「アウェイゴール、大きかったですね」

 試合終了後のミックスゾーン。誰もがそう感じたに違いない。

 9月17日、ACL準々決勝セカンドレグ。ホームに上海上港を迎えた浦和レッズは、39分に興梠慎三が先制弾を決め、60分に失点したが1−1で試合を終えた。上海でのファーストレグで2−2だったアウェイゴールの差で、浦和の準決勝進出が決定した。

「試合には勝てなかったけれど、いっしょに次のラウンドへ進めた。その喜びを分かちあえた」と途中出場の阿部勇樹が語った。

 出場機会が少なくなった今季、阿部のリーグ戦先発はわずか4試合。しかもそのすべての試合で敗れている。

 直近のC大阪戦では、82分に2度目の警告で退場処分。その後浦和は失点し、この試合でも敗れている。

 それだけにACL準決勝進出を決めたこの日は、与えられたタスクを達成できた、サポーターへの責任(ある種の約束)を果たしたという安堵感を味わっていたに違いない。

 埼玉スタジアムでの上海上港戦。浦和の突破条件は、負けないこと。かつ1−1までのドローで試合を終わらせることだった。

4日前の反省と、阿部の意思統一。

 4日前のC大阪戦、阿部の退場は確かにショッキングな出来事だったが、残り約10分で1−1という状況を考えれば、守って勝ち点1を拾う選択肢もあった。残留争いが見えてくるほど低迷している現状、勝ち点1の価値は小さくない。リスクを犯さず、守ることに重点を置くのだろうと思っていた。

 しかし浦和は、あっという間に失点を喫した。チームとして「意思統一」ができていたかという疑問が残る試合だった。

 そして、上海上港戦。60分に追いつかれたあと、大槻毅監督はまず78分にエヴェルトンに代えて柴戸海を投入。続く83分、関根貴大と交代で阿部をピッチへ送り出した。守備的MFも含めて、守備の選手がピッチ上で集まる。

「こういう展開になるというのはイメージしていた。ボールに対して誰が守備に行くかが曖昧になる危険性があったので、とにかく後ろからしゃべらなくちゃ、ダメだから」

みんなで守り、走る姿を見せる。

 ピッチへ入った直後だけでなく、ボールが止まるたびに阿部は周囲の選手に声をかける。時にはそばによって、手振りを交えながら説明もしていた。

「今日はみんなで守り切る、守り切ろうという共通意識があった。だからこそ守り切れた。リーグ戦では果たしてそこまでできていたか? と思います。しゃべりの質、回数が少なかった部分もあったかもしれない。

 今日の試合が終わってスタジアムをまわったとき、この熱さを天皇杯やリーグ戦、ACLに持っていかなくちゃいけないと改めて強く感じました。そういう雰囲気を作ってくれたサポーターの方もそうだし、それに応えようとした選手の戦いもそう。ここは埼玉スタジアムだから。

 2017年、ズラタンの『浦和レッズの本当の姿をお見せしよう』という発言があった。(沈黙)毎試合、埼玉スタジアムでそういうプレーを果たしてできているのかと言われたら、すべてとは言えないかもしれない。でも今日は体を張って、みんなで守り、走るという姿を見せられたんじゃないかと思う。これをこれからも、見せられるようにしていかなくちゃいけない。浦和はそういうチームだし、クラブだから。

 どのチームでもそうだと思うけれど、結果が出ない試合が続くと、悪い雰囲気を吹っ切れない感じがあると思う。でも、今日のことを吹っ切れるきっかけにしなくちゃいけない」

 そう話す阿部からは「浦和レッズの一員」としての強い責任感が伝わってきた。

浦和は口論を恐れないチームだ。

 浦和レッズの本当の姿とはなにか? きっとそれは、懸命に闘うということだ。それは相手との戦いだけじゃない。自分自身との戦いであり、チーム内での戦いだってあるだろう。

 長谷部誠が三都主アレサンドロと口論し、田中マルクス闘莉王がロブソン・ポンテと言い合い、そして勝利する浦和をずっと見てきた。

 勝つために何が必要なのかを選手が真剣に考えるからこそ、意見もぶつかる。味方を信じているからこそ「もっとやれるだろう」と要求し合う。

 もちろん、サポーターから厳しい罵声を受けることもある。「なにやってんだよ!」という叱責は、期待の表れだから、それが力になった。そうやって、浦和はタイトル獲得への階段を上ってきた。

埼玉スタジアムの熱さこそが核。

 そんなチームに加入し、ACLでの優勝も経験した阿部。2017年には2度目のACLタイトルを手にしている。

 この10年で選手たちの顔ぶれも大きく変わったし、チームの指揮官も変わり、スタイルにも変化が生まれた。それでも結局変わらないのは、「埼玉スタジアムの熱さ」だと阿部は感じたのだろう。

 だからこそ自分たちは、それに恥じない戦いを見せる責任があると言っているように聞こえた。

「攻撃でも守備でも、恐れずにチャレンジできるのは仲間のカバーがあるから。誰かのチャレンジがうまくいかなかったら、別の誰かがそれをカバーする。そういうシンプルなことを忘れずに、大切にやっていきたい。難しく考えすぎても、ね。

 もちろんみんなわかっているんだけれど、いろいろ考えてしまうし、選手それぞれに考えがある中で戦っているんだと思うから」

 チャレンジ・アンド・カバー。その姿勢こそがチームの一体感の原点となるのだろう。

「やっぱり結果がすべてだから」

 今、3度目のACL獲得を目指す阿部は、チームに何をもたらしたいと考えているのか。

「どんな試合内容であっても、やっぱり結果がすべてだから。内容がどんなに悪かろうが、1点でも多く取れれば、勝ち。その勝利のためには、『どんな手を使ってでも勝つ』くらいの気持ちを、もっともっと出していかなくちゃいけない。

 サッカーは簡単には勝てないのは、誰もが感じていること。でもだからこそ、勝利のために、ひとつひとつのところで妥協せずにやっていきたい。チャンレジとカバー、そして楽しむことを忘れずに。もちろん、結果がすべてというのが大前提で」

残留争いに巻き込まれたリーグ戦も。

 しかし浦和の現状は厳しい。

 快調なACLとは裏腹に、リーグ戦では15位にまで順位を下げている。5チームが同勝ち点で並ぶ混戦とはいえ、入れ替え戦となる16位のサガン鳥栖までは勝ち点4差でしかない。ACLでの快進撃をきっかけに、リーグ戦でも巻き返したいところだろう。しかし、阿部は冷静に繰り返した。

「きっかけになればいいというよりも、きっかけにしなくちゃいけないし、繋げなくちゃいけない。スタジアムに足を運んでくれた人を笑顔で帰らせることが、なかなかできていない。結果が出ないとお互いがしかめ面になっちゃうからね。今日は本当によかった。でも、今日はもう終わりだから」

 ロッカールームから最後に姿を見せた阿部は、珍しく10分近く語り続けた。記者の質問に答えるというよりも、自分に言い聞かせるような言葉には彼の想いがあふれていた。

 埼玉スタジアムが完成して以来、浦和レッズはビッグクラブとしての道を歩んできた。しかし、このスタジアムが見てきたのは歓喜ばかりではない。落胆や苦悩、怒り、涙といったネガティブな空気に覆われる機会のほうが多かったかもしれない。

 けれど、ここはまさに浦和レッズの家だ。どんなときでも帰る場所、チームにとっても、選手にとっても、そしてサポーターにとっても。だからこそ、責任がある。

 聖地・埼玉スタジアムに恥じない戦いとはなにか?

 阿部の言葉が今あらためてそれを問いかけてくれた。

(「JリーグPRESS」寺野典子 = 文)