強く、激しく、美しく。

 先日、経済誌『Forbes JAPAN』は「日本発『世界を変える30歳未満』30人」に形の空手家・清水希容(ミキハウス)を選出した。

 スポーツ部門では平野歩夢や八村塁らが選ばれているが、清水は同じカテゴリーではなく将棋棋士の藤井聡太らとともにDOU(道)部門で受賞している。スポーツである一方で武道として存在する空手道を追求する武道家としてこれほど名誉なことはあるまい。

 見ての通り、演武中の清水はキリリとした宝塚の男役のような容姿で見る者を引きつける。その一方で舞台を下りれば“空手界の綾瀬はるか”と言われるほどおっとりとした天然系の女性に変身する。そのギャップも魅力なのか。

世界選手権で2度優勝の実力派。

 だからといって人気先行型ではない。全日本選手権は現在6連覇中で、2年に一度開催される世界選手権でも2度優勝しているれっきとした実力派だ。

 彼女が専門とする形は四方に対戦相手がいることを想定した上で次々と技を繰り出し、その正確さや力強さを競う。空手といえば組手をイメージする人も多いが、実戦性と芸術的な要素も内包したこのスタイルは一部の国では組手を凌ぐほどの人気を誇る。

 2020年の東京オリンピックで初めて五輪種目になった空手は組手とともに形も採用され、男女とも金メダル獲得が期待されている。女子では清水が最有力候補だが、昨年の世界選手権は準優勝に終わる。V3の夢を断ち切ったのはサンドラ・サンチェス(スペイン)。パワーが持ち味の形で、30歳を過ぎてから台頭してきたベテランだ。

 世界選手権後の国際大会でも清水とサンドラは勝ったり負けたり。“空手界のチャンピオンズリーグ”といわれる今年のKARATE1プレミアリーグではパリ大会で清水が勝ったが、続くドバイ大会はサンドラが雪辱した。その後のラバト大会では清水が盛り返したが、上海大会ではサンドラが再び勝ち名乗りをあげた。

決勝はまたも清水とサンドラ。

「ラバト大会以降はいずれの大会も1点を切る点数差だった。『そろそろタイゲーム(引き分け)になるのかな? でも(地元の)東京ではちょっと避けたいよね』という話をコーチともしていたんですが……」

 避けたいことは現実となる。9月6~8日、日本武道館で行なわれた『KARATE1プレミアリーグ東京』。その第3日の実施された女子個人形決勝で清水とサンドラは当たり前のように顔を合わせた。

 約100種類あるリストの中からふたりが選んだ形は奇しくも「チャタンヤラクーサンクー」。昨年の世界選手権以来のチャタンヤラ対決となったが、清水は演武中に痛恨のミスを犯してしまったと打ち明ける。

「(先に舞台に上がった選手から)決勝戦の舞台は跳ねることは聞いていた。案の定、ポーンと跳ねてしまって、中盤そのせいでバランスを崩してしまった」

2度の演武、場内は大きくどよめいた。

 それでも、7名の審判が出したスコアは27.68と同点だった。進行のミスで一度清水の勝利がアナウンスされると、サンドラは「WHY?」のポーズ。案の定、清水の勝利はすぐ取り消され、規定により再演武となった。決勝の演武が2度見られることがわかると、場内は大きくどよめいた。

 ルールでひとつの大会では全て違う形を披露しなければならない。清水は今年4~5月から練習し始めたばかりの「オヤドマリノパッサイ」を選択した。

「これまでに2度演武している形です。でも(大会の)最初の方で使っているので、たぶんみんな見ていないと思います」

 東京オリンピックで1回戦から決勝まで勝ち抜くためには4つの形を用意しなければならない。すでに3つは用意しているが、残りのひとつをどうするか思案中だった。その候補のひとつがこの形だった。

「無心で演武したのが良かった」

「もうやるしかない、と。ほとんどやったことのない形だったけど、とりあえず思い切りやろうと思いました」

 あれこれ考えている余裕はなかった。それが功を奏した。0.26という僅差ながら、審判は清水の勝利を支持した。

「無心で演武したのが良かったんだと思います。そこが審判の人たちに伝わったんだと思います」

 これまで僅差でサンドラに負ける要因となった息吹や叩きの音(演武の際、道衣を叩いて音を出してしまうこと)にも注意を払った。

「決勝は2試合ともしっかりと息吹も叩きも確実に鳴らないように意識していました」

東京五輪は同じ日本武道館で。

 立て続けに2度も決勝を行なったことも大きな収穫だったと振り返る。

「オリンピックの練習を2度もさせてもらったようなものだと思います。オリンピックになると緊張感も違ってくる。どんな状況になっても平常心を保てるように、これからもいろいろな経験を積みながらやっていきたい」

 東京オリンピックは同じ日本武道館で行なわれる。清水は“武道の聖地”といわれるこの会場が気に入っている。

「サンドラは良きライバル。これから東京まで勝ったり負けたりを繰り返すんだと思う」

 もう一度、ふたりは武道の聖地で相対するのか。

(「オリンピックPRESS」布施鋼治 = 文)