが主軸に抜擢したからこそ、お先真っ暗のようなチームにもマクトミネイという一筋の光明がある。両軍とも寂しい内容のアーセナル戦でMVPを選ぶとすれば、ユナイテッドの中盤センターでレギュラーを掴んだ22歳になる。

 マクトミネイは、ボランチ起用も正解と言えるだろう。アーセナル戦ではカウンターにおける第2波としてゴールを決めたように攻撃参加も持ち味だが、最大の長所はセンスの良い守備にある。

 強い責任感と鋭い危険察知能力を持ち、いざとなればタックルの強度も充分。運動量と機動力も兼ね備え、執拗で堅実な守りは前監督のジョゼ・モウリーニョにも買われていたほどである。

 ユナイテッドの歴史的な視点で眺めれば、サー・アレックス・ファーガソン時代後半の「デストロイヤー」で、マクトミネイ自身も同じスコットランド人の先輩として手本にしていたと言う、ダレン・フレッチャーのようなタイプだ。

キャリックのようなパサーが欲しい。

 補強を見据えるのであれば、スールシャール体制下の「核」とも言うべき守備的MFを最大限に生かすためにも、センターフォワードよりも、チャンスメイカーよりも、マクトミネイの新パートナー獲得を求めたい。

 フレッチャーがいた当時のユナイテッドで言えば、マイケル・キャリックのようなタイプが欲しい。つまり中盤の相棒をサポートする強い守備意識を持ち、高度な展開力で攻撃に転じる速度と脅威度を増すことのできるパサーだ。

 アーセナル戦では、ポール・ポグバがダブルボランチでマクトミネイとコンビを組んだ。チーム随一の創造性を誇り、いわゆるボックス・トゥ・ボックス型としての身体能力も備えている。しかしポグバは守備の意識が疎かになりがちだ。キラーパスを読まれてカットされたり、ロングシュートが大きく外れたりと、半ば強引なプレーも見られる。

 ウェストハム戦のようにネマニャ・マティッチと組んだ場合は攻撃力が半減する。その試合では、頻繁にボールに触れながら先制点のきっかけとなるパスも出した相手MFマーク・ノーブルの存在が際立っていた。加入2年目も出場機会が少ないフレッジは、攻撃的だが守備面で軽量級の印象が否めない。

ポグバの移籍を食い止めるためにも。

 スールシャールが登用を辞さないユース出身の若手には、昨季トップデビューした「キャリック2世」ことジェームズ・ガーナーというタレントがいる。とはいえ、実態は一軍経験1分程度の18歳に過ぎない。

 指揮官がこの夏、ニューカッスルのシーン・ロングスタッフ獲得に興味を示したのも頷ける。

 昨季ニューカッスルで頭角を現した21歳のロングスタッフは、ラファエル・ベニテス前体制下で守備的プレーメイカーとも言うべき才能を発揮し始めたが、スティーブ・ブルース新監督下では、攻守どっちつかずの起用法で精彩を欠いている。

 ロングスタッフは生粋のジョーディー(ニュカッスル出身者)だが、移籍商談が進めば本人も心機一転リスタートのチャンスを歓迎するかもしれない。

 パサーの新戦力がマクトミネイとコンビを組めば、ポグバを相手ゴールに近い1つ前で使うことができる。攻撃センスを発揮しやすい定位置を与えられれば――クラブによる250億円近い査定額のおかげで移籍が実現しないとされるポグバでも、「脱出」という言葉が飛び出す口を閉ざしてくれるのではないだろうか? 

「背骨がない」現状のマンU。

 ロメル・ルカクとアレクシス・サンチェスが抜けた最前線は頭数が不足しているものの、背番号もポジションも「9番」を与えられたアントニー・マルシャルが好調だ。第3節で負傷する前の2試合連続ゴールに見られた動きとフィニッシュで、競争相手のマーカス・ラッシュフォードよりも適性を示したとみられる。

 最終ライン中央には、足元の技術とライン統率力を備えた新CB、ハリー・マグワイアが加入済み。最後尾は、ファーガソン後のユナイテッドでも孤軍奮闘を続けたダビド・デヘアが、守護神として新4年契約に合意したばかりである。

 チームを縦に貫く「背骨がない」と嘆いたのは、元ユナイテッド戦士の解説者ガリー・ネビルだが、新センターハーフの獲得が実現すれば、マクトミネイを要とする新たな背骨が見えてくるような気がする。

 問題となるのは、ロングスタッフの移籍金か。

 若き国産選手というプレミアム付きの推定7000万ポンド(約95億円)は、20歳そこそこのプレミア2年生としては非常に“いい値段”だ。それでも、リスクをとる価値はあると見る。

チェルシー戦で見せた躍動ぶりを。

 スールシャールは、ホームでの今季開幕戦を4点差勝利で飾り、ユナイテッド正監督として現時点でハイライトにもなっているチェルシー戦後、1トップを務めたマルシャル、中盤の底を任されたマクトミネイ、21歳の新ウィンガー、ダニエル・ジェイムズが揃って活躍した采配を、「リスクテイクと見返りのサッカー」と表現していた。

 もっとも、ビジネス感覚はあるがチーム作りの現実的感覚に欠ける最高責任者、エド・ウッドワードをはじめとするユナイテッド経営陣が、その指揮官の首を挿げ替えるという選択肢を取る危険性はある。

 相手が交渉に応じればだが、ロングスタッフの移籍金の半分程度の額でトッテナムからポチェッティーノを買い取ることができるのだ。

 相次ぐ監督交代といい、失敗例の多い補強といい、ユナイテッドに「ないもの」だらけの現状を招いた一番の責任者とも言えるフロントに、スールシャールに時間を与える覚悟があることを望む。

(「プレミアリーグの時間」山中忍 = 文)