矢作芳人調教師(58)=栗東=といえば、JRA随一の海外通トレーナー。米国、欧州、豪州など世界中のセリを毎年渡り歩き、愛馬の海外遠征にも非常に積極的な姿勢を貫く。昨年の凱旋門賞では「個人的に好きなタイプ」として挙げたクロスオブスターズが人気薄で3着。今年も外国馬を中心に分析してもらった。

 まずはレース全体について「エネイブルの存在は大きすぎる。エネイブルが中心というのは間違いない」と切り出した。

 「全世界の種牡馬にイメージを持ってセリに行っているけど、エネイブルのお父さんのナサニエルは三振かホームランというタイプの種牡馬。そこから大物が出た感じだよね。ローテーションなど去年より条件はそろいすぎているぐらい。走りにすごみも出てきたね。どんな競馬でもいいというのは大きな強みです」

 3連覇を狙う絶対的女王の話になると、口調は自然と熱を帯びていった。

 「ヨーロッパの牝馬にありがちな『えっ、これで走るの?』という馬体なんだよ。ただ、それで日本よりスタミナのいる馬場であれだけ走っているんだから、自分たちの馬の作りはどうなんだ、って考えさせられる部分はあるよね」

 その他の外国勢はどうか。「やはり、エイダン(オブライエン)のところかな」と言葉を続けた。

 「なかでも、やはりライアン(ムーア)が乗ってきたという点、斤量を考えるとマジカルよりジャパンだろうね。ただ、当初はアンソニーヴァンダイクが気になっていたんだよ。前哨戦の内容でソットサスがこれだけ人気なら、英ダービー馬のこの馬でも、と思ったけど…」

 しかし、今年の気になる馬は直前で回避。しばらく考えた後、口を突いたのは意外な馬だった。

 「今年はオープンストレッチの使用で、やはり内めで運べる馬が有利だと思う。だとすれば、内めの2、3番手で折り合って運べた時のキセキが面白いかもしれない。スミヨンが2度続けて乗れるということは何より大きいと思うし、重い馬場になりそうな点もこの馬にとってはいいからね」

 05年の開業当初から凱旋門賞は勝ちたいレースとして、常に名前を挙げてきた。頭の中で戦略は描き続けている。

 「当時より賞金も増えて、レースが進化したというか、ますますチャンピオン決定戦の色合いが強くなってきたね。そもそも、日本はもう1キロぐらい、基礎重量を上げないと、(古馬の牡馬が)あそこでいきなり59・5キロを背負うのは難しいと思う。凱旋門賞はもともと、3歳馬のスターホースを誕生させるということで伝統的に根付いたレースだから、斤量面で非常に有利なんです。今年のラヴズオンリーユーは行けなかったけど、参戦するなら3歳、それも牝馬という気持ちは強い」

 ただ、世界各地に視野を広げるトレーナーらしい発言も飛び出した。

 「凱旋門賞は日本のホースマンの長年の悲願。それだけの馬がいれば、行きたいという気持ちはよく分かる。ただ、レースは選ぶべきという気持ちもある。例えば、うちのリスグラシューは賞金面と相手関係のバランスを重ね合わせて、ブリーダーズCよりも豪州のコックスプレートへの遠征を選んだ。これだけ日本馬が海外に行くような時代になったんだから、そういうことを考えないとね」

 もちろん、憧れの舞台への強い気持ちは、今も胸の中に熱く刻まれている。

 「一頭も出走させていないんで、どうこう言える立場ではないけど、欧州調教馬以外が勝っていないという現実がある以上、調教師をやっている間は挑戦したいという気持ちを常に持ち続けていたいなと思っています」

 その口調は非常に力強かった。開業当初から逆境でこそ燃える反骨心が、厩舎躍進の原動力。世界の頂点へ立ち向かう姿を、楽しみに待ちたいと思う。(大阪レース部・山本 武志)

 ◆矢作 芳人(やはぎ・よしと)1961年3月20日、東京都生まれ。58歳。高校卒業後にオーストラリアで修行した後、84年に栗東トレセン入り。05年に厩舎を開業した。08年11月16日に史上最速でJRA通算100勝を達成(当時)。10年の朝日杯FS(グランプリボス)でG1初制覇を果たし、12年には日本ダービー(ディープブリランテ)も勝った。JRA通算609勝。重賞は33勝(G1・7勝を含む)。海外では16年のドバイターフをリアルスティールで制覇している。