開幕戦がホームでの黒星と、オリンピック・マルセイユ(以下、OM)にとって2019-20シーズンは最悪のスタートとなった。その後、調子を上げて現在(第4節終了時)は5位のリヨンと同勝ち点の8位まで順位を上げたとはいえ、今季のOMに関しては開幕前から期待よりも不安の方が上回っていた。

 名門マルセイユでいったい何が起こっているのか。少々時間は遡るが、フランス・フットボール誌7月23日発売号でパトリック・ソウデン記者が興味深い内容をレポートしている。

監修:田村修一

心配なんだ。この沈黙と無関心は。

 開幕前のマルセイユの街は、奇妙な雰囲気に包まれていた。いつもであれば、期待と不安が混じりあった躁状態に街全体が覆われる。ところが今季に限っては、どこも沈黙に支配されていた。

「マルセイユの人々がOMについて語らない」のは、それだけで異常であるとジェラール・ジリ(1980年代末から90年代にかけOMの監督を3度務めた。クラブの黄金時代をよく知る人物)は言う。

「だからこそ心配なんだ。この沈黙と無関心は……」

 クラブは昨シーズンに罵声を浴びた選手たちと共に新たなスタートを迎える。OMは常に新しさを求めてきたクラブであるのに、人々は現状にときめきを感じてはいない。

 もちろん財政面の難しさを彼らは理解しているが、疑念を抱くのはジャックアンリ・エイロー会長が提示した「チャンピオンズプロジェクト」、いわゆる「サンチュールプロジェクト」に対してである。

 エイローは、野望の実現には時間が必要であると説いた。

 すなわちUEFAとの間で合意した4年後のファイナンシャル・フェアプレーの実現――チャンピオンズリーグの改革が行われる2024年までにクラブの抱える負債(2018年は8000万ユーロの赤字を計上し、今年も同等額が見込まれる)を解消するために、今は選手を売ることはあっても、戦力補強に大金を投じる余裕はない。そこは我慢すべきであると。

停滞中に壮大な構想を出されても。

 ジリ同様マルセイユに生まれ、選手としても監督としてもOMで活躍したジョゼ・アニゴも不安を募らせる。

「マルセイユの人間は忍耐強くはない。育成や後期育成といった議論は彼らの好みではない。ここで説得力を持つのは結果だけで、すべては結果にかかっている。結果さえ良ければ平穏でいられるが、そうでなければ完全にノックアウトだ。それにうまくいっているときでさえ、つつがなくやっていくのは簡単ではないのに、状況が複雑になったらどうなるか想像できるだろう。

 クラブ首脳たちが、ここ数シーズンの成績の安定(5位、4位、5位)を強調するのはよくわかる。しかしずっと表彰台(トップ3)を逃し続けているのは事実で、パリSGには大きく水を開けられ、安定感のあるリヨンにも遠く及ばないのが現状だ。

 そんなときに壮大な構想をぶち上げられても……。相互理解の欠如が、問題を長引かせる危険は大いにある」

 元々の失策(クラブの身売りを巡るゴタゴタ)に端を発する不安定な状況が、絶望的なまでに動きのないメルカートと、プレシーズンマッチの悲惨な結果――3部リーグのアクリングトンに1対2、レンジャーズに0対4――を引き起こした。クラブは様々な失策を犯し続け、批判の高まりとともにサポーターは年間シートを更新する意欲を失っていった。

新戦力よりもUber Eatsを優先?

 エイローは今季最初の記者会見で、スポーツ面でのあらゆる不安への疑問には何も答えず、ユニフォームの胸スポンサーにウーバーイーツ(Uber Eats)がついたことを誇らしげに語った。だが、シャツにプリントされた緑のロゴマークは、ファンの大きな怒りを誘発しただけだった。

 かつてのGKだったジェローム・アロンゾはこう述べている。

「サポーターをそんな風に扱うなど論外だ。会見では誰もが真摯な答えを期待していた。新戦力の名前や、何か目新しい補強が発表されるのを。だがエイローは、新しいスポンサーについて語ることを優先した。あれには誰もが呆れかえった」

 具体的な怒りの爆発があったわけではない。だが、兆しはそこここに感じられる。パスカル・オルメタ(元GK)はシーズン前の悲観的な状況を詳細に分析したうえでこう語った。

「いったい何を我慢しなければならないのか? 彼ら(クラブ首脳)が犯した愚かな過ちにか? おためごかしはもうたくさんだ。彼らはやるべきことを過小評価したか、構築のやり方を知らなかった。何の役にも立たない人間を採用するのをがいい加減に止めるべきだ」

優秀な実業家なのは間違いないが。

 クラブ首脳たちは、構築すべきものの規模を誤ったのだろう。マルセイユではすべての時制をひとつに盛り込まねばならない。過去と現在、未来を同時に保証しなければ人々は納得しない。

「ここでの最大の問題は時間だ」と、エクサンプロバンス大学でスポーツマネジメントの教鞭をとり、スポーツマーケティングのコンサルタントでもあるリオネル・マルテーズ教授は言う。

「ビジネスとスポーツの両面において有能であり、同時に優れた政治人脈を持たなければOMの幹部にはなれない。限られた時間を有効に活用するためには、そうした人物の周囲に有効な関係を構築するしかないんだ。エイローはまだ完全に顔が利くわけではないが、効果的な政治人脈を築きあげた。

 彼にビジネスの手腕があるのは間違いない。クラブ再生のために、(本拠地の)ベロドロームの改修を含む多くの試みが企てられ実現した。彼が実業家として優れているのは疑いないが、クラブを効率的に継承するためには有能なマネージャーであることも求められる。さもないとすべてが破綻する恐れがある」

 自ら望んだとはいえ、エイローはただ1人で改革の最前線に立っている。

 フランク・マッコート(現オーナー)は当初こそ資金を投入したものの、ファイナンシャル・フェアプレー実現の力にはならなかった。またスポーツ面では、彼はガルシア(前監督)=スビサレッタ(スポーティングディレクター)のコンビから十分な協力を得られなかった。

 前者は不十分な戦力から最大限を引き出すことにのみ情熱を傾け、後者はその謙虚な性格ばかりが目立つのだった。ふたりとは性格が異なるビラスボアスとは、協力関係を深められるだろう。エイローが必要とするのは、彼の負担を軽減し広範な人脈を持ち全体に目配せができるマネージャーであり、ピッチの上だけに能力が限定された監督ではない。

育成が万能の特効薬のように……。

 改革を待つ間に多くの過ちが生じた。

「ありとあらゆる過ちをわれわれは犯した」と、ローラン・クルビスは認める。

「この3年間に獲得した10数人の選手こそ最悪だった。OMは“CLのために”というお題目のもとサラリーの無駄遣いの泥沼にはまり込んでいる。ケビン・ストロートマンがその典型だが、不必要な長期契約であるばかりか将来売れる見込みがなく、本人もどこに行く気もない。

 選手を売るべきなのは明らかだが、いったい誰を売ればいいのか? 育成に力を入れるというが、パパンやドログバ、リベリー(のような存在)を明日にでも育てられるのか? もちろん育成抜きにクラブの将来はあり得ない。ただ現状は、何もかもうまくいっていないから、育成がまるで万能の特効薬のように語られている」

いったいどこに一貫性があるの?

 方向性を見失っていることが、人々の不安を掻き立てている。

「いったいどんなビジネスモデルが望ましいのか」と、リオネル・マルテーズは疑問を投げかける。

「育成ではリヨンに大きく水をあけられ、後期育成もそれに必要なスカウティング網を持たないOMは、リールとモナコの後塵を拝している。今のOMはあらゆるものが中途半端に混じりあっている」

 その半端さ加減を、あるサポーターはこう嘆いている。

「行き当たりばったりで、いったいどこに一貫性があるのか? 高いポテンシャルを持った若い選手を獲得すると言いながら、実際に交渉したのはヨーロッパでのプレー経験が一度もない29歳のダリオ・ベネデット(ボカ・ジュニオルス)だった」

 とはいえスティーブ・マンダンダやディミトリ・パイエといった経験豊富なベテランの復帰は、若手への影響を考慮すれば時間の節約にもなる。ベルナール・タピの時代にも、アラン・ジレスやジャン・ティガナが台頭する若い世代に対して同じ役割を担った。ただ、現状は、期待した教育効果はどこにも表れていない。

ビラスボアスに必要な右腕の存在。

「ヨーロッパリーグを戦ったこと(2017-18シーズンに決勝進出)でリーグの表彰台を逃し、それが状況を悪化させた」とクルビスは分析する。

 そこから今日に至る困難が始まった。エイローの改革が失敗に終わり、さらにゼロからの再出発を強いられるリスクは常に存在する。

「スタートから大きくつまずくようならば、誰もビラスボアスの指揮を望まなくなるし、非難はエイローに向けられる。どこにも逃げ道などない」とアロンゾは言う。

「クラブと状況をよく知るOB――強い影響力を持ち彼の右腕となれるような人物の力が今こそ必要だ。メディアやサポーターとの日常的なコミュニケーションに長け、すべてに保証を与えられる人物だ。候補者は何人もいる。私が考えるのはアビブ・ベイエやエリック・ディメコで、彼らなら申し分のない適任者だ」

OBを起用せず凋落に抵抗できるか。

 だが、パリSGがレオナルドをGMとして復帰させたことや、またリヨンやレアル、ユーベ、バイエルン、バルサがかつての選手たちをフロントに迎え入れて成功したのとは異なり、今のOMにはクラブOBを起用する意思はない。

 それでもOMは、たとえ瀕死の状態に陥っても名門のステイタスを維持し、凋落に抵抗する力を持つことを示そうとするだろう。

「あれほど様々な過ちを犯しながら、それなりの選手たちが厳しい財政状況とベロドロームに罵声が渦巻く中、昨シーズンはリーグを5位で終えた。15位じゃないんだ」とクルビスは述べる。

「数人の補強と新監督の新しいメッセージ。覚醒する中心選手たち……。勝ち点を積み上げてトップ3に入れないと誰が言いきれるのか? 可能性があるからこそサッカーは素晴らしいんじゃないか!」

(「フランス・フットボール通信」パトリック・ソウデン = 文)