7月6日のJリーグ仙台戦以来のホームでの勝利。公式戦での勝利自体も8月14日の天皇杯・水戸戦以来だった。10月2日ACL準決勝ファーストレグ、広州恒大戦で2-0と完封勝利を飾った浦和だが、試合後のミックスゾーンの選手たちは、淡々とした表情で試合を振り返った。

 75分に2点目となるゴールを決めた関根貴大も「まだセカンドレグがあるし、勝ったわけではないから。次のステージへ行けるなら喜ぶけれど、まだ何も手にしていないから、喜べなかった」とゴール後の心境を語っている。

 9月17日のACL準々決勝セカンドレグを1-1のドローで終えて、2戦合計のアウェイゴール数で上回り、勝ち上がりを決めたが、その8日後の天皇杯Honda FC戦では0-2と敗れた。

 そして、9月28日のJリーグでの鳥栖戦では2-0とリードして、ハーフタイムを迎えたものの後半に3失点。アディショナルタイムに得たPKを決めて3-3と追いついたものの、リーグ13位という厳しい現実を突きつけられたままだ。

「アウェイゴールを与えたくなかった」

 Honda FC戦、鳥栖戦でコンディション不良などもあってベンチ外だった興梠慎三は、満を持して広州戦で先発出場している。

「悪い試合をしていたわけじゃなく、いい試合をしながらも勝ちきれなかった。ただ前半の入り、後半の入りなど、悪い時間帯が鳥栖戦では目立っていたので、自分が試合に出たときはそこを無くすように周囲に声をかけるようにしていた。

 今日も悪い時間帯もあったけれど、そこを耐えればチャンスは来る。クリアしたボールを相手に拾われる時間が続いたときはなるべく前でキープしたり、自分たちがボールを持つ時間が増えれば、自分たちの流れになると思っていた。今日はそこで関根が決めてくれた。

 相手にアウェイゴールを与えたくなかった。オフサイドで取り消された(広州の)ゴールがあったけれど、あれが決まっていれば、第2戦へ向かう自分たちのアドバンテージがまったく違うものになるから。失点しないことをチーム全員が意識していたし、後ろの守備陣は身体を張って守ってくれた。前線も前からどんどんプレスをかけることができた。全員のがんばりが勝利に繋がった」

興梠のメッセージのある守備。

 そう試合を振り返る興梠の存在の大きさを、DFライン中央に立ち、そのオーガナイズとカバーリング能力を遺憾なく発揮していた鈴木大輔が語る。

「(相手の)クサビのボールに対しては、今日ほとんど勝てていたと思います。後ろが狙った守備ができるというのは、選手間の距離感がよくて、前線から(相手の攻撃に)規制がかかっているとき。

 今日だと興梠選手のところで、『真ん中でボールを持たせるのではなく、サイドでボールを持たせて、クサビのところを狙ってくれよ』というようなメッセージのある守備をしてくれた。それに対して、ボランチも非常に連動していたので、中盤からよいパスを出させなかった」

 槙野智章は、中央に立つ鈴木と右DFの岩波拓也との3人の関係について話してくれた。

「鈴木選手が真ん中に入り、岩波選手と僕に対して前へのチャレンジのコーチングができていて、僕らが前へチャレンジすることで裏に空いたスペースは彼がカバーするというよい連係ができている。そして、2対1とか数的優位な形で守るのではなく、あえて1対1の局面を作り、選手自身に責任を託すほうがうまくいくと思った」

「1対1に強い選手だと自分でも思っている」

 鈴木も言う。

「1対1に強い選手だと自分でも思っている。岩波選手も槙野選手も運動量のあるCBたち。1枚余らせてカバーリングというのはセオリーですが、マンツーマンでも守れる。もちろん、自分のスタイル的には、しっかりオーガナイズして、カバーリングして戦いたいですけれど」

 相手の3トップを3人でマークする。強気なマンツーマンディフェンスが功を奏したのも、前線からの守備が効いたからだろう。そのうえ、ここ数試合勝利から遠ざかっている広州が浦和と同じ3バックシステムをとったことも影響したかもしれない。

 不慣れな3バックシステムだったからなのか、カンナバーロ監督が「エウケソンやタリスカは怪我から戻ったばかりでフィットしていなかった」というように、広州に迫力はなかった。

この日の浦和は最後まで落ち着いていた。

 だからといって、浦和が90分間主導権を握り続けたわけではないが、少なくとも浦和は落ち着いていた。

 広州がボールを持てば、丁寧にアプローチをし、かつパワフルに球際で闘っていた。19分にファブリシオのゴールで先制したあとも、マイボールになれば、果敢に攻撃に出て、相手を敵陣へと押し込んだ。「今日は攻守のバランスが非常によかった」と槙野も言う。

 それでも、油断するようなことはなかった。今の浦和は、いかにいい戦いで45分を終えても、60分を経過しても、安心はできない。鈴木がその心境を語る。

「ここ最近、後半の真ん中から終盤にかけての失点が多くて、後ろの選手を含めて、フラストレーションが溜まっているところが少なからずあった。鳥栖戦でも70分、74分と立て続けに失点している。そういう試合展開が続いたなかで、今日は逆に自分たちが追加点が取れて試合を終わらせられた。結果だけでいうと自信にはなった」

槙野「ファールをしてでも止める」

 広州戦74分の出来事だった。浦和がコーナーキックを得たシーンである。DFラインの選手たちも攻撃参加のためポジションを移そうと敵陣へ向かう。その途中、ピッチ中央で槙野が大きな手振りで周囲に声をかけた。西川周作も慌てて、ハーフウェーライン付近の槙野のもとへ走った。

「あの時間帯、セカンドボールを拾われて、カウンター攻撃されるシーンがあった。だから、CKから相手にカウンターを許すようなことになれば、『俺たちがたとえファールをしてでも、止めよう』という話をしました。イエローカードをもらっていた橋岡大樹が(積極的に)行けなくなっていたので、まだイエローをもらっていない選手が行こうと」

 その直後のCKを相手がクリアし、続けて得た左からのCK。相手のクリアボールが関根の前へ転がる。それを右足で蹴り込んだのが2点目のゴールとなった。

槙野の危機管理が流れを引き寄せた。

 CKは得点チャンスだが、相手にとってもカウンターのチャンスになりかねない。そこで改めて危機管理を行った槙野の気づきや声かけが、完封勝利へと繋がる流れを引き寄せたのかもしれない。

 ただ85分には、結果的にはオフサイドだったもののゴールネットを揺らされている。主審と副審が話し合ったあとに、副審の旗が挙げられた。得点になっていれば、興梠のいうように戦況は大きく変わったに違いない。

 だから、敵将のカンナバーロ監督は会見で「VARでもないのに……」と納得がいかない様子だったが、それでも「今ここでいろいろ話してもしょうがない。次の試合へ向けてよい準備をするだけだ」と多くは語らなかった。

 まだ前半戦が終わっただけ。

 その気持ちは広州サイドだけでなく、浦和サイドも同様に抱いている。

「広州はホームになれば、別のチームになる。過去に経験しているから」と槙野は言い、柏時代に経験している鈴木も口をそろえた。

残留争いの現実は変わらない。

 それでも、2-0というアドバンテージは小さくはない。アウェイで1点獲れば、3失点しても決勝へ勝ち上がれる。失点を恐れず、攻撃へ向かう余裕を持てるスコアだ。しかし、10月23日の第2戦までには清水、大分とのリーグ戦が控えている。

 今季の浦和は順調に勝ち進むACLの陰で、リーグ戦、天皇杯、ルヴァンカップと国内のコンペティションでは振るわず、明暗がはっきりと分かれている。広州戦での快勝によって、すぐさまチームが変わるわけではないことは、今季の浦和を知る人間なら誰もが感じているだろう。

 スコアを見るだけではわからない、90分間の小さな積み重ね。選手たちの繊細な対応が2-0と実を結んだ。その成功体験は確かな力になるはずだが、それが週末のリーグ戦でどう生きるのか? いかに活かせるのか? 

 自分たちを信じる力と同じくらい、もしくはそれ以上の危機感が必要なのかもしれない。残留争いを続けている現実は、まだ変わらないのだから。

(「JリーグPRESS」寺野典子 = 文)