8月28日からアメリカのレイクプラシッドで開催されたジュニアGP大会のアイスダンスで、初出場した日本代表の吉田唄菜(よしだうたな)&西山真瑚(にしやましんご)が13組中6位と健闘した。15歳と17歳の2人は、今年の2月に正式にアイスダンスペアを結成したばかりの期待の新星である。

 西山は元々シングルの選手で、2017年1月からトロントのクリケットクラブに拠点をおいてブライアン・オーサーのコーチチームの指導を受け、全日本ジュニアに出場した経歴もある。その彼がアイスダンスを試す気になったのは、平昌オリンピックが終わった年にクリケットクラブのアイスダンスコーチの1人、アンドリュー・ハラムに声をかけられたのがきっかけだった。

日本のアイスダンスの未来を懸念。

「日本はまだアイスダンスでメダルを取れるレベルに到達していない、転向して良い結果を出せれば日本に貢献できるのではないか、と言われたのです」と西山。

「もともと表現することがすごく好きだったので、それをより発揮できる場所があるのなら、(アイス)ダンスをやってみようかなという気持ちになりました」

 2018年夏には、四大陸で銅メダルを手にして将来を期待されていた全日本チャンピオン、村元哉中&クリス・リードがパートナーシップを解消。日本のアイスダンスの未来を懸念する声も高まっていた。

 西山は2018年秋に腰を負傷してジャンプの練習を中断していたこともあり、日本スケート連盟にアイスダンスを試したいという意向を相談。パートナーとして紹介されたのが15歳の吉田唄菜だった。以前のパートナーと2016/2017全日本ジュニアに出場して4位になった彼女は、新しいパートナーを募集しているところだった。2019年2月から彼女もトロントのクリケットクラブに移って、2人は本格的にトレーニングを開始した。

近くで滑ることの恐怖。

 アイスダンスは初体験だった西山にとって、当初どのようなところで苦労をしたのか。
「アイスダンスを試してみて一番大変だったことは、相手と滑りを合わせること。(相手と)近くで滑ることの恐怖を克服することでした」と西山。

 一方吉田は、西山とトレーニングを開始して、すぐにポジティブな手ごたえを感じた。
「最初に組んだ時はやはり少し違和感があったのですが、もう少しこうして、と言うとすぐにできるようになった。また自分の滑りに似ていたので、滑りやすかったです」

シングルでは味わえないもの。

 もともと西山は東京で樋口豊コーチに師事していて、吉田は樋口コーチの弟子だった有川梨絵に指導を受けていた。そのためスケーティング技術の基礎が似ていたことも、助けになったという。

 現在はトレイシー・ウィルソンから、改めて基礎のスケーティングの指導を受けている。2人で滑るときにマッチしやすい、そしてスピードが出やすく、緊張した時でも安定した滑りができるようなスケーティング技術を習得中だ。

「(アイスダンスは)いきが合わないときはつらいけれど、合ったなというときはとても気持ちが良い。これはシングルでは味わえない感覚でした」と西山。初めて「うまく合ったな」と感じるまでに3、4ヶ月くらいかかった。

 もっとも現在はまだジャンプの練習の再開はできていないが、西山はアイスダンスと並行してシングル選手としての活動も続けていく予定だという。

世界が注目の『ドン・キホーテ』。

 今季のフリー『ドン・キホーテ』は、海外のプレス関係者からも絶賛されている注目のプログラムだ。振付は世界チャンピオン、パパダキス&シゼロンの指導もしているロマン・アグノエル。「クラシックバレエ風にきれいに踊るのが好き」という西山が、チャーミングにキトリを演じる吉田をうまくリードして、見ごたえのある華やかな作品に仕上がっている。

ロイヤルバレエ団プリンシパルの親戚。

 興味深いことに、英国ロイヤルバレエ団で日本人女性として吉田都以来はじめてプリンシパルに昇進し注目されている高田茜は、西山の母方の親戚にあたるという。子供のころから親しかったというほどではないが、スケートをはじめてからは連絡を取り合う機会が増え、アドバイスももらっている。高田は怪我で主演できなかったものの、ロイヤルバレエの『ドン・キホーテ』の日本公演も招待されて見ることができた。

「東京でリンクに来てもらい、動きを指導してもらったこともありました。ここで滑った『ドン・キホーテ』の映像を送って見てもらおうかと思っています」と語る西山。名プリマのアドバイスを受けて、このプログラムがどのように進化していくのか楽しみだ。

羽生と同じリンクで得る刺激。

 2人を見ていて印象的だったのは、日本の若い選手に見られがちな照れが全くなく、音楽と演技に100%入り込んで表現豊かに演じていることである。だが2人とも、まだまだ満足していない。

「日本でトレーニングしていたら、(シャイなところも)まだあったかもしれないですね。でも今はカナダの選手に囲まれている環境。クリケットにはカナダのアイスダンスチームが2組いて、彼らをお手本にしています。彼らはぼくたちよりも、顔の表情も表現もずっと豊か。それに比べたら、自分たちはまだシャイかなとも思います」と西山。

 クリケットクラブでは羽生結弦、ジェイソン・ブラウン、エフゲニア・メドベデワなど、シニアのトップシングル選手もトレーニングしている。彼らを見て、学ぶことはあるのだろうか。

「羽生選手にはあまり会うことはないのですが、時々滑っていると2階で(ウォーム)アップしているところが見えるんです。練習の前でも、大会の前のような感じでしっかりアップをしている。さすがだなと思います」と吉田は語った。

目標は世界ジュニア10番以内。

 現在の日本は、シングルに比べるとアイスダンスもペアもまだ世界に後れをとっている。この現状の中で、どのような目標を掲げているのかと聞くと、西山は言葉を探しながらこう答えた。

「ぼくたちの力だけでできるかどうかはわかりませんが、男子シングルも高橋大輔選手、羽生結弦選手のような選手たちが強くなって、結果を出してくれたおかげで人気が出てきた。自分たちもどこまでいけるかわからないけれど、世界で頑張っているということを少しでも多くの人たちに知ってもらいたい。それでダンスをやろうかなという子供たちが少しでも増えたらいいなと思います」

 そして吉田が、「それと日本ではアイスダンスができる環境が限られているので、もっと場所が増えていったらよいなと思っています」と付け加えた。

 今季の目標は、「世界ジュニアに出場して、10番以内になること」と吉田が口にした。世界ジュニアまではあと半年ほど準備期間がある。急成長中の彼らなら、十分可能なのではないか。

「2人は新時代をもたらす」

 2人を指導するトレイシー・ウィルソンは、「彼らの短期間でのここまでの成長は、私の予想を大幅に上回りました。彼らはまだ組み始めて半年なんて、信じられますか?」と手放しで絶賛する。

「2人とも表現力にとても良いものを持っている。そしてアイスダンスに必要な、相手との息の合わせ方を短期間で身に着けました。これはなかなか教えられることではないんです」

 2人の未来の展望は良いでしょうか、と聞くと「グッドではなくてグレイトよ!」と言葉に力を込めた。「彼らなら、日本にアイスダンスの新しい時代をもたらすこともできると思います。とても、楽しみにしているの!」

 日本では一般にまだまだなじみの薄いアイスダンスだが、彼らの活躍によって今後国内でももっと注目されていくことを期待したい。

(「フィギュアスケート、氷上の華」田村明子 = 文)