<レスリング:東京五輪予選兼世界選手権>◇第4日◇17日◇カザフスタン・ヌルスルタン

【ヌルスルタン=阿部健吾】「東京オリンピック(五輪)の申し子」が宿命の切符をつかんだ。女子53キロ級で向田真優(22=至学館大)が18日の決勝に進出してメダルを確定させ、日本協会の選考基準を満たして五輪代表に決まった。

かつて吉田沙保里さんが君臨した階級の後継者としても晴れ舞台に向かう。50キロ級の入江ゆき(27)は準々決勝で敗退し、五輪出場枠を逃した。男子グレコローマンスタイル60キロ級の文田健一郎(23)は17年大会59キロ級以来2年ぶりに世界一に輝いた。

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あえて喜びを必死に抑え込むような姿は、強くなった心を感じさせた。手堅く準決勝を勝ち、東京行きを決めても、控えめに右拳を上げただけ。「内定したのはうれしいですけど、明日が越えないといけないところ。しっかり優勝して東京五輪につなげたい」。その目は今日18日の決勝を見据えていた。

この日の3試合は6-1、7-0、4-0。隙を見せて失点していた姿はなく、「試合は結構固まっているシーンが多かったですけど、絶対に勝ちたいという気持ちで戦えた」。ギリシャ選手との準決勝では、最後は相手に頭を押さえ込まれながら耐え抜いた。勝ってもゆるまない気持ちに、精神力の強さはあった。

「東京五輪の申し子」は悩み抜く日々を越え、成長した。中1で日本オリンピック委員会運営の寄宿制の選手養成所のエリートアカデミーに入校。12年には東京五輪・パラリンピックの招致会見に登壇した。14年にはユース五輪も制覇。ただ、その後の道は平らではなかった。土壇場での勝負弱さは克服できなかった。

決断したのは「越境」だった。6年間過ごしたアカデミーを離れ、名門の至学館大に進学。女子レスリング界では初のケースだった。「足りないことを学べる」。同大の谷岡学長からは「操られる人形はやめよう。糸を切りなさい」と諭された。才能ゆえコーチの指示は全うできるが、逆に依存してしまう性質を突かれた。自立を肝に銘じ、4年生のいまは主将も務める。周囲を見渡し考えることで、頼る癖も消えていった。

吉田さんは「一発で取ってこい」と送り出してくれた。達成したが、まだ戦いはある。「吉田さんはすごいですが、53キロでも金メダルを取って、向田もいるというのも見せれるようにがんばりたい」。その言葉が強く響いた。