足のアウトサイドでボールを外へ押し出し、即座に足の爪先に引っかけて切り返して相手を抜き去る妙技・エラスチコ。これをボールを浮かせてやってしまう、空中エラスチコ。

 蹴る方向を見ないでパスを出すノールックパスを、あえてパスを出すのと反対を向いて出す、あっち向いてほいノールックパス。

 後方からのパスを背中で止めると同時に、近くの味方に渡す、背中トラップ&パス。

 独創的、華麗にしてどこかユーモラスでもあるプレーでマーカーをキリキリ舞いさせ、世界中のサッカーファンを魅了したロナウジーニョが、第2の人生で迷走している。

 2015年9月末、リオの名門フルミネンセでプレーしたのを最後に、彼は現役を退いた。以後は、世界各地で行なわれるサッカーやフットサルの記念試合や各種イベントに参加し、華麗な足技でファンを楽しませる「サッカー伝道師」を務める。

 指導者にも解説者にもならず、「ロナウジーニョ」であり続けることを選んだ。

兄と購入した土地での違法建設。

 一方、私生活では夜遊び好きのボヘミアン。正式に結婚したことはないが、2005年、ブラジル人ダンサーとの間に息子をもうけている。

 選手として大きな名声と人気を手に入れ、莫大な金を稼ぎ、盛大に使ってきた。麻薬問題や反社会的勢力との関係が疑われたこともない。

 しかし、近年、多くのトラブルを抱えている。

 故郷ポルトアレグレ郊外の大きな湖のほとりに、兄で代理人を務めるアシスと共同で890ヘクタールの土地を購入した。2009年、敷地内に全長142mの桟橋を建設し、橋の先端に船着き場と魚釣り用のスペースを設けた。周辺に水路やアスファルト道路も造った。

 ところが、湖の一帯は環境保護地区に指定されており、市はこれらの建造物を違法とみなして撤去を求めた。

罰金の利子が4億7000万円に膨らむ。

 ここで素直に従っていれば、何の問題もなかった。しかし、兄弟はこの要請に従わず、監察官の立ち入りも拒んだ。市は2人を違法行為で訴え、2015年、地方裁判所が兄弟に桟橋の撤去と罰金80万レアル(約2080万円)の支払いを命じる判決を出した。

 ところが、兄弟はこの判決も無視する。

 昨年1月、この罰金が利子を含めて850万レアル(約2億2000万円)まで膨れ上がり、昨年9月、裁判所は兄弟のパスポートを没収した。

 引退後のロナウジーニョは、収入の大半を国外での活動で稼ぐ。外国へ出られなくなり、収入が激減した。

 それだけではない。彼は57の不動産を保有するが、うち19の不動産の土地家屋税を長年滞納しており、昨年末、それが罰金と利子を含めて約1800万レアル(約4億7000万円)となった。

口座は640円、女性トラブルも。

 そして、これらの税金や罰金の滞納を理由に、ポルトアレグレ市はロナウジーニョが所有する不動産の売却禁止や差し押さえ処分を下す。その際、市当局が彼の銀行口座の預金も差し押さえようとしたところ、口座には約24.63レアル(約640円)しかなかった。

 今年9月12日、兄弟は地方裁判所と交渉し、60万レアル(約1560万円)を支払えばパスポートを返却してもらえることになった。土地家屋税についても市と話し合った結果、支払い金額を750万レアル(約2億円)まで減額してもらい、それを60回分割で払うことで合意した。

 女性関係のトラブルもある。

 2012年からあるブラジル人女性と恋愛関係にあり、同棲していたのだが、2016年から別の女性とも交際を始め、以後、3人で一緒に住んでいた。ブラジルでも重婚は違法だが、「事実上の重婚状態にある」と物議を醸した。その後、3人は破局。最初の女性から、「6年間、事実上の婚姻関係にあった」として、この間の収入の3分の1の支払いを求められている。

ブラジルのトランプ支持にバルサは嫌悪。

 政治的な面でも、世間を騒がせた。

 昨年のブラジル大統領選挙を前に、極右政治家で女性、有色人種、同性愛者への差別的な言動が多く、「ブラジルのトランプ」と呼ばれるジャイール・ボルソナロ候補への支持を表明した。

 ロナウジーニョは2017年から古巣バルセロナのアンバサダーを務めているが、クラブ関係者は「ボルソナロ候補の政治信条は、我々と相容れない」と強い嫌悪感を示した。

 その後、ボルソナロは選挙で勝って今年1月、ブラジル大統領に就任。選挙前に支持を表明してくれたことへのお礼に、9月、ロナウジーニョをブラジル観光局のアンバサダーに任命した。

 これに対し、ブラジル国内では「パスポートを没収された男が観光局アンバサダーだなんて……」という嘲笑が渦巻いた。

今も変わらず自由奔放だが。

 差し押さえられた銀行口座が空っぽだったからといって、ロナウジーニョが破産したわけではない。とはいえ、現役時代に蓄えた財産が猛烈な勢いで減っているのは間違いない。

 現役時代のロナウジーニョは周知の通り、スーパースターだった。ブラジル代表の一員として2002年ワールドカップで優勝し、バルセロナを2005~06年の欧州CL王者に導き、個人としても2004年と2005年に年間世界最優秀選手に選ばれた。

 世界サッカー史上、彼より優れた選手はいたかもしれないが、彼ほどファンを楽しませ、またファンから愛された選手は少ないだろう。

 かつて自由奔放にプレーした男は、今も変わらず自由奔放だ。しかし、実社会には法律やルールが厳然としてあり、それらを遵守しなければ処罰を受ける。選手としてあまりにも大きな成功を収め、欲しいものをほぼすべて手に入れた男は、それがよくわかっていないらしい。

意外とシャイな「サッカー伝道師」。

 現在、39歳。人生はまだまだ長い。

 彼とて、生涯、「サッカー伝道師」を続けることはできまい。さりとて、戦術家でもなければリーダーシップにも乏しいから、指導者になるというのも考えにくい。

 テレビ解説者なら可能性はあるが、彼は意外にシャイで、話術が巧みでもないから、これも厳しい。となれば、将来、彼は何をするのだろうか。

 世界中のサッカーファンは、かつて自分たちが愛した男が実社会で悲惨な境遇に喘ぐ姿は見たくないはずだが……。

(「熱狂とカオス!魅惑の南米直送便」沢田啓明 = 文)