FIBAワールドカップで日本と同じグループEのアメリカ代表は大会史上初の三連覇を狙う優勝候補筆頭のチームだ。

 もっとも、スーパースター級の選手の名前はなく、大会前に最も話題となっていたのは、多くの辞退者が出たことだった。

 何しろ6月10日に代表候補20人が発表されたのだが、その時点で、すでにレブロン・ジェームズ、ステフィン・カリー、ケビン・デュラント、ラッセル・ウェストブルックといったトッププレイヤーたちの名前はなく、8月に入って代表合宿が始まったときには、20人の中からさらにジェームズ・ハーデン、アンソニー・デイビス、デイミアン・リラード、ブラッドリー・ビールら10選手が辞退した。

 追加招集した中からも辞退者や故障による離脱が相次ぎ、結果的に、6月に招集された20人のうち7選手と、追加招集された5選手というチーム構成となった。

 12人中、オールスターに選ばれたことがあるのはケンバ・ウォーカー(ボストン・セルティックス)、クリス・ミドルトン、ブルック・ロペス(共にミルウォーキー・バックス)の3人だけ。小粒感は否めない。

辞退者が続出したアメリカ代表。

 果たしてどんなチームなのかを語る前に、まず、なぜこれだけ辞退が続いたのかに触れておこう。

 いくつか理由があるが、一番大きな理由だと言われているのが、ワールドカップがオリンピックの前年に開催されるようになったことだ。というのも、アメリカの選手たちにとって、「ワールドカップよりオリンピック」という意識は根強く、一方で2年連続で代表活動によって夏をつぶすことに抵抗ある選手も多いため、ワールドカップのほうを辞退したのだ。

 彼らにとって夏は次のシーズンに向けてスキルを磨き、体調を整える準備期間。契約金が高騰している分、万全の体調でシーズンを迎える責任も大きくなる。若手なら、代表活動をすることで成長することも期待できるが、ベテランになればなるほど、自分のペースで夏のトレーニング計画を組むからこそ、高いレベルを維持できているという意識は強い。

 NBA全体にロード・マネージメント(身体の負荷管理)の考え方が浸透し、選手生命を長くするためには試合数を減らすことも重要だと理解されるようになったことも一因として考えられる。

新シーズンへの準備を優先。

 さらには、今夏に大きな移籍が相次いだことも影響している。新しい土地への引っ越しや新チームに慣れることを優先した選手も多い。

 この数年、不動の王者だったゴールデンステイト・ウォリアーズが6月のNBAファイナルで敗れ、来季の優勝争いが混沌としてきただけに、自チームの優勝の可能性を感じ、新シーズンへの準備を優先した選手も多い。

 アメリカ代表の責任者、ジェリー・コランジェロは、そんな状況について、「人生とはそういうもの。私たちは時代の変化に合わせて、フレキシブルに対応しなくてはいけない」と、辞退した選手たちを批判することを避けた。

「原因を考えるよりも、前に進む必要がある。何よりも、ここにいたい(代表としてワールドカップを戦いたい)という選手たちがいる。今はそれが一番大事なこと」と前向きだ。

現時点で“実績”がなくても。

 実際、今大会でNBA選手の辞退が相次いだのはアメリカだけではなく、カナダやオーストラリアも中心選手が辞退している。そんな中で、どれだけ多くの選手が辞退しようとも、12人全員をNBA選手で揃えることができるのは、アメリカだけに許された贅沢だ。

 現時点でオールスターに選ばれたことがなくても、近い将来オールスター、場合によってはMVP級の選手に成長する可能性を秘めた選手もいる。過去にも、2010年の世界選手権では若く実績がなかった選手たちが中心となって優勝を果たしたが、当時の“実績がなかった選手たち”とはケビン・デュラント、ステフィン・カリー、ラッセル・ウェストブルック、デリック・ローズら、後にMVPを取ったスター選手たちだった。

「ここにいる若手のうち何人かにも、あのときと同じように、その実力を発揮する機会がある。エキサイティングなことだ。才能や、戦う姿勢がある。私はとても楽天的に考えている」とコランジェロは言う。

豪華コーチ陣が率いるチームの中心は?

 それでは、今回のアメリカはどんなチームなのだろうか。

 チームの中で知名度が高いのは、選手よりもコーチ陣だろう。

 サンアントニオ・スパーズを5回のNBA優勝に導き、リーグのコーチ・オブ・ザ・イヤーを3回受賞したグレッグ・ポポビッチがヘッドコーチを務め、マイケル・ジョーダンのチームメイトとしてシカゴ・ブルズの後期3連覇に貢献し、ヘッドコーチとしてもゴールデンステイト・ウォリアーズを3回の優勝に導いたスティーブ・カーがアシスタントコーチを務める。NCAAでビラノバ大を2回の全米優勝に導いたジェイ・ライトもアシスタントコーチに名を連ねている。

 選手の中では最も実績があるのがポイントガードのケンバ・ウォーカー(今夏にボストン・セルティックスに移籍)。オールスターに3回選ばれ、昨季はオールNBAサードチームにも選ばれている。大会前の強化試合4試合の平均得点(17.0)はチーム最多。彼と若手の成長株、ドノバン・ミッチェルが攻撃の中心となる。

有望選手に、適材適所のメンバー選考。

 FIBAの大会でフル代表のユニフォームを着たことがあるのは、ハリソン・バーンズとメイソン・プラムリーの2人だけだが、実はジュニア世代で世界を相手に戦った経験を持つ選手は多い。

 中でも、ジェイソン・テイタム(セルティックス)は、U17世界選手権では八村塁率いる日本代表とも対戦し、そのU17とU19で世界大会優勝を果たしている。今大会が終わる頃にはチームのベストプレイヤーとなるだけの素質を持ったオールラウンド選手だ。ウォーカー、テイタム、マーカス・スマート、ジェイレン・ブラウンと、同じセルティックスから4選手揃っているところも注目点だ。

 スターやスター候補ばかり集めたわけではなく、シューターのジョー・ハリスやポイントガードのデリック・ホワイトといった、ドラフト下位指名ながら、チームで必要とするスキルをもった選手が加えられているところにも、しっかりしたチーム作りの方針があることがうかがえる。

スタッフ増員、急ピッチなチーム作り。

 アメリカにとって、一番の問題は時間との戦いだろう。同じようなメンバーで長年戦っている他国と比べると、チーム作りの面では遅れを取っている。ワールドカップ予選もまったく別のチームで戦っており、チームとしての活動が始まったのは8月5日。準備期間1カ月にもならず本番を迎えるため、短期間の早回しでチーム作りを進めなくてはいけない。

 8月半ば、キャンプが始まって2週間目に入った頃に、カーに短期間でのチーム作りのコツについて聞いたところ、キャンプ中のスタッフ増員をその一例としてあげた。

「私たちは最初から多くのスタッフを用いた。NBAのキャンプの倍ぐらいの人数だ。時間がないから、とにかく選手たちに対して情報を詰め込んでいった。選手たちはそれをうまく吸収してくれている。今はまだ少し考えているけれど、無意識でプレーできるところまで持っていきたい。このグループなら、学んだことをコート上で発揮できると信頼している」とカーは語った。

「均等にバランスがとれたチーム」

 デュラントやコービー・ブライアントのような、どんな状況からでも点を取れる選手がいない現チームでは、堅守とバランスのいい攻撃がチームのアイデンティティになると、カーは言う。練習では、あらかじめ決められたセットプレーと流れから選手たちが判断しての攻撃の両方を導入し、チームに何が合うかを試しながら、大会に近づくにつれて削っていくやり方を取るのだという。

「オールスター選手もいるけれど、全体としては均等にバランスがとれたチームだ。だから、守り、共にうまくプレーし、外れたシュートを追い、相手を止め、トランジションで点を取る。

 今はまずすべてを導入して、このグループでうまくできるかを試しているところだ。大会が近づいたら、オフェンスを削っていき、うまくできるとわかっているオフェンスを中心にやるようになると思う」

ポポビッチHC「お互いに惚れることだ」

 スパーズでは長年かけてじっくりチームを熟成させてきたポポビッチは、いつもとは違う短期間でのチーム作りに、やりがいを感じているという。

「何がこのチームにあっているのか、短い時間で見つけ出さなくてはいけない。でも、そのチャレンジが楽しいんだ」

 期間が短いからこそ、練習時間と同じく大事なのは食事の時間なのだと、ポポビッチは強調する。

「みんなで食事に行き、コートを離れたところで時間を過ごし、家族のことなどについても知る時間は大事だ。このチームでは、NBAチームの仲間ほどお互いの妻や彼女、子供のことを知らないからね。電話(スマートフォン)を持たずに食事に行き、お互いについて質問を投げかける。短い時間だけれど、そうやって仲間のことを知る段階をすっ飛ばすわけにはいかない」

 ポポビッチ流に言い換えれば、それは、チームの仲間に愛情を持つことだと言う。

「お互いに惚れることだ。そうすることで、お互いに対して責任を感じ、お互いを頼ることができるようになる。それができれば、世界一の才能が揃わなくても問題ない」

(「日々是バスケ」宮地陽子 = 文)