9月12日から、トロント郊外オークビルで開催されたオータムクラシックで、紀平梨花が初優勝を飾り、順調なシーズンスタートをきった。

 SPでは出だしで完璧な3アクセルをきめ、3フリップ+3トウループ、そして3ループとノーミスで滑り切り、78.18で2位のエフゲニア・メドベデワに3ポイントほどの差をつけてトップに立った。

 特に加点のついた冒頭のアクセルについて、「アクセルは思い通りのジャンプができました」と笑顔を見せた。新プログラムは、シェイリーン・ボーン振付による『Breakfast in Baghdad』。夏にアイスショーで披露したが、最初から最後までボーカルとギターの小刻みなリズムが続くジャズナンバーで、スケートを合わせるには難曲である。

「常に動き続けていて、すごく息切れがするプログラム。はじめて教えてもらったときはジャンプを入れなくても体力がもたないくらいだった」と告白した紀平。今は慣れてきて、体力がついたことを実感したという。

本番で底力を見せた紀平。

 フリーの日の朝、練習リンクで行われた公式練習では珍しくジャンプミスが目立ち、転倒もあった。夕方の本番でも6分間ウォームアップでは3アクセルに苦戦し、納得がいかない表情のままいったん氷から上がった紀平。

 だが、そこから底力を見せた。

 新フリーは、トム・ディクソン振付、世界平和をテーマにしたという『インターナショナル・エンジェル・オブ・ピース』。冒頭で3アクセル+2トウループをきめ、2度目の3アクセルは回転不足の判定を受けたものの、後半の3フリップ+3トウループなど最後まで大きなミスなく滑り切り、145.98を獲得。総合224.16でトップを保った。

不調の原因は朝の練習リンクの氷。

「6分間(ウォームアップ)でアクセルがはまらなかったので、どう跳ぶかということをすごく集中していた。集中しないと跳べない状況だった」と演技後、気持ちを語った。

 不調の原因はやはり朝の練習リンクの氷が、本番のリンクと極端に違っていて調子が狂ったのだという。夏の間、練習では成功していた4回転にフリーで挑むのも、今回は断念した。

「朝練がサブリンクで、感覚が全然違っていてこれは4回転どころじゃないなと思った。寒くて硬くて、食い込むような氷だった。今回(本番リンク)の氷がさらさらしていて、スピード感が違っていたので、(ジャンプのタイミングを)合わせるのがギリギリでした」と告白した。だが今季のうちに試合で4回転に挑戦したいという気持ちは、薄れていない。

「次の試合までに本気で4回転入れるつもりで練習して、他(のジャンプ)をまず安定させ、そこで不安がなければ4回転を入れようと確実に思えると思う。ほかを完璧に持っていって、4回転を最後に練習するということを心掛けたいです」とすでに気持ちは次へと向いている。

「基礎にかえることも重要」と濱田コーチ。

 今シーズン、ロシアの4回転を跳ぶジュニアたちがシニアGP大会デビューをする。それによってまたシニア女子のトップの顔ぶれがどのように変わっていくか、誰もが興味深く見守っている。

 そんな中で、基礎に立ち返ることも大事と強調するのは濱田美栄コーチである。

 夏の間のトレーニングはどこに重点をおいたのかと訊ねると、濱田コーチはこう答えた。

ベテラン勢の武器は全体のクオリティの高さ。

「4回転をすごく意識していたけど、もう少し基本にかえったほうがいい。色んな難しいことをいっぱい練習するんだけど、ベーシックなことをいろいろやったほうが全体がきれいになる。基本的なただのスケーティング、ただのクロスオーバー、基本に立ち返って単純な練習が必要じゃないかな、と思っています」

 確かにジュニアから上がってくる若手たちがジャンプの難易度で勝負をするのなら、受けてたつベテラン勢の最大の武器は全体のクオリティの高さになる。シニア2年目になる紀平にとって、すでにある高いジャンプの能力と共に全体の質をさらに高めることは大きなメリットになるだろう。

2位のメドベデワは『SAYURI』に挑戦。

 SPをほぼノーミスできめて2位に立ったエフゲニア・メドベデワは、フリーでは、着物をイメージしたコスチュームをまとって映画のサウンドトラック『SAYURI』に挑んだ。

「何年か前に映画(『SAYURI』)を見て、滑ってみたいと思ったけれど当時の私にはまだ精神的にその準備ができていなかった。今なら準備ができたと思って、今年のフリーに選んだの」と本人が語った思い入れのあるプログラムだという。

 回転不足や不正エッジなど小さなミスはいくつかあったが、最後まで流れを途切れさせることなく滑り切った。フリー142.29、総合217.43で昨年に続いて2位という最終順位。だが同じ2位でも、昨年とは意味が違うという。

「(カナダに移住したばかりの)昨シーズンと今の私とは、まったく気持ちが違います。新しい環境に慣れて、リンクにもコーチにも慣れて、以前より自信もつきました」

 そう本人が語ったように、数日前にロシアのテストスケートから戻ったばかりとは思えない、コンディションの良さだった。

「疲れている暇なんてありません。やることが多すぎて」と笑顔を見せた。

 3位には韓国のイム・ウンスがSP5位から上がり、SP3位だったアメリカのカレン・チェンは総合4位だった。
 

(「フィギュアスケート、氷上の華」田村明子 = 文)