マカオで開催された賞金トーナメント『テリフィック12』に参戦した五十嵐圭(新潟アルビレックスBB)は、13年前に出たワールドカップ(当時は世界選手権)を思い出してこう発言した。

「この夏、日本はワールドカップで5連敗したけれど、日本代表の選手たちは皆、ワールドカップで得た経験をBリーグに持ち帰ると誓っていました。それが日本を強くする方法なのは間違いありません。僕自身もこの大会で得たことはリーグで出していきたい。

 ただ――Bリーグで経験を出すといっても、代表選手だとBリーグでは通用してしまう。だったら、こういった海外の大会に出て、いろんなタイプの海外のチームとたくさん試合をしたほうが、もっと早くに強化できるんじゃないかと思います。Bリーグだとガードは外国籍選手とマッチアップする機会はそんなにないけど、この大会だったらできる」

予選敗退してもマカオに残って。

 9月17日から22日にかけてマカオで開催されたテリフィック12は、FIBA公認の『アジアリーグリミテッド』(以下、東アジアスーパーリーグ)が主催するオフシーズンの賞金トーナメントで、今年で3年目を迎える。

 日本、中国、韓国とフィリピンの各国プロリーグから推薦された精鋭12チームが参戦し、優勝チームには15万ドル(約1600万円)、準優勝は10万ドル(約1100万円)、3位は5万ドル(約540万円)が与えられるアジアでは破格のトーナメントだ。

 こうした海外のトーナメントに初めて参戦する新潟としては、絶好の学びの機会だったのだ。

「恥ずかしい話ですが、我々は海外のチームに対して情報収集やスカウティングに関してはとても遅れています。だからこそ、この大会で様々なチームと対戦し、試合を見ることも勉強だと思って参加しました」と庄司和広ヘッドコーチがコメントする新潟は、予選ラウンドで敗退しても最終日まで現地に残り、ファイナルを観戦してからの帰国となった。

 そんな中で司令塔の五十嵐は、中国とフィリピンの強豪クラブと対戦したことで、日本代表としてワールドカップのコートに立った13年前と同じような気持ちを感じていたのだ。

中国はNBA経験者を高額で獲得。

 9月15日に終了したワールドカップでは、アジアから2次ラウンドに進出したチームはひとつもなく、世界との差を見せつけられた。

 世界の中でも体格が劣り、弱小であるアジアの国々は、対外試合を増やし、フィジカルの強度や経験値を上げなければならないのは明白だ。代表戦であれば限られた選手だけしか経験できないが、クラブの対抗戦であれば、経験できる選手の数は増していく。

 近年、中国プロリーグのCBAでは、NBAでプレー歴のあるビッグネームと高額で契約してはリーグを沸かせている。優勝した遼寧フライングレパーズには昨季までレイカーズでプレーしていたランス・スティーブンソンや、チュニジア代表でW杯に出たセンターのサラ・メジリなどのNBA経験者が加入し、さっそくマカオのファンを魅了していた。

 とくにMVPを獲得したスティーブンソンはアウトサイドから鋭く切れ込み、ボールをハンドリングすることも多いだけに、彼とマッチアップをするだけでも、Bリーグのアウトサイド陣にとっては貴重な経験になったはずだ。

アジア版ユーロリーグ化構想とは。

 こうして選手やチーム、コーチたちが成長できる機会を提供し、アジアのバスケットボールの発展を目指して開催しているのがテリフィック12なのだが、大会を主催するアジアリーグリミテッドの代表のマット・ベイヤーからは、期間中にこの大会が目指そうとしている未来についての公式発表もあった。

 それは、「アジア版ユーロリーグ化構想」についてだ。

「もともと、このリーグをアジア版ユーロリーグにする構想で2016年から準備を進めてきました。現在は主管となるFIBAと良好な関係を築き、FIBA大会の日程を考慮しながらも、長期契約を交わすために話し合いを進めています。この1年間でスポンサーもかなり増え、現在は各国リーグに交渉中で、すでに中国(CBA)と韓国(KBL)からは好感触を得ています。発展が著しいBリーグにもぜひ参戦してほしい」

東アジアにこだわる理由とは。

 バスケのユーロリーグとは、ヨーロッパ各国で優秀な成績を収めた強豪18クラブが集結し、レギュラーシーズン中にホーム&アウェーで試合を行い、ファイナル4からはトーナメントで優勝を争うリーグのことで、権威ある大会となっている。サッカーでいう『AFCチャンピオンズリーグ(ACL)』のバスケ版を目指す構想、といえばわかりやすいだろうか。

 現在のところリーグ構想にあるのは中国、日本、韓国、フィリピンが参加し、各国上位2チーム、計8クラブがシーズン中に戦うシステムだ。

 東アジアにこだわる理由は、広大なアジア地域を4~5時間の飛行距離で移動できる範囲を想定しているため。プレーオフはマカオの一極開催が濃厚だ。アジアチャンピオンになることで、自国リーグやクラブの価値を高めることにもつながるだろう。

代表を務めるアメリカ人の情熱。

 東アジアスーパーリーグの代表を務めるマット・ベイヤーは熱意にあふれたアメリカ人。ただ、実績のないアメリカ人がアジアの発展のためにリーグ化計画の推進を唱えたところで、最初は誰も信用しなかった。だが、ベイヤー代表は信念のままに突き進んだ。彼はアメリカ人だが、活動のベースは中国にある。

 高校卒業後に縁があって中国に渡ると、様々な職を経たのちにCBAの外国籍選手を扱うエージェントとして活動を開始。中国代表のエース、イー・ジャンリャンがNBAに在籍した時もエージェント兼専属マネージャーとして働いた。

 NBAを知る男は、縁があって住むことになった中国の地で、アジアバスケの発展のために、「まずは実績を作ること」から始め、3年かけてテリフィック12を定着させてきたのだ。

 そこで、協力に乗り出したのがマカオ政府である。マカオはカジノで有名な街だが、今後はファミリー層を受け入れたい意向があり、マカオ特別行政区スポーツ庁が支援をすることになった。テリフィック12は、毎年開催しているマカオグランプリに次いでスポーツ庁が力を入れている支援先となっている。

課題だった集客にもテコ入れが。

 さらに、今大会は過去2年よりもさらに改善し、いちばんの課題だった集客についてもテコ入れを図った。

 昨年まではカジノホテルが集結しているきらびやかなコタイ地区の、アリーナとホテルが一体となった施設で開催したが、仕事帰りのマカオ市民が観戦するためには商業施設や住宅が集まった旧市街のほうが好都合。今回、開催場所を旧市街に移したところ、約2000人のキャパシティのアリーナを最終日や人気カード時にはほぼ満席で埋められるようになった。

 とくに、マカオにはフィリピン人の労働者も多く、人気チームのサンミゲルビアメンの応援には熱狂的なファンが集まった。もともと、試合の動画配信では中国を中心に好感触を得ていたが、アリーナでの観戦者が激増したことはマカオ政府には好アピールになった。
 今大会を視察に来ていたBリーグの常務理事・事務局長である葦原一正は東アジアスーパーリーグの参戦について「検討中」だと話す。

「今回はこれまでより進んだ意見交換をするためにマカオに来ました。東アジアスーパーリーグ参戦にあたっては試合スケジュールなどの課題はありますが、日本のバスケがレベルアップするためには、グローバルな視点で動かなければならないので検討中です」

国内だけでもがいても始まらない。

 今回、日本から参戦した千葉ジェッツ、宇都宮ブレックス、琉球ゴールデンキングス、新潟アルビレックスBBの4チームはすべて予選ラウンドで敗退した。アーリーカップから中1日で移動しての試合がハードスケジュールだったのは理解できよう。負傷者を抱えて全員が揃わなかったチームもある。ただ、それは他のチームとて同様で、代表選手の休養や負傷者を抱えていたチームもあった。

 これまでの過去2大会は日本チームが優勝を遂げてきた。そんな中でこのトーナメントの認知が広がり価値が上がってきたのか「他国の取り組む姿勢が変わってきた」というのは現場から多く聞こえてきた感想で、例年よりレベルが高いトーナメントだった。

 そんな中でワールドカップと同様に「フィジカルの強い相手にどう身体をぶつけながらフィニッシュするか」(宇都宮ブレックス・遠藤祐亮)という課題が出てきている。

 日本のバスケがレベルアップするには、国内だけでもがいても始まらない。競い合うアジア全体でレベルを上げていくことが急務だ。ワールドカップや今回のテリフィック12の結果を見ても、Bリーグは本格的にアジア戦略から行動を起こすときが来たのではないだろうか。

 アジア版バスケ・ユーロリーグ構想の実現を願ってやまない。
 

(「バスケットボールPRESS」小永吉陽子 = 文)