現地時間8月21日、イギリス・ヨーク競馬場でインターナショナルS(GI)が行われ、日本から挑戦したシュヴァルグラン(牡7歳、栗東・友道康夫厩舎)は8着に敗れた。

 一昨年のジャパンC(GI)の覇者、シュヴァルグランはまず7月27日、イギリス・アスコット競馬場で行われたキングジョージVI世&クイーンエリザベスS(GI、以下、キングジョージ)に挑戦した。

「状態は良い」(友道康夫調教師)と陣営は期待したが、現在のヨーロッパ最強馬対決と言われたエネイブル(牝5歳、J・ゴスデン厩舎)とクリスタルオーシャン(牡5歳、M・スタウト厩舎)の叩き合いに加わることはできず、6着に敗れた。

「直前に降った雨で馬場がかなり柔らかくなってしまいました。ただでさえアスコット競馬場はタフなコースなのに、あの馬場状態では走り慣れていない日本馬では苦しくなるのも仕方ありません」

 手綱を取ったオイシン・マーフィー騎手はそう語るとさらに続けた。

「それでも最後まで諦めることなく走ってくれていました。さすがレベルの高い日本でGIを勝つだけの馬という片鱗は感じることができました」

インターナショナルSへの期待感。

 そもそもキングジョージはデータ的に、休み明けの馬には厳しいレース。3月のドバイ以来の実戦であったことを考慮すれば、決して悲観すべき結果ではなかったのだ。

 逆に言えば、ひと叩きされて臨んだインターナショナルSは前進が期待された。この遠征で同馬にずっと寄り添い、ジャパンC勝ち馬の面倒を見てきた大江祐輔調教助手は言った。

「キングジョージもそれなりに仕上がってはいたので、極端に上昇しているという事はありません。でも、1回使われたことがマイナスになるわけはないし、後は馬場が前回のようにならないことを願いたいです」

ひと叩きしての上昇はうかがえた。

 キングジョージでは追い切りでも本番でも跨り、今回も同様のマーフィー騎手は、レース5日前にニューマーケットでの追い切りに駆けつけて騎乗。その後、次のように語った。

「反応が良かったし、動きそのものもスムーズでした。こちら(イギリス)での走りに慣れてきている印象を受けました。もちろん、期待しています」

 鞍上の言葉からは、ひと叩きされての上昇を感じていることがうかがえた。

 馬運車で約3時間かけて、レース前夜にニューマーケットから決戦の地となるヨーク競馬場へ移動。レース当日は午前7時に馬房を出て装鞍所からパドックをスクーリング。さすがにゴール前の直線の下見は許されなかった本馬場だが、向こう正面への入場許可をもらい、大江調教助手を背にキャンターで流した。

 前日、そして当日と雨は落ちなかったこともあり、大江調教助手は「馬場は良い」と感じていた。

緩い流れになってしまう不運。

 ここまではまずまず思惑通りにコトは運んでいた。週末の日本での競馬を終えて現地入りした友道調教師は、それでも慎重に不安要素もまじえた言葉を口にした。

「デキは良いし、馬場状態もキングジョージとは違い良さそうです。 平坦な競馬場に替わるのも好材料でしょう。あと心配があるとすれば、距離ですね。やはり2400メートル以上の方が向く馬なので、2000メートルくらいの距離になる点がどうか。そういう意味ではある程度流れてスタミナやパワーの問われる競馬になってくれれば良いのですが……」

 インターナショナルSは10ハロン56ヤード。1ハロンを201.168メートル、1ヤードを0.9144メートルで計算すると約2062.8864メートル。この距離がシュヴァルグランには少し短いのではないか、と危惧したのだ。

 結果的には残念ながらそんな不安が的中してしまう。9頭立てとなったこのレースはヨーロッパの大レースとしては珍しく、ペースメーカーが不在。スピードに優るサーカスマキシマスが予想通り逃げる形となったが、距離適性が未知数の同馬のペースはスロー。好スタートを切りながらも挟まれるような形で後方からの競馬になってしまったシュヴァルグランにとっては歓迎し難い、緩い流れになってしまった。

鞍上のマーフィーも悔しがった。

 これが結果にも大きく影響した。結果から言うと道中2番手から一度は早目に抜け出したクリスタルオーシャンが2着に粘り、同じく3~4番手にいたジャパン(牡3歳、A・オブライエン厩舎)とエラーカム(牡4歳、M・ジョンストン厩舎)が、それぞれ1、3着。上がりが速く、前残りの競馬となったため、シュヴァルグランはブービーの8着に沈んでしまった。

「一度は前との差を詰める素振りを見せてくれたし、シュヴァルグラン自身、最後まで止まってはいないのですが、周囲の馬がそれ以上に止まりませんでした」

 マーフィー騎手は悔しそうな表情でそう語り、奇しくも不安が的中する形になってしまった友道調教師は次のように言った。

「距離が短い分、もう少しパワーを要する競馬になって欲しかったけど、スローで上がりの競馬になってしまいました。こういう流れだとシュヴァルグランには向かなかったです」

 それでも気を取り直すように続けて言った。

「ただ状態は良かったし、思った通りの仕上げはできたと思います。今回は結果を残せなかったけど、この経験をまた次以降の遠征の時に生かしたいです」

英国に行ったからこそ分かること。

 負けたからといってこの遠征そのものが失敗というわけではない。現地に行かなければ分からなかったことは山のようにあったはずだ。

 例えばこの夏のイギリスは、異常気象といわれるくらい、一時期気温が上昇した。これには大江調教助手が日本から持ち込んだ大型の扇風機が大活躍する形となったのだが、これこそ友道厩舎の過去の遠征経験が生きた一例であった。

 マカヒキで凱旋門賞に挑戦した際、現地には大型の扇風機がなかったため、普通の扇風機を購入後、工作よろしく馬房から顔を出す馬に風をあてられるように細工した。今回はそんな苦労をしないで済むように、最初から大型のそれを持ち込んだのだ。

シュヴァルグランの物語は続く。

 ニューマーケットの数ある調教場を実際に経験したことも大きかっただろう。

 今回は勝利という結果につながらなかったものの、いずれこのシュヴァルグランの挑戦が生きる日が来ることを信じたい。

 それがまた佐々木主浩オーナーの馬であったり、シュヴァルグランのきょうだいや、きょうだいの仔達での遠征であったりすれば、素敵なドラマになることだろう。

 レースの翌朝には早々に帰国の途についたシュヴァルグランだが、彼等の物語はまだ終わっていないのだ。

(「競馬PRESS」平松さとし = 文)