「前回はついていく立場だったんですけど、今回はひっぱる立場に変わった。前は自分の仕事にしか意識がいっていなかったので、アウェイの観客の雰囲気も大したことないなと思っていたんですけど、今回は全体を見ながらプレーできていたので、前回よりもアウェイの感じをとても強く感じました」

 2年前、2017年5月にも三竿健斗はここ、広州天河体育中心体育場のピッチに立っている。ACLラウンド16での戦いだった。2017年の三竿は鹿島でやっとレギュラーポジションを獲得することになるが、シーズンが始まって間もない5月で、自分のプレーに集中し、なんとかチームについて行くことしかできなかったのかもしれない。真っ赤に染まった4万人近い大観衆のプレッシャーを感じる余裕もなかったのだろう。

 しかし、2年が経った2019年8月28日の広州恒大戦。再びそこに立った三竿は、ピンチの芽を摘み、チャンスを窺いながらも、敵の侵入に目を光らせた。コンパクトに保つため後ろと前、左右のバランスにも注力している。ときにはいわゆるプロフェッショナルファールで敵の攻撃を寸断したが、イエローカードは出なかった。

気温33度のなか、給水タイムはなし。

「常に近くにレフリーがいるので、うまくコミュニケーションをとっていた」

 三竿は幼少期をアメリカで過ごしている。ACLでは英語でコミュニケーションをはかった。

 そのようにして、CBの犬飼智也とも話し合いながら、「ゼロで抑える」というミッションを果たした。

 気温33度、高い湿度のなか、日本であれば当然設けられている給水タイムもなかった。スタジアムはまるでサウナのようだった。「この夏一番の暑さ」と現地の人が語っていた。そういう状況のなかで、0-0で試合を終えた。アウェイゴールは奪えなかった。シュートチャンスはあったけれど、バルセロナにも所属したパウリーニョは相変わらず、嫌な選手だった。

2年前も先発したのは3選手のみ。

 三竿は試合をこう振り返った。

「パウリーニョをフリーにしちゃいけない。サイドへ展開したあとに、必ず一番危険なところに入ってくるから。でもそこは分析結果をもとに、みんなが注意していたところ。最後まで、しっかりとマークにつけていた。あとは真ん中をあけないということにも注意しました。だけど、結局、個々の戦いで負けていなかったのが大きいと思います。サッカーではそこが一番大事だし、戦術があっても、個のところでやられちゃうと、意味がないので。その部分では(小泉)慶くんだったり、(チョン・)スンヒョンだったり、後ろの選手が強く戦えていた」
 
 2年前、ここで先発出場した選手のうち、2年後の2019年も先発したのは、三竿を含めて、土居聖真、クォン・スンテの3名しかいない。この日の先発メンバーは、スンテ、小泉、スンヒョン、犬飼、町田浩樹、レオ・シルバ、三竿、セルジーニョ、白崎凌兵、土居、伊藤翔。この2年間で、いかに鹿島の選手が入れ替わったかがわかるだろう。この夏をとってみても3人の選手を海外へ送り出し、金森健志は鳥栖へ移籍した。そして、法政大から上田綺世、柏から小泉、名古屋から相馬勇紀を獲得した。

「その想いを裏切りたくない」

 小泉は「柏で試合に出られなかった僕を拾ってもらえた。その想いを裏切りたくない」と加入から間もないなかで先発起用され、勝利に貢献した横浜F・マリノス戦後に語っている。

 このマリノス戦では途中出場の上田が決勝弾を決め、続く大分戦では、相馬が得点を挙げている。相馬もまた名古屋で出番を失っていた選手だった。

 以前、鈴木満強化部長が「選手を育てていくというやり方は今後も変わりはないけれど、選手が海外へ移籍するタイミングが非常に早くなった。イチから育てていくというのでは、間に合わないこともあるかもしれない。そこは補強獲得という形でやっていくしかない」と話していた。三竿もその一人。そして、前出した先発メンバーの顔ぶれを見ても、土居と町田というユース出身者以外、「新卒加入」の選手はいない。

アントラーズの「新たな武器」。

 移籍加入した選手がいち早くチームに溶け込み選手層に厚みをもたらす──。これは鹿島アントラーズの新たな武器だと感じる。

 かつては他クラブから選手を獲得したものの、戦力として定着できず、鹿島を去ったという例も少なからず存在した。当時と今との大きな違いは、けが人などの事情もあり、獲得した戦力をすぐに使わざるを得ない状況ということがある。前の所属チームで出場時間が短く、試合勘や連携への不安があっても、新戦力でまずは目の前の問題を解決しなければならない。そしてもうひとつ、「試合で起用することが、(チームの)融合や成長を促す」と大岩剛監督が思っているから、というのもあるだろう。逆に以前から所属していた選手はチャンスを失うことになるが、それを発奮材料にしてほしいとも監督は考えているはずだ。

 また、これだけ移籍加入選手が増えると、迎える側も加入組との絶妙な距離感を生み出すことができるのだと思う。「加入組」だった以前の自分に立ち返れば、後から来た新戦力の気持ちもわかる。

コミュニケーションをとる意識を徹底。

「しゃべって、しゃべって」

 鹿島での練習中、羽田憲司コーチが途切れることなく、何度もそう繰り返していたことがある。周りのチームメイトと言葉を交わしてコミュニケーションをとり、プレーする。その意識を徹底していた。

 広州の攻撃陣相手に奮闘した小泉の言葉と、そんな練習の風景が重なった。

「日頃のトレーニングでちゃんとコミュニケーションを取らないと、やっぱりこういう大一番でそれが試される。日々の練習というのをなめないで、ちゃんと声をかけあってやらなくちゃいけない。自分も後ろから見ている立場なので、もっと声を出さないといけないし、そこは移籍加入だからということで遠慮もいらないし、出すべきところは声を出していきたい」

広州戦では声なんて通らない。

 当然、広州戦では声なんて通らない。事前に「ここに来たらどう対処するか」をチームメイトと話し合っていたという。

「ミスがあっても、みんなでカバーし合って助け合おうとも話していた。もちろん、それは隣のスンヒョンだけでなく、健斗やセルジーニョも助けてくれた。そのうえで、グループでボールを獲るというのは意識してやれていたと思う」

 続けて小泉は「足をつり、交代してしまい申し訳ない」と反省を口にした。試合では交代がしかたがないと思えるほど、ハードワークをしていたが、それを言い訳にはしなかった。

内田篤人の先発も予想された。

 この試合、連戦での出場が続く小泉ではなく、内田篤人の先発も予想された。実際この遠征には帯同している。特に小泉は数日前のG大阪戦で、同点弾となるPKを献上していた。その心労を考慮して、とはならず、先発で起用された。

「僕はガンバ戦でやらかしたので、正直、引きずっていたところがあった。でも、選手である限りプレーでしか取り返すことはできない。ピッチで見せるしかない。今日は勝てなかったんですけれど、試合に出たことで新たな課題や反省点、改善点にも気づけた。ガンバ戦のことも無駄にしないようにしたいし。これからもっと鹿島の勝利に貢献しなくちゃいけない」

 ミスを引きずって、消極的なプレーになるのではなく、ミスの原因を分析し、この日の小泉は丁寧な対応で、同じことを繰り返さないよう細心の注意を払った。

「前半は目の前にいるから。『その向きで大丈夫か? 身体の向きを考えて!』って、何度も何度も叫んでた」

 この広州戦でベンチスタートだった内田は、前半ベンチの前でプレーすることになった町田に声をかけ続けたと笑う。本来はCBの町田は左SBで出場していたのだ。こういう小さな助けが、チームの一体感を生み出し、選手を育てるのだろう。

「ホームでは絶対の自信がある」

「今日の試合でより一体感が増すと思う。ホームでは絶対の自信があるから」

 三竿はそう語り、この日の記者対応を終えた。

「シャルケのときもファーストレグはアウェイでなんとか耐えて、ホームでの第2戦はサポーターのあと押しで、勝つ……という試合が結構あったんだよね」

 内田篤人は嬉しそうにそう振り返った。

 昨季ACL決勝トーナメントでホームはすべて勝っている。

 今季のリーグ戦でもホームでは負けが1試合のみだ。

 アウェイを0-0で終えた場合、アドバンテージは広州にあるという見方もできる。ただそれは、鹿島のホームで点を取り合ってのドローだった場合だ。

「とにかく勝てばいい」「勝つしかない」

 潔い思いでその試合を迎えられそうだ。

(「JリーグPRESS」寺野典子 = 文)