勝てる試合を確実に勝てるようになった。優勝へのカウントダウンが始まった巨人には、その闘いが明らかに変わったターニングポイントがある。

 それは原辰徳監督が監督通算1000勝をマークした7月30日の広島戦だった。

 この試合でルビー・デラロサ投手が3点リードの9回にクローザーとして初登板。1回を1安打2奪三振で抑えて1つ目のセーブを記録した。実はその後、チームはまさかの6連敗を喫して2位のDeNAに0.5ゲーム差、3位の広島に1ゲーム差まで迫られる大ピンチを迎えることになるのだが、この間も終盤の競り負けは8月3日のDeNA戦で同点の8回に中川皓太投手が決勝点を奪われた1試合だけなのである。

 要はその他の5敗は打線が抑え込まれ、先発が先に点を取られて序盤からリードを許して星を落とす。言わば負けるべくして負けた試合だったのである。連敗の重みはあった。それでも負け方そのものは、ある意味では諦めのつくものだったともいえる。そしてこの7月30日を転機に、巨人の負け方の質が大きく変わっていったのである。

「いわゆる勝利の方程式を作る」

「僕が最初に投手コーチになった時に考えたことは、勝てる試合をきちっと勝ち切ること。そういう投手陣を作ることで、要はいわゆる勝利の方程式を作ることだったんです」

 こう語るのは宮本和知投手総合コーチだったが、現実は厳しかった。

 4月の半ば過ぎまではライアン・クック投手がクローザーに収まり最後の投手は固まっていたが、中継ぎ陣が不安定で3、4月の10敗の内、救援陣での黒星が4つを占めた。しかも4月の終わりにはクックが肘の故障で戦線離脱し、クローザーも日替わりで四苦八苦する時期もあった。5月8日のDeNA戦で中川皓太投手が今季初セーブを挙げると、その後は守護神だけはなんとか固まったが、問題はセットアッパーを含めた中継ぎ陣だ。

前半戦は先発陣が何とか踏ん張った。

 右では澤村拓一に田原誠次、宮國椋丞、野上亮磨、左の吉川光夫、戸根千明に若い大江竜聖らの各投手が次々とマウンドに上がったが、なかなかきちっとした形が出来上がらないままに前半戦が過ぎていった。

 それでもチームがある程度の成績を確保できたのは先発の山口俊投手がオールスターまでの前半戦だけで9勝2敗と安定した成績を残し、不調と言われた菅野智之投手も実は8勝4敗と先発の両輪がきっちりと仕事をしたこと。打線が好調で先に点を取って、先発が踏ん張って何とか守護神の中川に繋ぐパターンだけは確保されていたからだった。

 ただ、いずれにしても宮本コーチが考えていた中継ぎ陣、セットアッパーを含めた勝利の方程式は前半戦ではまだまだ確立できずに、原監督も「8月くらいに形ができればいい」と語っていたほどである。

中川だけでは不安だった。

 そのリリーフ陣に劇的変化をもたらしたのが、6月末のデラロサの加入だった。

「やっぱりデラロサを獲得したことはメチャクチャ大きかったですね」

 宮本コーチは言う。

「苦しいときに中川が抑えで頑張ってくれていた。ただ、スタミナ面を含めてシーズンを通して彼が持つかどうかにはちょっと不安もあった。そこでもう1人、獲って欲しいということでデラロサの獲得が決まったんです」

 今季のリリーフ陣が喫した黒星は9月12日時点で21ある。実はこれはリリーフ崩壊が指摘されていた昨年の20敗をすでに上回るハイペースだ。ただ、月別の内訳をみると前述した開幕から4月までの5敗に、その後も5月が3敗、6月が4敗で7月が6敗と、この時点ですでに18敗を喫していた。

リリーフ敗戦が3つと劇的に減少。

 一方で、7月30日にデラロサがクローザーとして起動してから8、9月のほぼ1カ月半の間で、リリーフ敗戦はわずか3つと劇的な減少を遂げているのである。

 デラロサはMAX160キロも速いが、真っ直ぐの平均155.4キロは現在のNPB所属投手では最速(DELTA社データサイト、以下同)。安定したストレートとスライダー、チェンジアップを武器に奪三振率から与四球率を引いたK-B%(投手の制球力の高さの指標)も阪神のピアース・ジョンソン投手の35.0に次ぐリーグ2位(26.7)と三振を奪えるパワーと制球力を備えたクローザー向きの投手なのだ。

「もちろん球も速くてピッチャーとしての力は文句ない」

 宮本コーチが強調するのはそれだけではない。

「野球に対する考え方がしっかりしているし、性格も非常にいい。練習では重い球を使ってボールの回転をしっかり把握したり、独特のルーティンを持って色々と考えている。しかもそれを若い選手に教えてくれたり、マウンドだけでなくブルペンでの存在感も非常に大きくなっている」

中継ぎのピースが見事にハマった。

 そうしてクローザーが確立できたことで、懸案だった中継ぎ陣もしっかり仕事ができる体制が整った。

 その中継ぎのピースにはセットアッパーの中川に加えて左腕の高木京介投手、さらに過去には先発として実績のある左の田口麗斗投手とベテラン右腕の大竹寛投手が配され、それが見事にハマったのである。

「田口はボールに力がある。中継ぎやリリーフとしての実績ではもっと上の投手もいるけど、我々がしっかりとブルペンで見て、実績ではなく力で田口をリリーフのキーマンとして使っていこうと決めた。大竹にしてもあのシュートは短いイニングだとなかなか打てないですよ。だったら今の投手構成だと先発ではなく中継ぎで力を存分に発揮してくれる方がいいチームにとってはベストだと思いますね」

 こう語るのは水野雄仁投手コーチだ。

「いまは中継ぎと抑えの方が大事なくらい」

 実は9月3日の中日戦登板後にC.C.メルセデス投手の一軍登録を抹消したが、その翌日に菅野が腰の故障で戦線離脱するアクシデントがあった。2人の抹消で先発投手の駒が足りなくなる緊急事態があったのだ。

「一番簡単なのは田口を戻すことだったかもしれないですけど、それは絶対に考えなかった。昔は中継ぎに“降格”と言われたけど、いまは中継ぎと抑えの方が大事なくらい。中継ぎとしての田口の存在を考えたら、絶対に外せないからね」

 そのピンチに9月8日のヤクルト戦が台風で中止になる“神風”もあった。しかも首位攻防戦と言われた10日のDeNA戦では先発のクックから高木、田口に大竹、中川、デラロサと繋ぐ“ブルペンデー”で4対2と完勝。この勝利でマジックを再点灯させたのである。

勝利の方程式を築く心意気。

「今はいい緊張感の中でやれている。今までなかった経験ができているし、マウンドでは絶対に落とせないという気持ち。それがいい結果につながっていると思う。これからもチームの勝ちに関わっていきたい」

 先発への想いがないわけではない。しかしその試合でも1回1/3を4人で抑えた田口は、いまは勝利の方程式を築く心意気をこう口にする。

 そして9月12日の首位攻防3連戦の最後のDeNA戦ではこんな場面もあった。

 田口は3点差の6回から今季48試合目の登板で2イニングを6人で完全に抑えると、8回には大竹が6月21日の今季一軍初登板から28試合目のマウンドで1回をぴしゃりと抑えた。そして8回には丸佳浩外野手の2ランで5点差として、セーブシチュエーションではなくなったが9回のマウンドにはデラロサが上がった。

 その背景を宮本コーチはこう説明した。

「監督は違うピッチャーでいこうと言ったんだけどね。この試合だけは絶対に落とせないから、デラロサでいきましょうと言ったんです。何よりセーブがつかなくなっても、本人が行く気だった。そういう選手なんです」

 7月30日に記録された1つのセーブ。それが5年ぶりの覇権奪回への道標だった。
 
 
 

(「プロ野球亭日乗」鷲田康 = 文)