9月2日午後、渦中のネイマールがブラジル代表(セレソン)が宿舎とするマイアミ市内のホテルに姿を現わした。セレソンは、6日にマイアミでコロンビア代表と、10日にロサンゼルスでペルー代表と強化試合を行なうのだ。

 そのための合宿がこの日からマイアミで始まり、合流したのである。

 やや硬い表情で、代表スタッフやチームメイトらと挨拶を交わす。親友ダニエウ・アウベス(サンパウロ)の姿を見つけると、急に表情が和らぎ、固く抱き合って言葉を交わす。ここで初めて笑顔がこぼれた。

 この日の夕方、セレソンは地元のマイアミ・ドルフィンズ(アメリカン・フットボール)のトレーニングセンターで初練習を行なった。

 練習前、ネイマールはドルフィンズに所属するブラジル人選手からアメリカン・フットボールのボールを渡され、薄い笑みを浮かべてキック。その表情は、切望していたバルセロナ復帰が実現しなかったショックを、懸命に押し隠しているようだった。

3カ月で揺れ動いたネイマールの身辺。

 5月25日にコパ・アメリカの準備のための代表合宿に参加してから3カ月あまり、ネイマールの身辺は激しく揺れ動いた。

 6月1日、若いブラジル人女性から「5月中旬にパリ市内のホテルで暴行された」と訴えられると、5日のカタール代表との練習試合で右足首を強く捻挫。この負傷によって、主力として活躍が期待されたコパ・アメリカ出場が不可能となった。

 その翌日には松葉杖姿でリオの警察に、13日にサンパウロの警察に出頭し、暴行疑惑に関する尋問に答えた(その後、証拠不十分で不起訴となった)。

レオナルドSDも頭を抱えた練習欠勤。

 7月中旬以降、さらにネイマールがメディアを騒がせることになる。フランス、スペイン、ブラジルのメディアでネイマールがバルセロナ復帰を願っているとの報道が盛んに流れ始めた。

 その一方でネイマール抜きのセレソンはコパ・アメリカで優勝。ブラジル国内では、「問題児がいなかったおかげで優勝できた」という声が圧倒的だった。

 7月8日、パリ・サンジェルマン(PSG)はプレシーズンの合宿を開始したが、ネイマールはブラジルに居座ったまま。スポーツ・ディレクターのレオナルド(元鹿島)は、「クラブに無断で練習参加を怠った。しかるべき処分を科す」と憤懣やるかたない表情だった。

 その中でネイマールは個人スポンサーのイベントで、「これまで、試合後のロッカールームで最も喜びを感じたのは、2017年の欧州CLラウンド・オブ16第2レグでPSGを6-1で下して勝ち上がったとき」とまで発言した。

 この2つの出来事は、「もうPSGではプレーしたくない」という意思を明確に示したものと誰もが理解した。

バルサの破格の条件をPSGが拒絶。

 それでもネイマールは1週間遅れてPSGのプレシーズンの練習に参加する。

 ただそれと並行して、PSGとネイマールの獲得を希望するクラブとの交渉が本格的に始まった。ユベントス、レアル・マドリーなどもオファーを送って状況は日々動いたが、最終的に交渉先として残ったのはバルセロナだった。

 8月30日、バルセロナは「1億3000万ユーロ(約151億円)+クロアチア代表MFイバン・ラキティッチ+フランスU-20代表CBジャン・クレール・トディボ+フランス代表FWウスマン・デンベレの1年間の期限付き移籍」をオファーしたとされる。これに、ネイマールが自ら2000万ユーロ=約23億円を上乗せした、という報道まであった。

 しかし、PSGはこれを拒絶。交渉は決裂し、9月2日の移籍期限が過ぎ、ネイマールは心ならずもPSG残留を余儀なくされた。

メッシの要望に対しての“ポーズ”?

 交渉がまとまらなかった決定的な要因は、表向きはPSGが2億2200万ユーロ(約258億円、2017年8月にネイマールを獲得するためバルセロナに払った違約金と同額)以上を要求したものの、1億2000万ユーロ(約193億円)を費やしてフランス代表FWアントワン・グリーズマンを獲得したばかりのバルセロナが資金不足だったから、とされる。

 その一方で、もともとPSGはネイマールを売る気などなかった、という見方、バルセロナ側もわずか2年前に裏口から出て行った男を本気で獲得する意思はなく、大黒柱リオネル・メッシが彼の復帰を望んだので、ポーズとして交渉をしただけ、という見方がある。

 2017年8月にネイマールがバルセロナからPSGへ移籍した際、パリでの入団会見を取材した知人のブラジル人記者がいる。彼はこんな風に笑っていた。

「ネイマールが会見場に現われるのを待ちながら、我々ブラジル人記者の間で、『これから何年、彼はパリに留まるか』という話になった。私が『せいぜい2年だろう』と言ったら、ほとんどの記者が頷いた。それが的中しかけたが、結果的に外れたな」

PSG、バルサからのしっぺ返し。

 バルセロナでメッシの陰に隠れるのを嫌って強引にPSGへ移り、またしても強引に復帰を企てた。約2カ月半、世界中の晒し物になったが、結局、大山鳴動して鼠一匹出てこなかった。

 そして、あれほど出たがっていたクラブで、当面、プレーを続けなければならない。彼にとって、キャリア最大の屈辱だ。これは、見方を変えれば、これまで散々メンツをつぶされたPSG、そしてバルセロナからの手痛いしっぺ返しと捉えることもできるだろう。

「ネイマール、出ていけ!」

 今後、ネイマールには茨の道が待ち受ける。

 まず、近年、故障を繰り返している右足首を完全に治し、コンディションを取り戻さなければならない。

そしてPSGのファンはフランスリーグ開幕戦で「ネイマール、出ていけ!」という垂れ幕を掲げ、スペイン語で罵倒している。これはフランス語を覚えようとしない背番号10への痛烈な皮肉でもある。サポーターからの敵意にも耐えなければならない。

 とりあえず、今月6日と10日の代表戦でどう振る舞い、どのようなプレーをするかで、現時点での心身のコンディションが推し量れるはずだ。

(「熱狂とカオス!魅惑の南米直送便」沢田啓明 = 文)