9月の代表ウィークにおいて、EURO2020予選グループJを戦うイタリアは、アルメニア、フィンランドとの2連戦で勝利した。これで予選は無傷の6連勝。親善試合を含めれば、7連勝中だ。一見すると、大した数字ではないようにも思われる。

 ただ、ロベルト・マンチーニ監督の下で再建を図る現在のアズーリにとっては、非常に重要な意味を持つ。イタリア代表が低迷していた近年では、縁のなかった成績だからだ。

 イタリアにとって国際Aマッチ7連勝は、16年前に遡る。ジョバンニ・トラパットーニ監督がチームを率いていた2003年のこと。アレッサンドロ・デル・ピエロ、ファビオ・カンナバーロ、そしてフランチェスコ・トッティらが主力だった頃の話だ。欧州選手権の予選で開幕から無敗というのも、13年前の2006年まで遡らないといけない。

 当時、代表監督を務めていたロベルト・ドナドーニは、地元ラジオ局のインタビューに答え、現在のイタリア代表についてこう答えている。

「現在の代表チームはすごく好きだ。プレーを積極的に仕掛けていくチームで、ちゃんと意味のあるポゼッションを仕掛けて相手にダメージを与えていく。そしてシュートも多い。アウェーでも相手を恐れずに積極的な試合をして、選手たちも成長している」

「美しく、強い代表になりつつある」

 好成績の要因は、W杯出場経験のあるボスニアや欧州選手権で優勝経験のあるギリシャなど、強豪が結果を出せてない状況も一助になっている。しかし、イタリア代表の何かが変わりつつあることは、成績だけでなくパフォーマンスからも伝わってくる。

 ロシアW杯出場を逃したイタリアは今、確かに変革への上昇気流に乗りつつあるのだ。「美しく、強い代表になりつつある。良い内容のサッカーをすれば楽しくなるし、やる気も高まってくる」と中核になったフェデリコ・ベルナルデスキは語る。

 一体イタリアは、何が変わったのだろうか。

「カテナチオ」はもういない。

 現在のイタリア代表の特徴は、ハイプレスとポゼッションを重視した攻撃的なチームであることだ。欧州予選では、どの相手に対しても60%近くのボールポゼッションを誇り、700本近いパスをつないだ試合もあった。

 イタリア代表と言えば、あえて相手にボールを渡してゴール前を固める「カテナチオ」のスタイルがファンの間にこびりついている。しかし、そんな姿は微塵も残っていない。DFラインは高い位置を保ち、ボールを支配して常に相手陣内でプレーしようという姿勢が板についているのだ。

 一方で、守備を疎かにしているわけではない。前方から激しくプレスをかけて、相手のパスコースを限定。中盤でボールを絡め取ったら、ハイテンポでパスを回していく流れがしっかり形になっている。4-2-3-1のシステムを好んで用いてきた今までの代表とは違い、マンチーニ監督が主に使うのは4-3-3。しかもセンターフォワードには本来は攻撃的MFのベルナルデスキを用いてボールキープ率を高めようとするなど、これまでの方法論とは違う取り組みを見せている。

サッリが率いたナポリのような。

 彷彿とさせるのは、マウリツィオ・サッリ監督(現ユベントス)が率いていたナポリの姿だ。中盤の底、レジスタとして攻撃の起点となるのは、ナポリ時代も中核となっていたジョルジーニョだ。そこに、パリ・サンジェルマンで優秀なパサーとして定評を確立したマルコ・ベッラッティが絡み、非常に高いボールポゼッションを演出している。

 それによって、相手にボールを渡さずチャンスを作りまくるサッカーに成功している。シュート数の割にゴール数が少ないとの指摘もあるが、チャンスに点を決めて勝てている。予選6試合でわずかに3失点、相手にチャンスを与えずに試合をコントロールできている様子は、数字も雄弁に物語る。

 攻撃的なサッカーへの切り替えはこれまでの前任者も、いやイタリアサッカー協会(FIGC)も試みてはいた。しかし、一度頓挫している。

 2010年から4年間代表を率いたチェーザレ・プランデッリ監督は「クアリタ(質)」を標語に掲げ、スペインをベンチマークとするポゼッションサッカーの構築を図った。その次のアントニオ・コンテ監督も、速攻主体のプレスサッカーを展開しながらも選手たちのメンタリティを変えようとしていた。

 もっとも、そうした潮流は長く続かず、2016年からチームを指揮したジャンピエロ・ベントゥーラ監督は、攻撃も守備も中途半端なチームを作り、ロシアW杯出場を逃してしまった。

 マンチーニは頓挫したプロジェクトを再び興し、形にできている。

代表デビュー組は驚異の18人。

 その秘訣は、若い世代の選手の発見と起用を根気よくやったことだ。

 フル代表はおろか、セリエAにも出場経験のなかった当時19歳のニコロ・ザニオーロを招集したかと思えば、「セリエAのクラブは若手選手の起用にもっと勇気を持つべきだ」と半ば挑発気味に提言を発する。さらには試合がなくても代表合宿の場を設け、選手を自分の手元に呼び寄せて観察することを徹底した。

 その結果、マンチーニが就任から1年少々の間に代表デビューさせた選手は18名だ。UEFAネーションズリーグの開催で親善試合の数は以前よりも少なくなったことを考えると、驚異的な数字である。抜擢された選手のなかにはAマッチデビューを果たすだけではなく、代表の主力として定着する者も現れた。

インテル移籍のバレッラ、小兵センシ。

 筆頭はニコロ・バレッラ。カリアリの下部組織出身で、年代別代表の常連となっていた彼は、2018年10月の親善試合ウクライナ戦でデビューするや主力の一角に完全定着した。ジェンナーロ・ガットゥーゾの全盛期を彷彿とさせる激しいプレスと、ゴールにも絡める攻撃センスの高さを両立した選手だ。代表の活躍でめきめきと評価を上げ、今年の夏にはインテルへステップアップを果たした。

 もう1人は、ステーファノ・センシ。リミニやチェゼーナの下部組織で育った小兵MFは、サッカー関係者の間では「ピルロの後継者になれるかもしれない」との評価を得ていた。2016年、若手の育成に定評のあるサッスオーロで出場機会を伸ばし、ゲームメイクだけでなくフィニッシュにも絡む多彩な選手へと成長した。マンチーニ監督はすぐ代表に呼び、今やベッラッティやバレッラと肩を並べるほどの存在感を発揮している。

 マンチーニ体制以前にフル代表デビューを果たしていたロレンツォ・ペッレグリーニ、フェデリコ・キエーザといった選手たちも、すっかり大事な戦力となっている。これらの若手は、各クラブでも当然主力として活躍している。若手選手が所属クラブでも代表でも主力として定着するのは、近年にはなかったことだ。

 プランデッリ監督が「クラブがイタリア人選手を使わないから、我々が育てている」と愚痴をこぼしていたことが思い出されるが、ようやく流れが変わったということだろう。

アリゴ・サッキが蒔いた種。

 マンチーニ監督が優れた選手を代表に呼べるようになる下地は、実は長年かけて作られたものだった。

 FIGCは2010年、アリゴ・サッキをスーパーバイザーとして招聘して、攻撃サッカーに見合うスカウトと育成が行われるよう、若年層の育成方針を全面的に見直した。その後、協会幹部との軋轢でサッキは辞任することになるが、蒔かれた種が今刈り取られている。バレッラもセンシも、キエーザもペッレグリーニも、新しい基準のなかで発見され、長年鍛えられた選手たちである。

「ロシアW杯出場を逃したチームを引き継いだとき、イタリアは他に選手がいないのではとも囁かれていた。でもちゃんと目を凝らしてみれば、イタリアは選手に事欠かないのが分かった。そこから幸運にも、若いチームを作り上げることができている」

 マンチーニ監督は、そう公言している。

 欧州12カ国で分散開催されるEURO2020の開幕戦の舞台はローマだ。

 そのときまでに素晴らしいチームを作り上げ、カタールW杯出場へつなげていくことが現在のイタリアの目標である。

(「欧州サッカーPRESS」神尾光臣 = 文)