ヴィッセル神戸が徐々に調子を上げつつある。

 川崎フロンターレを破って、9位に浮上。リーグ戦では8月から9月まで負けたのはホームでの札幌戦だけだ。

 山口蛍は好調の理由をこう語る。

「うしろ3枚のフォーメーションがハマっているのがあるし、神戸のサッカーに対して移籍してきた高徳、大樹らがハマっているのが大きい」

 8月10日の大分戦から3バックを採用したが、公式戦6勝1敗1分と好調だ。トーマス・フェルマーレン、ダンクレー、大崎玲央の3バックに夏に加入した酒井高徳(左ウィングバック)、GK飯倉大樹が加わり、3-3-2-2のシステムが機能している。

攻撃もだが、守備の迫力が凄い。

 攻撃は最終ラインの3人にプラス、セルジ・サンペール、さらにGK飯倉がビルドアップに加わり、余裕を持ってボールを回せるようになった。川崎はビルドアップする選手に対してプレスを掛けていたが、神戸は常に2対1の状況を作り、川崎の網の目をかわしていた。

 また、前から奪いに行くだけではなく、この日の川崎戦もある程度引いて待ちかまえ、奪うと素早く前に展開して、古橋亨梧からビジャへ鮮やかなカウンター攻撃を見せてゴールを奪った。

 見事なゴールだったが、凄みを感じたのはむしろボールを奪う際の迫力だ。ガツガツと激しく当たり、ボールを絡め取る強さは少なくとも夏前にはなかったものだった。

 守備は、3バックにしてから役割が明確になり、高い能力を活かして守っている。さらにサンペールのコンディションが上がり、前後左右に動けるようになってアンカーに配されたのも大きい。

 川崎戦では後半アディショナルタイムにセンターバックのふたりが競りに行くというミスを犯し、こぼれ球を長谷川竜也に持っていかれて失点したが、天皇杯につづき2試合連続で川崎を破った力は本物だ。

つなぐサッカーへの志向は変わらない。

 ただ、山口自身は、この日の川崎戦の内容にやや不満気だった。

「今日も2−0から2−1になっているし、天皇杯(川崎戦)も3−0から3−2になった。松本戦(ロスタイムに失点し、2−1)もそうですけど、最後あういう終わり方をしているので、そこはゼロで終わる試合にしないといけない」

 攻撃についても、これだけの選手がいるのだからという前提で要求している。

「後ろが3枚になって、攻撃の際の人数が少ないという印象はあります。今日のようにカウンターが決まればいいけど、できれば後ろからつないでボールを保持しながらゴールに迫っていくという展開を増やしていくのがいい。天皇杯での川崎戦ではそれが出来ている部分もあったんで」

 要求が出てくるのも、勝てるようになってきたからだ。

イニエスタの左が主攻ではあるが。

 システム変更の影響でチームの動きが良くなった中、山口自身のプレーにもアグレッシブさが戻ってきた。3バックになった大分戦の次の浦和戦で今季初ゴールを決め、つづく鳥栖戦では2ゴールを挙げた。

 それまではパートナーがイニエスタだったり、ポジションがアンカーのために攻撃面での良さを発揮することがなかなか難しかった。今もボールはほぼ左のイニエスタを経由しているので「右にボールがくるのはなかなか難しい」と山口は苦笑する。

 ただ、そういう中でもゴールを狙うようになったし、ボールを持った時は展開のパスだけではなく、同サイドにいる古橋に鋭い縦パスを入れるなど勝負のパスが見られるようになった。

「高いポジションを取っているので、受けてから縦パスを出せるし、もっとDF間でボールを受けていいパスを出せたらと思います。シュートは狙いたいし、その意識もある。ただ、うちはみんな前を向いたら1人で行って完結してしまうことが多い。コンビネーションでもいけたらよりいいかなって思うけど、そこに合わせていくのはちょっと難しいですね」

 イニエスタが攻撃面を優先しているので、山口はその背後や横のスペースを気にしながらプレーしている。守備になるとアンカーのサンペールの横におりてきてダブルボランチのような形で守っている。そうした気の利いた守備は山口の良さでもあるが、今のポジションに100%満足しているわけではない。

チームの狙いと、個人の狙いと。

「今はなるべく高い位置にいてほしいと監督に言われているので、下がってきてボールを受けることができないんです。もともとボランチの選手なのでボールを触って、散らしていうテンポの中でやってきたんですが、監督がそうやってほしいということなのでそれをやらないといけない。

 ただ、個人的には狙いとか考えていることがあるので、そこは葛藤しながらやっていますね」

 ボランチとして高く評価され、日本代表でもプレーしてきた。ボランチとして攻守両面で力を発揮したいと思うのは、選手の欲求としては当然だ。

 だが今は監督の要求があり、「楽しいというより、いま勝っているんで」とチームのために犠牲心を持ってプレーすることに徹している。このシステムを継続して、さらに選手間で動きが馴染んでくればもっとやれることが増えてくるだろう。

代表でも山口の「怖さ」は必要。

 そうして自分の良さを1つでも多く発揮できれば日本代表も見えてくる。

 今年3月、8カ月ぶりに日本代表に招集されてコロンビア戦ではスタメン出場した。だが、その後は6月の2試合、9月のカタールW杯2次予選ミャンマー戦も招集されていない。

 現在のボランチは柴崎岳がファーストチョイスで、相棒として板倉滉、遠藤航、橋本拳人ら若い選手が残りの1席を競っている。

 だが個人的には、柴崎以上の守備能力に加え、裏に抜けるセンス、シュート力がある山口の恐さも捨てがたいと感じる。

 日本代表でポジションを取り返す気持ちはあるのだろうか。

「代表は……ないですね。ないというか、ボランチで(試合に)出ていないから。代表で1つの前のポジションはないと思うし、呼ばれるとしたらボランチだと思うんで。

 インサイドハーフをやっている段階で呼ばれてもギャップじゃないけど、それはちょっと失礼というのもあるんで、今はチームに集中してやっていこうかなと思います」

チームで唯一の27試合スタメンフル出場。

 ブラジル、ロシアと2つのW杯を経験するなど国際Aマッチ46試合をこなし、ベテランの域に達しつつある山口にとって、今は代表入りを焦る必要がないのだろう。

 W杯予選は長い戦いなので、いずれ必要とされる時が来る。また、神戸では天皇杯でタイトル獲得を狙えるし、リーグ戦もトップ5入りが十分に狙えるポジションにいる。

「とりえあえずこのチームで結果を残したい」

 この日は途中交替でベンチに戻るイニエスタから直接キャプテンマークを巻いてもらった。開幕からチームで唯一、27試合スタメンフル出場を果たしている。チーム内での存在感、信頼は絶大だ。これから広島、FC東京との上位対決、さらに天皇杯準々決勝の大分戦が待っている。

 結果を残したその先に、再び日の丸の舞台が待っているはずだ。

(「話が終わったらボールを蹴ろう」佐藤俊 = 文)