明るい見通しは立ちにくい。

 それがレアル・マドリーの実情だろう。混迷が続くなか、昨季終盤に火中の栗を拾ったジネディーヌ・ジダン監督のチームには改革も世代交代もない。あるのはチャンピオンズリーグ(CL)で3連覇に貢献したグループの「延命」だ。

 事実、陣容は古株だらけ。セルタとのアウェー戦を3−1で制したリーガ開幕戦もおなじみの面々がスタメンに名を連ねた。そのうち約半数が30代だ。チームとして、すでにピークを過ぎた感は否めない。

 そうなれば、あとは下り坂。いかに転がる速度を最小限に抑えながら、タイトルを手に入れるか。それが第二次ジダン政権に課されたミッションのように映る。

総失点よりも深刻な得点数減少。

 昨季のリーガにおける最終順位は3位だが、優勝したバルセロナとの勝ち点差は実に19ポイント。仇敵にここまで引き離されたシーズンは過去に一度もない。負け数も12。バルサが3敗、2位のアトレティコでも6敗だから、負けすぎである。

 総失点46も多いが、最大のネックはそこではない。看板の得点力が極端に落ち込んだことにある。総得点はわずか63。前季と比べて31点も減ってしまえば、苦戦するのも道理だろう。

 大エースのクリスティアーノ・ロナウドを手放しながら、跡目を立てずに終わったフロントの失態にほかならない。ちなみにC・ロナウドの在籍最終年は26得点5アシスト。計31点に絡んでいた。

 いかに失われた得点を補うのか。

 ジダンの手腕をもって――では、ない。この夏、1億5000万ユーロ(約156億円)を投じてチェルシーから獲得したエデン・アザールの仕事になるだろう。

C・ロナウドにはないアザールの強み。

 背番号は7。C・ロナウドのそれを引き継いだ格好だが、ガンガン点を取るようなタイプではない。キャリアハイは16得点。昨季もそうだった。

 すでに28歳。選手として、ほぼ完成されている。急にゴールマシンへ大化けするとは考えにくい。反面、アシスト量産型としては十分に計算できる。昨季のアシスト数は15だ。イングランド・プレミアリーグで最多の数だった。

 つまり、得点とアシストの数を合算すると、計31になる。もちろん、リーガ初挑戦やチームメイトとの化学反応など考慮すべき点は少なくないものの、額面どおりに働けば数字上の問題はクリアできそうだ。

 先代とは違い、空陸自在という使い勝手の良さはない。ただ、単騎で狭いスペースを攻略できるのは大きな強みだ。自陣からの速攻はもとより、敵陣に押し込んでの遅攻でも決め手になりうる。

 昨季は戦術的縛りの多いマウリツィオ・サッリ(現ユベントス監督)との折り合いの悪さが取り沙汰されたが、新たに仕える相手は敬愛するジダンだ。それもアザールに枷をかけるような指導者ではない。神出鬼没、変幻自在に立ち回る条件は整っていると言ってもいい。

量よりも質を求められる新エース。

 ただ、数字の埋め合わせだけでは不十分かもしれない。いつ、どこで決定的な仕事をやってのけるのか。問われているのは量(数字)以上に質(中身)だろう。

 バルサとのクラシコはもとより、CLにおける大一番で勝利をもたらす働きができるかどうか。そこで沈黙すれば、容赦のない批判やブーイングを浴びかねない。重圧の大きさは従来の比ではないはずだ。

 俺がやらねば誰がやる。

 古来、そうした主役意識を持ち、雑音にも動じず、期待に応え続ける人だけが天下のマドリーのエースに君臨してきた。果たして、アザールがその器かどうか。

バランサー・カゼミーロの重要性。

 これだけでも、かなりハードルの高い話だが、片づかない問題はまだある。懸案の攻守のバランスだ。超一流のスターを取りそろえてチームをつくるマドリーの宿命的な課題と言ってもいい。

 いつの時代もバランスは前のめり。天秤にかければ、攻撃へ大きく傾くのが常だ。そこでバランサーを失えば、必ずコケる。ガラクティコス(銀河系軍団)時代はあのクロード・マケレレを手放し、崩壊へまっしぐら。CLでデシマ(10回目の優勝)を成し遂げた時代もシャビ・アロンソを売り払って破綻をきたし、カルロ・アンチェロッティ監督のクビが飛んだ。

 幸い、ジダンの手元にはカゼミーロがいる。最終ラインの手前で四方に睨みをきかせ、敵の攻撃を吸収し、進路をねじ曲げる地磁気みたいな存在だ。この人を失えば、まずチームは持たない。

 いや、カゼミーロがいても攻守のバランスはぎりぎりの状態なのだ。しかも代役がいない。フェデリコ・バルベルデは有望株と評判だが、トップレベルでの働きは未知数だ。保守的な用兵を貫くジダンにとって、信頼に足る存在ではないのだろう。

スターにも働いてもらわないと。

 今季はさらに厄介な問題が生じている。ルカ・モドリッチとトニ・クロースの代役まで見当たらないことだ。この夏、成長株のダニ・セバジョスやマルコス・ジョレンテをあっさり放出。マテオ・コバチッチが代役として重宝された一昨季と比べても、バックアップの層が薄い。

 現状ではハメス・ロドリゲスとイスコが控えの一番手。開幕戦でモドリッチが一発退場を食らい、出場停止となったバジャドリーとの第2節ではハメスを右インサイドハーフで先発させ、後半途中からはイスコにバトンを託している。

 ただ、彼らはモドリッチやクロースほど守れない。実力の拮抗したチームとの戦いでは使いにくいはずだ。そうなると、守備でも汗をかくマルコ・アセンシオとルーカス・バスケスを両翼に配し、8人で防壁を築く4-4-2へのシフト変更を、ジダンは考えるだろう。

 もっとも、アセンシオは負傷により長期離脱中の身。当面はオプションとして使えない。ならば、打てる手は1つ。攻撃陣の「働き方改革」だ。スターにも守備の局面でそれなりに働いてもらう。それがなければ、いとも簡単に風穴を開けられ、ドミノ倒しを引き起こしかねない。

何を言うか、ではなく、誰が言うか。

「素晴らしいゲーム。カギは守備をしっかりやったことだ。とくにギャレス・ベイルとビニシウスの守備の仕事が重要だった」

 セルタを一蹴した開幕戦でジダンがわざわざ両翼の2人を褒めたたえたのも、攻守のバランスを保つための生命線と踏んでいるからだろう。

 しかし「守れ」と言って、そのとおりにやってくれるなら、何の苦労もありゃしない。

 腹の底で「我こそ戦術兵器」と自負するような特殊能力者ばかり。どんなに理屈を並べたところで、素直にうなずくわけがない。頭でっかちの戦術家など一斉にそっぽを向かれるのがオチだろう。

 何を言うか。おそらく、重要なのはそこではない。誰が言うか。タレント群に耳を傾けるに値する監督だと思われなければ、説き伏せるのは至難の業だ。それも、可能な限り、個々の「表現の自由」を容認するスタンスと引き換えだろう。

焦点はジダンのカリスマ性。

 その点、ジダンには他の指導者にはない強みがあった。スター選手をも引きつけるカリスマだ。初めてマドリーの監督に就任した頃、モドリッチがこう話している。

「あのジダンが目の前で話しているんだ。誰もが彼の言葉に耳を傾けるだろう」

 だが、肝心のカリスマは現在進行形なのかどうか。

 ジダンの構想外として放出をささやかれながら残留した格好の面々をどこまで束ねられるのか。どこか浮かない表情でピッチに立つベイルの取り扱いを含め、火種はそこかしこにくすぶっている。

早くも後任候補の名前が……。

 そもそも今季の陣容がどこまで意図したものか、かなり疑わしい。締め切り時点で現地メディアが「進行中」と騒ぎ立てるネイマール獲得のオペレーションも仇敵を牽制するためのブラフかどうか。

 アザールとポジションが重なるが、そうした例は過去にもある。仮に獲得が決まれば強力な戦力になることは間違いないが、ジダンの舵取りはさらに難しくなるかもしれない。一方をベンチに置いても、共存を試みてもリスクが大きいからだ。

 ロッカールームを取り仕切る力を失えば第二次政権は延命どころか、短命に終わるだろう。ホーム開幕戦で引き分けに終わるや、後任候補としてジョゼ・モウリーニョの名前が報じられたほどだ。

 ジダンの手元に残された逆転のカードは開幕前に左足大腿直筋を痛め、まだピッチに立っていないアザールくらい。デビュー戦で「一発回答」ならば、空気がガラッと変わる可能性もあるが、さすがに負傷明けで多くを期待するのは無理筋か。

 ただ、ジダンに時間がないのも確かだろう。ホーム開幕戦の観客動員数は6万人あまり。マドリディスタ(マドリーの熱心なファン、サポーター)は、いつまでも待ってくれない。一斉に白いハンカチが振られて、時間切れ。それも十分にありうる話だ。

(「ひとりFBI ~Football Bureau of Investigation~」北條聡 = 文)