今夏のヨーロッパは昨年と同じく猛暑に見舞われ、ドイツでも気温が40度近くまで達する地方がありました。でも、それも短い時期で、9月下旬を迎えた今は日中こそ20度以上まで上がりますが、夜間は気温が1桁を示すことも多くなりました。

 ドイツの方々は防寒が抜かりないと感じます。つい最近までTシャツ、短パンで過ごしていたのに、翌日は若い女性が分厚いジャンパーを着て全速力で自転車を漕ぐ姿を見たりもします。

 ちなみにドイツ語ではジャンパーやジャケット、ブルゾンのことを総称して「ヤッケ」と呼びます。これはスペルの「Jacket」をドイツ語読みしたものですが、日本でも50代以上の方が作業服などのことを「ヤッケ」と言いますよね。あの言葉はドイツ語が語源なのだと最近知りました。

 肌寒くなると、こちらでは本格的なサッカーの季節が到来したと実感します。

 国内リーグに加えてUEFAチャンピオンズリーグやヨーロッパリーグなどのカップ戦が開催され、各スタジアムだけでなく、街中のカフェやバーなどでもサッカーを目にする機会が増えています。

1部は群雄割拠の様相だが。

 2019-2020シーズンのブンデスリーガは群雄割拠の様相を呈しています。

 目下リーガ7連覇中の“盟主”バイエルン・ミュンヘンは、5試合を終えて3勝2分の無敗を堅持。貫禄のスタートを切りました。

 しかし現在の首位は、そのバイエルンと第4節で激突して堂々のドローで終えたRBライプツィヒです。俊英指揮官のユリアン・ナーゲルスマンが監督に就任したライプツィヒは、ラルフ・ラングニック前監督が築き上げた「コントロールされたカオス」に、ナーゲルスマン流の「オーバーロード」戦術を融合させる試みを行っています。

 ただ、首位ライプツィヒと7位レバークーゼンまでとの勝ち点差は僅かに3。この中にはドルトムント、フライブルク、シャルケ、ボルシアMGなどがひしめいていて、シーズン序盤のつばぜり合いはなかなか見応えがあります。

 そんな中、今回は1部クラブに関することではなく、2部に属する“ある人気クラブ”の行末と、そのチームを率いる興味深い指揮官のことについて書きたいと思います。

お家騒動が勃発していた最近のVfB。

 先日久しぶりにドイツ南西部の街、シュツットガルトへ行く機会がありました。シュツットガルトはバーデン=ビュルテンベルク州の州都で人口62万人と、ドイツ国内では比較的規模が大きく、工業都市としても有名です。

 特に自動車産業が盛んでして、メルセデス・ベンツで有名なダイムラー社や、現在はフォルクスワーゲン社の傘下になりましたがポルシェ社も、シュツットガルトを本拠としています。

 そして、そのダイムラー社の英知が結集されたメルセデス・ベンツ博物館の横に、今季ブンデスリーガ2部に所属するVfBシュツットガルト(以下、都市名との混同を避けるためにVfBと記します)のホームスタジアム「メルセデス・ベンツ・アレナ」があります。

 VfBは昨季16位となり2部との入れ替え戦に回り、2部3位のウニオン・ベルリンとのホーム&アウェー戦で2戦合計2-2ながらもアウェーゴール差で敗れ、2015-2016シーズン以来3年ぶりの2部降格を喫しました。

 最近のVfBは“お家騒動”が勃発しています。昨季途中に幹部陣との意見が合わずにミヒャエル・レシュケSDが解任され、後任にはクラブOBのトーマス・ヒツルスペルガー氏が就きました。

 ただ、ヒツルスペルガー氏の就任前に実行されたタイフン・コルクト監督からマルクス・バンツィール監督への指揮官交代が功を奏さず、結局バンツィール監督の後を受けたニコ・ビリヒ監督の下で降格を喫してしまったんですね。

 その後、責任を問われたボルフガング・ディートリッヒ会長が職を追われ、現在は12月の選挙までクラブ会長不在という状況に立たされています。

バルター監督の斬新な練習方法。

 ただ、ヒツルスペルガーSDには明確なプランがあったようです。昨季、チームが入れ替え戦にまわる前、おそらく2019-2020シーズンもトップカテゴリーで戦うと算段したなかで、ヒツルスペルガーSDはブンデスリーガ2部のホルシュタイン・キールを率いていたティム・バルター監督をVfBの指揮官として招聘したのです。

 実は僕、以前にバルター監督の練習を見たことがあります。今年の3月、まだ極寒のドイツ北部の港湾都市キールで、当時ブンデスリーガ2部のキールに在籍していた奥川雅也(現・ザルツブルク/オーストリア)の取材に赴いたときでした。

 バルター監督の練習方法は斬新で興味深いもの。トレーニングメニュー内容の詳細は割愛しますが、ひと目見ただけで、かなりフレキシブルなシステム、ポジションを形成するチームなのだなと感じました。

 ちなみにGK練習がとても印象的で、小型トランポリンを利用してノーバウンドでボールキャッチしてそのまま投げ返すなんていう、見た目は楽しそうだけど多分凄いキツイんだろうなというメニューを、GKたちがキャッキャ言いながらこなしていました。

試合前日に全員でハンドボール観戦。

 奥川に話を聞いたら予感は的中。彼曰く、バルター監督の戦術は今まで出会ったことのないほどに斬新なもので、各選手が頻繁にエリアを跨いでポジションを入れ替えるのだそうです。

 また守備の概念は非常に戦闘的で、攻守転換の際に相手ボールホルダーへ食らいつくゲーゲンプレスは必須。アンカーの選手がプレスを外されたら味方DFと相手FWが1対1の大ピンチになる状況でも「行け!」とばかりに突撃するのがチームコンセプトなのだそうで、ヒヤヒヤするけどエキサイティングを地でいく戦術に、奥川はとても好意的な印象を持っていました。

 そんなバルター監督はチームの団結を重んじるタイプでもあるそうで、ある試合の前日にチーム全員で地元キールのハンドボールクラブの試合観戦を命じたこともあるそうです。奥川も「さすがに、試合前日ですよ……」と驚いていましたが、なるほど、なかなか特殊な指導方針を持つ監督だと思いました。

選手の動きには一定の法則が?

 そんなバルター監督が率いる今季のVfBのゲームを観てみました。やっぱり、かなり斬新です。基本は4-4-2で、詳細に記すと4-1-3-2でしょうか。中盤はダイヤモンド型の様子ですが、アンカー以外の3人がひっきりなしに動くので正確なポジションを把握するのが難しい。

 ただ、よく観察していると、選手の動きには一定の法則があるようです。それは誰かがポジションを逸脱したら、必ず誰かがそのエリアを補完するというもの。言葉で記すのは簡単なのですが、このタスクを流れの中で淀みなく実行するVfBは現在、ブンデスリーガ2部で5勝2分、勝ち点17を積み上げて首位に立ち、得点はリーグ3位タイの13得点、失点もリーグ4位の7失点。しっかりと結果を残しています。

 さて、そんなバルター監督率いるVfBに今夏、正確に言うと8月13日、チームが第2節を消化した後に、日本代表MFの遠藤航がベルギー・ジュピラー・プロ・リーグのシント・トロイデンから期限付きで加入しました。

 ただ、遠藤は第7節を終えた段階で未だ試合出場を果たせず、9月上旬の日本代表の活動を終えてチームへ再合流した第6節のレーゲンスブルク戦、第7節のグロイター・フュルト戦ではベンチ入りもできませんでした。

中盤アンカーは激戦区だけに。

 バルター監督が今後、遠藤をどのポジションで起用しそうかを予測します。ちなみに遠藤自身はナンバー6、つまりダイヤモンド型中盤のアンカーポジションでプレーしたい希望を持っていますが、ここは正直激戦区です。

 バルター監督がアンカーポジションのファーストチョイスと考えているのはアタカン・カラゾルです。何故彼が"鉄板"かと言うと、カラゾルは今季バルター監督と共にキールから移籍してきた選手なのです。つまり、カラゾルは指揮官の戦術、戦略を熟知した"申し子"。かなり仔細なタクティクスを求められる中盤の底でタクトを振るいチームをコントロールするのに最適な選手なのですね。

 カラゾルが理想とするナンバー6は、バルセロナのセルヒオ・ブスケッツなのですが、このチームのアンカーはパス供給源としての能力はもちろん、先述したようなゲーゲンプレスの担い手として、局面勝負で必ず勝利しなければならない強靭なフィジカルをも必要とします。

 またアンカーの2番手には今季ハンブルガーSVから移籍加入したオレル・マンガラという選手がいて、直近の2試合では彼が先発しています。

 さて、そうなると、遠藤が任される可能性のあるポジションはダイヤモンド型中盤のサイドハーフ? もしくはトップ下? はたまたセンターバック? となるのですが、現状では純然たるレギュラーが不在の左サイドハーフ、または右サイドバックという選択肢になるようです。

攻守両面での困難を克服できれば。

 Jリーグ時代の遠藤は主に3バックの右ストッパー、もしくは中央のリベロが主戦場でした。しかし、リオ五輪のU-23日本代表では手倉森誠監督からボランチに抜擢され、ここで自他共にMFとしての能力が認知されました。さらに昨夏にベルギーへ渡ってからは一貫してMFとしてプレーしていて、シント・トロイデンで任されたポジションはアンカーやボランチではなく前目のインサイドハーフでした。

 遠藤が新天地で克服すべき壁は正直高いです。初めてのドイツ、斬新な戦術を駆使する指揮官、そしておそらく守備同様に攻撃面でも貢献を求められる役割。ただ、その困難を克服したとき、我々は今まで観たことのない遠藤航の潜在能力を目撃できるかもしれません。

ブッフバルトが会長に立候補する?

 遠藤は連日、精力的にチーム練習に取り組んでいます。週1回のドイツ語講習も欠かしていません。今の彼は意欲に満ちています。本人と会って確認しました!

 シュツットガルトでの所用を終えた後、時間があったのでシュツットガルト中央駅近くでビールでも飲もうかなと思ったら、なんと現在駅構内は改装中で店が一軒も開いていない!

 そういえば半年ほど前、かつてJリーグの浦和レッズでプレーし、監督も務められた元ドイツ代表DFにしてVfBシュツットガルトのレジェンド、ギド・ブッフバルトさんとお会いした際に、彼にこんなことを言われたのを思い出しました。

「シュツットガルト中央駅の工事は、もう何年も前から着工しようと準備していたんだけど、予算や建築計画の不備などから一向に進んでいなかったんだよ。なんだか焦れったいよね。まるで最近のVfBみたいだよ」

 そのブッフバルトさん、なんと12月のVfB会長選挙に立候補する可能性があるそうです。現場ではバルター監督、そしてフロントサイドにもしブッフバルトさんが参画したら、2部クラブなのに平均観客数が約5万人に達する“名門”VfBに変革が起こりそうです。

 だから(遠藤)航選手、頑張って。電車で約1時間半の距離を隔てたフランクフルトから、熱烈に応援しております。

(「ブンデス・フットボール紀行」島崎英純 = 文)