女子バレーボールのワールドカップが9月29日に閉幕し、日本は6勝5敗の5位で大会を終えた。最後の大阪大会3連戦に3連勝し、かろうじて勝ち越すことができたが、札幌大会までの8戦は3勝5敗と苦しみ、3試合を残して、目指していたメダル獲得の可能性が消滅した。

 その時点で唯一の光明だったのは、このワールドカップで代表デビューを果たした19歳、石川真佑(東レアローズ)の活躍だった。

 男子日本代表のエース石川祐希(キオエネ・パドバ/イタリア)の妹で、今春、下北沢成徳高校を卒業したばかりの彼女は、今夏のU20世界選手権、若手で臨んだアジア選手権で優勝の原動力となり、両大会でMVPを獲得。アジア選手権後に、ワールドカップに出場するA代表に招集された。

 海外勢の高いブロックをものともせず、次々に得点を奪う姿は爽快だった。身長は171cmと代表選手の中では小柄だが、それを補う跳躍力とパワーがあり、打てるコースの幅が広い。相手が石川の得意なクロスのコースを2枚ブロックで防ごうとしても、さらにその内側のコースを抜く。そこにはレシーバーが入っているが、石川はインナーのコースのスパイクにもしっかりと力を乗せられるため、レシーバーを弾き飛ばすことができる。

 また、緩急を巧みに使い分けたり、打つタイミングを微妙にずらすなど、その引き出しの多さに驚かされる。

石井、荒木も認める石川の技術。

 エースの石井優希(久光製薬スプリングス)は、「真佑は本当にハイボールを打つのがうまくて、ブロックが2、3枚ついても脇に強くたたけるし、ブロックの指先を狙ったタッチアウトもうまいので、そういうところは学ばないといけない」と話す。

 下北沢成徳の先輩でもあるミドルブロッカーの荒木絵里香(トヨタ車体クインシーズ)は、同窓のエースたちと比較しながらこう評した。

「すごくクレバーな選手。ハイボールに対して、処理の仕方や得点に結び付ける方法をいろいろ持っている。普段の生活も、(木村)沙織よりはしっかりしてるし、黒後(愛)よりもしっかりしています(笑)」

持ち味を引き出した高いトス。

 ただ8戦目のブラジル戦では、ブラジルの2枚ブロックと鉄壁の守備に苦しんだ。それまでの相手には決まっていた2枚ブロックの内側を抜くスパイクがことごとくリベロに拾われた。

「自分の得意なコースだけじゃなく、ストレートに打ったり、そういう工夫や判断をもっとしていけたらよかった」(石川)と悔しさをにじませた。

 最終戦のオランダ戦では、ストレートのコースでブロックアウトを奪う場面もあり、課題克服への意識が見てとれた。

 自分のベストなプレーで立ち向かったからこそ、次への課題が見えた。石川がそれをできた要因の1つは、トスにあった。

 セッターの佐藤美弥(日立リヴァーレ)は、大会開幕の前日、石川へのトスについてこう語っていた。

「打つテクニックがあって、幅が広いので、そこを殺さないように、彼女の打点を生かすトスを上げたい。スピードで強みを殺してしまっては、意味がないと思うので」

 これが佐藤の本心だろう。石川に対しては、あくまで持ち味を引き出す高いトスを上げて生かした。

中田監督が掲げる「ワンフレームバレー」

 日本代表の中田久美監督は、「ワンフレームに収まるバレー」を求めてきた。山なりのボールを高く上げるのではなく、1本目をコンパクトにすばやくセッターに返し、セッターからのトスも速くする。

 ただ、ワールドカップ直前に合流した石川はそれに合わせる時間がなかったため、石川に合わせた高いトスを供給し、それが石川本来のスパイクを引き出すことになった。

 一方で「スピードで強みを殺してしまっては意味がない」という状況が、大会前半は石井や古賀紗理那(NECレッドロケッツ)に対して、当てはまってしまっていた。

 2人は打点の高さがあり、ブロックを見て利用したり、打ち分ける技術を持っているが、速さを求めるあまりどうしてもトスが低くなり、その持ち味を発揮できず、ブロックに捕まる場面が多かった。

 石井は今年5月から6月にかけて行われたネーションズリーグでは、高さを生かすトスで日本の最多得点を挙げたが、大会後トスを速くした。合宿中はうまくはまっているように感じたが、海外のチームを相手にすると勝手が違った。

「やはり外国人選手が相手だと、ブロックが前に出てくるので、囲まれてしまう」

 そのため、大会中にコンビを試行錯誤しなければならなかった。第5戦の中国戦になすすべなく敗れた後、石井はこう明かした。

お互いに様子をうかがいながら……。

「昨日からトスを浮かせてもらうようにしたんですが、まだタイミングが合っていない。今までのトスの速さに合わせて助走してしまい、一歩早く入りすぎて、待って打つことになり、助走の勢いを使ってジャンプすることができていない。セッターとお互いが様子をうかがっている状態。午前中の練習では、全体練習の後にセッターと合わせているんですが、まだ、『あ、これだな』というところで終われていなくて……」

 セッターの佐藤も、「私がスパイカーを悩ませてしまっている」と責任を背負いこんでいた。

 その後も石井は空間のあるトスを求め、助走の開き方を変えるなど、改良を続けた。同じように試行錯誤していた古賀とともに、ようやくコンビが「しっくりきた」と話したのは、第8戦のブラジル戦後。この日は攻撃がレフトに偏り、ブラジルのブロックと守備に阻まれて決定率は上がらなかったが、自分の打点から体重の乗ったスパイクを打てているという手応えはつかんだ。

 ただこの時点でもう日本のメダル獲得の可能性はついえていた。

速さを追求し、選択肢を失った。

 眞鍋政義前監督の頃から、もっと言えば男子の代表も含めて、日本が“速い攻撃”を目指しては、大会中に行き詰まり、トスを浮かせてスパイカーの打ちやすいトスに調整する、という光景を何度も目にしてきた。

 中田監督が目指すワンフレームバレーは、ボールが自チームのコートに入ってからの展開を速くすることで、相手の体勢が整う前に攻撃を繰り出して相手を翻弄することを目的とする。V・プレミアリーグ(現在のV.LEAGUE DIVISION1)の久光製薬で監督を務めた時も、このワンフレームバレーを掲げ、就任1年目でリーグ優勝を果たし、在任4シーズン中3度優勝という結果を残した。

 ただ相手が世界になると、同じようにはいかなかった。相手のサーブやスパイクの威力、ブロックの圧力が違うため、相手を撹乱する以前に、日本のコート内に余裕がなくなり、セッターはレフトにしか上げられない、スパイカーはここにしか打てない、といった選手にとって選択肢のない状態に陥ってしまった。

 久光製薬の中心選手でもある石井は、ワンフレームバレーについて、大会中こう語っていた。

「日本では通用していたけど、(1本目が速い分)攻撃枚数が減ったりするので、(世界に対しては)まったく同じというのは通用しないと思います。でも監督は、ワンフレームバレーはぶれずにやっていきたいということなので、久美さんのバレーなので、そこはしっかりやっていかないと。その中でも自分たちでいいように変えられるところは変えて、うまくはめていかなきゃいけないかなと思います」

 必要なのはトスの速さではなく攻撃枚数を増やすこと。選手たちはそれをわかっていて、試合後は毎日のように「攻撃枚数」という言葉が出ていた。

間を作ったことで増えた「枚数」。

 第9戦のセルビア戦では、1、2セットを奪われた後、監督からの指示により、1本目の返球を高くして間(ま)を作ったことで、日本のバレーがガラリと変わった。

 セッターの佐藤は水を得た魚のように、高い位置でセットアップし、ミドルブロッカーを積極的に使った。ミドルブロッカーの芥川愛加(JTマーヴェラス)と奥村麻依(デンソーエアリービーズ)はそれに応え、高い打点からコートの奥に力強くボールを叩いて得点を重ねた。

 それまでレフトに攻撃が偏り、相手に的を絞られることが大きな課題だったが、ミドルが機能し始めたことでサイドのマークが薄くなり、コンビに手応えを得ていた石井もストレスなくスパイクを打ち込んだ。

 この日はアウトサイドの石井、鍋谷友理枝(デンソー)と、ミドルの芥川、奥村の4人が10点以上を挙げるバランスのいい構図で、2セットダウンから逆転勝ち。悩み続けてきたセッターの佐藤は言った。

「全員が攻撃に入れるようにということで、パスに間を作ってくれたことで、自分自身に余裕ができた。みんながいいタイミングで入ってきてくれて、打ってくれたので、自信になったというか、勇気をもらいました」

エース石井が誓う継続性。

 日本は続くアルゼンチン戦、オランダ戦に勝利し、3連勝で大会を終えた。

 石井は大会をこう振り返った。

「最初は歯車が噛み合わなくて、どうしようと悩んでいた。なるべく速いトスというのをやっていた分、シャットアウトもすごく多かったんですけど、1本目の間を作って、トスも空間をしっかり作ってもらうことによって、ブロックが見えるようになったので、ブロックアウトをしたり、打ち分けがうまくできるようになった。もっと早く修正できればよかったんですけど、これを継続して、あとはもっとブロックアウトの技術を磨いていきたいと思います」

中田監督「負荷をかけないと成長しない」

 ワンフレームの枠を飛び出したことで、個々が持ち味を発揮し始めた。中田監督はこう分析する。

「ワンフレームのバレーができるから、対応ができると思うんです。セッターにきっちりと(ワンフレームで)コントロールして持っていくという意識があるから、『この場面は高くしよう』となったら、意識的に高くできる。

 やっぱり負荷をかけないと成長しないと思うんです。考えないで1つのプレーをするよりも、しっかり意図を持ってやっていくことが、技術の幅につながる。そこはしっかりとストレスをかけて、間がない中でも、(助走に)すばやく開くとか、状況判断をするというのを、今までやってきたからこそ、今こういう形でできていると思う。最初に負荷をかけてよかったと思います。

(ワンフレームバレーは)意識づけの1つなので、別にその型にピッタリ当てはめることがベストだとは思わない。やっぱり状況判断。自チームのオフェンスの態勢などによって、速く攻めるべきところは、コントロールしてセッターにきっちり速く持っていけばいいし、場面に応じていろんなコントロールができるのはすごくいいと思います」

 今大会で、日本の選手たちがどうすれば活きるのかが見えたことは収穫だが、大会2連覇を果たした中国など上位国との差は大きい。

 来年の東京五輪では、今大会のような出遅れは致命傷になる。ここから後戻りすることなく、サーブやサーブレシーブ、攻撃枚数を常に4枚にするといった課題の解消に努めていかなければならない。

(「バレーボールPRESS」米虫紀子 = 文)