今年の夏も、全国高校野球大会、甲子園が盛り上がりました。

 意外に思われるかもしれませんが、実は私は「甲子園にはビジネスチャンスがある」という一元的な考え方には反対の立場です。

 もちろんあれだけ人気があるわけですから、ビジネスにすることは可能でしょう。

 でも日本の世論を考えても、甲子園をビジネス目的で語ることは許されないと思います。

 一番の大きな理由は、高校野球は教育だからです。

 もちろん、選手たちの環境を整備したり野球を普及するための原資を集める目的でお金を集めたり、ビジネス化するのはいいと思います。

 でも、「ビジネスがしたい」ならプロ野球でいいのではないでしょうか。

 もし突出した実力の選手がいるならば、すでにあるプロ野球に彼らが出られるようにする特例を認めればいいのであって、教育である高校野球を無理にビジネス化する必要はないと思っています。

 似た話で言えば、先日アメリカの『Fortnite』というゲームのeスポーツ大会で16歳が3億円の賞金を手にしてニュースになりました。これも、高校生の大会をプロ化するのではなく、プロの大会で高校生が活躍したケースでしょう。

「プロ化」の定義とは何か。

 これは、私がこのところ感じていることとつながってきます。

「日本のスポーツ関係者は、“プロ化の本当の意味”を、わかっていないのではないか」――。

 プロ化、という言葉をわかりやすく定義すれば、それは「お金と意思決定の全てが、その組織の中で回ること」です。

 これが、プロの仕事としての大原則で、リーグ全体でも、チームでも、選手でも同じです。

親会社の顔色を窺うチームが多い。

 親にいつも何でも決めてもらう選手はいないでしょう。プロは自分で考え判断します。

 親会社や学校のような外部の顔色をうかがわずに自身で全てを決められることが、本来は、プロの条件だと思います。“プロ”、ですから。

 プロとそうでない組織の違いは、軍隊と自衛隊の違いを考えるとわかりやすいです。

 これは堺屋太一さんの受け売りなのですが、軍隊は法の範囲内で自分たちで自由に意思決定するけれど、自衛隊は1つ1つの決定に政府の許可が必要になる。日本のスポーツクラブの多くが自分たちで意思決定ができず、親会社の顔色を窺い、親会社の論理の中で意思決定がなされるのと同じ関係性です。

 そう考えると日本では、プロ野球ですら全球団が本当の意味でプロとは言いづらくて、JリーグやBリーグはまだまだ親会社の存在感が大きいチームも多いですよね。

派遣された経営者、という問題点。

 ほとんどのJリーグのクラブは、社長は親会社から派遣されてくる状態です。

 Jリーグでは、スポンサー費として相場の数倍のお金を出して親会社がクラブを支えているケースも多いと聞きます。それを「自力でスポンサーを獲得した」とは言えないでしょう。

 これがなぜ問題かというと、「そのクラブの経営のために本当に最適なことは何か」を突き詰めて考えられなくなるからです。

 親会社から来た経営者は、親会社からの評価を最優先せざるを得ないし、任期も短いので長期的な視野を持つ動機づけもない。そもそも、スポーツ経営の専門家ですらないわけです。

 スポーツの会社とそうでない会社、グループ内とはいえど、会社が違えば、お客さんが違えば、必ず動く論理が違うのが会社経営です。

企業の関与が大きすぎることが根幹。

 それならば、本当にスポーツ経営に特化した経営者が、そのクラブとチームのことだけに集中できた方が成長の可能性は絶対に大きくなるというのが私の持論です。そう任せてもらえるケースがほとんどないことも分かって言ってもいますが。

 日本のスポーツ経営がなかなか本当の意味でプロフェッショナルにならないのは、企業の関与が大きすぎるからだと私は思っています。

 日本は特殊、仕方がない、と言ってしまえばそれまでになりますが、要するに、「プロ化」ということの意味が理解されていない、経営が中途半端になってしまうことが多い根幹ではないでしょうか。アメリカのMLBやNBAを考えてみてください。オーナーはいますが、オーナー会社の社名や論理が聞こえてくるクラブがどこにあるでしょうか。

親会社にとっても任せた方がプラス。

 なので、ラグビーやバレーボールで言われる「プロ化」についても正直に言えばかなり懐疑的です。

 形だけ法人として独立させたとしても、親会社から親会社のアジェンダ(意図や目的)を背負った経営者が来たり、相場をはるかに超えたスポンサー費を1社に依存している状態では、プロとは言えないでしょう。

 私がベイスターズで成功したのも、DeNAが4年間放って任せてくれたことと、DeNAの顔色を窺う必要もなく(笑)、ベイスターズの経営に邁進できたから。それがプロとして成立する条件なんです。

 そして経営的に親会社に依存しないで回るようになれば、自分たちだけで意思決定できるクラブも増えてくると思います。

 親会社にとっても本当は、経営に介在していくことよりも、プロスポーツ経営の専門家に任せて資産価値を大きくしてもらった方がプラスになるはずでしょう。

単体で利益を出せるクラブが増えてきた。

 最近は、プロ野球やJリーグ、Bリーグの中には単体で経営ができるチームが出てきましたよね。

 ベイスターズもそうですし、千葉ジェッツもそういったチームです。

 先日メルカリが買収した鹿島アントラーズも、時価総額が30億円で年間の利益が7億円というすさまじい優良プロクラブです。本当は親会社がいなくても、独立して十分成立するんです。

 日本のスポーツビジネスが大きくなることを妨げているのは、企業が企業の論理で関与しすぎて、実はそのクラブの経営にまっすぐに向き合う経営ができていないこと。

 株式保有と経営への関与がいっしょくたになっていること。

 ここを親心で切り離して、純粋にプロスポーツ経営の論理を貫くことができれば、もっともっと大きな可能性が開けてくるはずです。

(「【NSBC補講I】 池田純のスポーツビジネス補講」池田純 = 文)