国際大会に臨むうえで、最高の心理状態とはどのようなものだろうか。

 来年の東京オリンピックのバスケットボールの会場となる、さいたまスーパーアリーナで日本代表は8月22〜25日にかけて3つの強化試合を戦った。とりわけ、24、25日の土日に行われた2試合はともに1万8000人を超える観客が集まり、期待感でアリーナが満たされていた。

「強豪国と試合ができるというのは、本当にありがたいです。良い経験が積めると思いますから」

 キャプテンの篠山竜青がそう語っていた3連戦の結果は以下の通りだ(カッコ内は、国際バスケット連盟のFIBAによるランキングで、日本は48位)

8月22日(木)
アルゼンチン戦(5位)●93−108
8月24日(土)
ドイツ戦(22位)○86−83
8月25日(日)
チュニジア戦(51位)●76−78

「80点前後の試合になる」

 もっとも、これらは8月31日に中国で開幕するワールドカップ(以下、W杯)という、大きな大会を前にした親善試合である。目的は勝つことではなく、自分たちの課題と向き合い、成長の糧にすることだ。

 実際、W杯予選のような公式戦とは異なり、相手チームの分析と対策も、試合当日の朝に取り組むくらいだったという。フリオ・ラマスHC(ヘッドコーチ)もアルゼンチン戦のあとにこう話している。

「W杯ではこのように100点の奪い合いとなるのは全体でも数試合しかなくて、ドリームチーム(アメリカ代表)や(強豪の)セルビアのゲームくらいかなと思います。我々を含め、ほかは80点前後の試合になるのかなと思います。ですので、80点以上とられないようなチームになるために、これからディフェンスを修正していかないといけない」

 相手の分析をしたうえで、しっかりとした対策をとれば、日本も相手も親善試合のときほどに点数を重ねるのは難しい。今回の強化試合はお互いが良さを出し合うなかで、試合中の修正力や対応力、チームのコンセプトの質が問われることになった。

日本が親善試合で見せた集中力。

 チームのコンセプトについては、PG(ポイントガード)の安藤誓哉の証言が興味深い。富樫勇樹の怪我というアクシデントがあったとはいえ、W杯予選では1度もメンバーにすら入れなかった安藤は、9月1日に初戦を迎える中国W杯のメンバーに入った。彼の胸にはラマスHCのこんな言葉が残っている。

「W杯では我々がどれだけ素晴らしいプレーをしたとしても、8点、9点、10点……と離されるような時間はある。それでも集中し続ける姿勢を持たないといけないんだ!」

 ラマスの発言を参考に、先の3試合を別の観点からみると以下のようになる。

 アルゼンチン戦/一時は17点のビハインドを背負ったが、3Q(クォーター)で二度の逆転に成功。

 ドイツ戦/最大12点のビハインドも、最終4Q残り1分45秒で逆転し勝利。

 チュニジア戦/篠山と八村塁がそれぞれ軽傷と疲労を考慮されて試合のメンバーからも外れたなかで、最大14点差をつけられたが、最終の4Q残り5.9秒で一度は同点に追いついた。

「自分たちのプレーを出せば」

 ラマスの発言については、渡邊雄太にも感じるところがあったという。8月2日の練習で足首を捻挫して出遅れていたものの、24日のドイツ戦ではようやく出場時間の制限もなくなったNBAプレーヤーは、チュニジア戦のあとにこう話した。

「今日は出だしがすごく悪かったので、それについては叱られたのですが、『問題は相手ではない。自分たちの出来が悪すぎるだけだから、自分たちのプレーを戻せれば、絶対にまた良い勝負ができるぞ』と試合を通してコーチは言ってくれていて。世界の強いチームに対しても自分たちのプレーを出せばよい勝負ができるというのは、この3戦を通してわかりましたし、コーチ自身もそう感じてくれているということだと思うので」

ラマスHCが求める「レジリエンス」。

 思い出されるのは、W杯出場権を獲得したタイミングでラマスHCが強調していた「レジリエンス」というキーワードだ。「(病気や苦難などから)回復する力」という意味を持つ言葉について、出場権を手にした夜にこう話していた。

「いつも勝てるとは誰も保証してくれません。そんなのはファンタジーです。忍耐力を持って、我慢して、チームを新たな方向にむかせる。高いレベルのスポーツではやはり、『レジリエンス』が絶対に必要なのです」

 ラマスはしばしば、「できない約束はしたくない」とか、「嘘はつきたくない」と口にしてきた。そんな指揮官に、この3連戦でいずれも10点以上リードされながら、逆転したり、追いつけたことの意義を問うと、こう返ってきた。

「私はこれまでのキャリアで色々なチームを見てきましたが、すべての試合に勝てると思ったら大間違いですし、負ける方が多いチームもあります。ただ、そういった状況でも、『レジリエンス』をもって、我慢をして、次の試合は勝つと信じてやり続けないといけない。それがすごく大事なことなのです」

格上との対戦となるW杯。

 中国W杯における日本のグループリーグの日程と対戦チームのFIBAランキングは以下の通りだ。

 9月1日トルコ 17位
 9月3日チェコ 24位
 9月5日アメリカ 1位

 だから、ラマスはこう話す。

「現実をしっかりみて、簡単な試合が1つもないということはしっかり認識して臨みたいと思います」

 チームをコントロールする立場のPG・篠山もアルゼンチンに敗れたあとに、謙虚にこう話していた。

「『僕らみたいなチャレンジャーのチームが気を抜いたらやられるよね』ということを今日は実感させてもらいました。僕らはチャレンジャーだっていうところを、もう一度、痛感できた感覚があります」

 チームが同じ方向をむいて、不利な状況でもあきらめずに戦っていく。それこそがW杯に挑む日本にとって大切なことである。だから、あきらめず、我慢をしながら互角の戦いに引き戻せた3試合の経験は必ず生きてくる。

謙虚さと少しの“自信”。

 渡邊が日本人で田臥勇太以来となるNBAのコートに立った。八村が、日本人として初めてドラフト1巡目で指名された。そして、中国W杯と来年の東京オリンピックの出場権を手にした。

 そんな出来事があった、2018-19シーズンのしめくくりとなる中国W杯を前に、日本を万能感が包んでいたことは否めない。

 自分たちは強いという幻想に溺れるのではなく、地に足をつけて弱者として勝つために何をすればいいのか、何をすべきかをチームが理解していることは小さくない意味があるはずだ。その認識は、地味なディフェンスに汗を流すときの、劣勢に立たされて踏ん張る際の、原動力となる。

 そして、そんな地に足のついた認識があるからこそ、少しだけ顔をのぞかせる“強気なメンタリティー”が最高のスパイスになる。

強気なスタンスを崩さない八村。

 格上ドイツを破ったあと、多くの選手が過信するのを避けるように、反省点や課題を口にしていた。その一方で、あの試合でチームトップとなる31得点を記録したうえで、こんな話をした選手がいる。

「『ドイツはどこまで本気を出していたのか?』とか言われますけど、僕らが100%の力を出せたかと言われたら、そうではないと思いますし。そういうなかでも勝ちは勝ちです。ドイツは『日本なんかに負けたくない』という気持ちでいたはず。そこで僕らが勝ったのは大きいですし、それを僕らはしっかり自信につなげたいと思います」

 ドイツ戦ではチームトップの得点に加えて、最終盤に相手のエースでありNBAプレイヤーのデニス・シュレーダーのレイアップをブロックするなど、すでに攻守の要となっている八村。彼は、日本の立場を理解したうえで、強気なスタンスを崩さない。そのスタンスは、格上のチーム相手に日本が一泡吹かせるための最後の1ピースになるかもしれない。

 謙虚でありながら、自信も持ち合わせるチーム。いよいよ始まるW杯を前に、対戦相手からすれば何とも厄介なチームに、日本がなりつつあることだけは確かである。
 

(「バスケットボールPRESS」ミムラユウスケ = 文)