下にいるのは同じアジアの代表であるフィリピンだけ。

 順位決定戦も含めて、5戦全敗――。

 史上最強の呼び声高かった日本代表だが、2019年の中国W杯に参加した32カ国のなかで、31位の成績に終わった。

「W杯出場を自力で決めて、その他にも日本バスケ界に良いことがいろいろと起きているなかで、今まで以上の期待を受けながら世界に来たわけですが、終わってみればこの結果が現状。コテンパンにやられ、現実を見せつけられたと感じます」

 それが今大会でPG(ポイントガード)のポジションに本格的に取り組むようになった田中大貴の言葉だ。

 グループリーグの最初の3試合を終えたあと、八村塁が膝の痛みや疲労等を理由に、代表を離脱したことだけに、その原因を求めるのはもちろん正しくない。

「全てのジャンルにおいて力の差」

 課題はいくらでも挙げられる。

 これまでの日本が多く点数をとっていたアーリーピックからの攻撃を極端に制限し、攻撃のペースを落とすというフリオ・ラマスHC(ヘッドコーチ)の方針は正しかったのか。

 その指示によって一気に積極性まで失うことになったのは、選手とHCの間に、日本人とアルゼンチン人による認識の違いがあるからではないか。

 攻撃のペースを落とすかわりに、遅攻であるハーフコートのセットオフェンスで、八村など特定の選手に依存しすぎてしまったのはなぜなのか。

 とにかくインサイドを守るという方針が妥当だったのかどうか。その策を見透かされ、キックアウト(インサイドからアウトサイドに展開すること)であまりに多くの3Pシュートをフリーで打たれた現実と向き合うべきだったのではないか。

 再三にわたって指摘されたボディコンタクトの問題をどうするのか。

「全てのジャンルにおいて力の差を感じたのですが、ゴール下のコンタクトのところだったり、最初からガツガツと当たったことが、ボディブローのように最後に効いてきて(良いプレーができなくなって)しまったのは僕たちの方だった。40分間通してハードに戦えなかったことが、少しずつ点差を離されてしまった原因だと思います」

 今大会最後のモンテネグロ戦の後に、馬場雄大はそう語った。彼はBリーグ所属の代表選手のなかでは屈指のフィジカルを誇っている。そんな彼でも、世界との間には明確な差があった。

 これは、今大会を通じて言われてきたことでもある。彼らの日常であるBリーグの判定基準も考えないといけないし、選手の意識だけではなく、HCの意識もまた変えていく必要があるのかもしれない。

日本と似た状況で、反応が大きく違う国。

 同時に、単純な身体の強さ、いわゆるフィジカルの差を言い訳にしてきたことを認めないといけない。渡邊雄太が指摘したようなコンタクトをする際の意識=メンタル面で改善していける部分に取り組むべきだ。

 篠山竜青が指摘したような、身体をあてるタイミングや方法などのテクニックの部分でコンタクトにおける不利を克服する努力も必要だろう。

 とにかく、この大会で惨憺たる成績に終わった日本には、やらなければいけないことが山積している。

 ただ、こんな状況でも立ち止まって考えたいことがある。

 日本と似たような状況にありながら、社会の反応が大きく違う国を見てみよう。

「今回のメンバーは我々の歴史のなかで最も充実して、才能あるメンバーであり、メダル獲得について公の場で話題になるのも当然なことだ」

 これは今大会に臨む日本代表についてのコメントではない。

 かつて日本のBリーグ設立に向けたタスクフォースの一員として川淵三郎とともに奮闘したインゴ・ヴァイス――ドイツのバスケットボール協会会長が、今大会前にドイツ代表チームを評した言葉である。

 ドイツは、「ユーロバスケ」の愛称で知られるヨーロッパ選手権の2021年大会(2年後)の開催国でもある。

ドイツは惨敗に対して怒りが渦巻いている。

 日本が来年の自国開催のオリンピックに向けて強化を進めているように、彼らも2年後に向けたチームの強化を進めていた。

 NBAで歴代総得点6位の成績を残したダーク・ノビツキーが引退したとはいえ、オクラホマ・サンダーに所属するデニス・シュレーダーをはじめとしたNBAプレーヤーも育ってきた。チーム全体を見れば、そのクオリティーは上がったとみられていた。

 にもかかわらず、今大会の彼らは18位に終わった。ドイツ代表のW杯史上最低の成績だった。

 だから、ヴァイス会長は怒りをあらわにした。

「2021年にはユーロバスケを自分たちの国で開催できるというのに、これでは誰も我々に期待しないじゃないか!」

 この大会を総括した、ドイツの『WAZ』紙もこう伝えている。

「過去最悪のドイツ代表だ。とても、とても、失望している」

期待しているからこそ、怒る。

 ドイツのバスケットボールの人気は、室内競技としてはハンドボールに負けているし、プロスポーツとしてもサッカーには膨大な差をつけられている。

 代表チームの人気や注目度は、現時点では日本の方がドイツをはるかに上回っている。

 ただそんな国であっても、代表チームの成績に対する失望の大きさは日本とは比べものにならない。

 彼らはなぜ、怒りを露わにするのか。答えはシンプルだ。

 代表チームに期待しているから。自国のバスケットボールの発展を本気で願っているからだ。

 それに比べて、日本はどうだろうか?

 アメリカと同じ厳しいグループに割り振られたから、厳しい結果になるのは仕方がない。長らく国際舞台から離れていたのだからやむを得ない。W杯に出られたことを喜ばないといけない。順位決定戦で八村と、骨折したキャプテンの篠山がいれば違う結果になっていたはず……。

 そんな空気で良いのだろうか。

「代表としてふさわしくないプレー」

 思い出してほしい。ニュージーランド相手に集中力を欠いた戦いを繰り広げ、30点差という大差で敗れた後のこと。渡邊は悲壮感をにじませながら、こう話した。

「このままでは日本に帰れないです。応援してくださっている方がたくさんいるなかで、代表合宿で一緒にやってきた最後にメンバーから落ちた選手がいるなかで、最後に選ばれた12人としてふさわしくないというか、絶対にやってはいけない試合でした」

 最終戦となったモンテネグロとの試合で34得点、9リバウンドと獅子奮迅の活躍を見せたあとも、渡邊はこう振り返っている。

「ニュージーランド戦が終わったときに、正直、日本代表のユニフォームを着る資格がないプレーをしたと感じました。チームとしても、代表として本当にふさわしくないプレーをしてしまいました。あの試合の後、自分自身に対して怒りが凄くわきあがってきました」

 馬場だってそうだ。

「僕らが勝っていたところは1つもないと思っていて。フィジカルもそうですし、外角のシュートの確率も、リバウンドもそうですし、本当に現実を見せつけられたというか……。

 どこかに浮ついた気持ちがあったのかもしれないですけど、もう一度足元をみて、この1年間、本当に死に物狂いでやらないといけないなというのはすごく強く感じました」

 それだけの覚悟と決意をしている選手たちに、今大会の結果と内容で、よく頑張ったと称えることほどリスペクトを欠く行為はない。今の彼らを称えるのは、彼らに、日本のバスケットボールに、期待していないと表明するのと同じことだ。

ここで悔しがらなければダメになる。

 むしろ、大きな期待を寄せたメディアやファンこそ、つきつけられた現実を前に、本気で悔しがらないといけない。

 ここで悔しがらなければ、「バスケットボールに関わる者たちはこの程度で満足するのだ」と、近年関心を持ち始めた人たちもまた、すっと引いていくことになる。そして何より、将来の日本代表を目指す若い人たちにとっても、代表はその程度の存在と考えさせてしまうことになる。

 今大会で目の当たりにしたボディコンタクトの課題ひとつとっても、馬場のような選手であれば「死に物狂いで」改善しようとするはずだ。

 彼らが止まってしまいそうになった時に、周囲の厳しい目が選手たちの背中を押す。

 バスケットボールをプレーする者だけではなく、関わるものすべてが厳しい目で見て、さらなるレベルアップを本気で期待することが、日本のバスケのレベルを引き上げてくれる。

 それだけの厳しい目があるからこそ、代表チームが本当に素晴らしい戦いや結果を残したときに、称える声は説得力や重みを持つのである。

 関わる者たちすべてが、この状況を変えないといけないという危機感を持つこと。課題が山積している日本代表が世界に近づくための一歩はそうやって踏み出されていくのである。

(「バスケットボールPRESS」ミムラユウスケ = 文)